SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第41回 私と「私」
公開日:2024/11/27
ただこれは案外忙しく、私が「私」に優しくしてあげないといけない時なんかは、もう本当にてんてこ舞いになってしまう。そんな時は決まって一人になる。近所を散歩したり、公園で本を読んだり、コーヒーを買って家で映画を観たりする。するとやがて私は「私」を(いや、「私」が私をかもしれないが)慣らして、外と順応できる状態に緩やかに戻していくことが出来る。
そうなれば人と会えるし、いつものように話も出来る。日常が日常然として、勝手知ったる馴染みのある時間が流れるようになるのだ。
稀にやってくるそんな時にふと思う、もはや「私」以外の他の誰かが入り込む余地がないかもしれない、と。私は「私」で割と精一杯なんだけど、って。
そして実に困ったことにてんてこ舞いになる頻度が多いのだ。規則性もない。予兆を感じる時もあるのだが、突発的な時の方が多い。生きるのが苦しいなんて大袈裟なものではないのだが、指先を怪我している程度の若干の支障は感じる。
だからそんな時、「いやア、参ったよ」と嘯(うそぶ)く友人の表情がよく浮かび、え、待ってあいつ誰かと隣り合わせで生きてるってすごくね? ってびっくりしたりするのだ。
他人は他人で、自分は自分。当たり前だが自分以外は他人の世界で、私と「私」とが誰かと隣り合わせで歩く姿がマジで想像出来ない。もしかしたら重大な欠損を抱えているのかもみたいな気持ちにもなるが、きっとこれは大なり小なり人にはあり、特に私はそれが「大」のタイプなんだろうってくらいに思ってはいるのだが。
人の数だけ、人の考えがあるので、ピッタリ同じはあり得ない。なので、まアこれが自分っすわアくらいの心持ちではいる。きっと私が感じている幸せは、他人にとってはハナクソくらいのものである場合もあるだろうし、不幸だと他人から聞かされた話に私の心が微塵も動かないことだってある。ね、本当に全然違うのだ。世間で一般的だと言われる価値観はあくまで統計だから、その人にはその人の生き方、感じ方ってきっとある。言い訳でなく現実的に。だからこの話はマジでどうってことないのだが、でもでも、私だけのこんな心持ちに「私」が賛同しているというところ、もうなんていうか手に負えなくて面倒臭いよまったくウ、って話。
こんな私でもSUPER BEAVERのメンバーともう二十年近くいるんだからすごいよね。私ってかメンバーが、ね。
なんだかんだいい歳になり、周りは結婚だなんだを通り過ぎ、子供の話なんかをしている。もちろん私にはそんな話ができないので黙っているが、家では「いやア、参ったよ」なんて言いながら頭を掻いて、溢したコーヒーを拭いたりしている。
将来の夢は綺麗なお嫁さんをもらうことです。あ、「綺麗な」とかいうとルッキズム云々めんどくさいから無視してください、って私じゃなくて「私」が言ってます。

しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。2025年4月に結成20周年を迎え、SUPER BEAVER 自主企画「現場至上主義 2025」を4月5日、6日にさいたまスーパーアリーナで行い、さらに、6月20日、21日に自身最大規模となるZOZOマリンスタジアムにてライブを行うことが決定。
自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中