川谷絵音のエッセイ連載「持っている人」/第3回「上田さんの一言」

小説・エッセイ

公開日:2024/12/20

「え、待って? これウイイレやん‼」

 は? ウイイレ? 上田さんは何を言ってるんだ? まだ喜びきってないぞ。勝利の舞いの真骨頂はこれからだというのに。

「マジやん……。ウイイレやん……。ウイニングイレブン!僕らウイイレ見てたんですよ……!」

 上田さんが叫んでいる。

 言ってる意味がわからない。ウイニングイレブンはよく知っている。学生時代よくやったサッカーゲームだ。それを見ていた? いや、ワールドカップの生配信を見てたんでしょ? 僕らを笑わそうとしてるのか? だとしたら全然面白くないぞ?

「上田さん? 何言ってるんすか? ちょっと貸してください」

 そう言って僕はスマホを取って顔に近づけた。画面には決勝ゴールのリプレイ映像の寄りが流れている。

「ウイイレやん……」

 どう見てもウイイレだった。学生時代によくやったあのウイニングイレブンだ。人がカクカクしているし、顔も身体の作りも粗い。よく考えたらドイツの選手の走り方は異常だった。100mを5秒くらいで走るスピードだった。ドイツは強いという固定観念にも似た妄想は僕らの判断能力を低下させていた。

 でもなぜ? この映像は何?

「これ……多分、日本ドイツ戦を裏で生で再現してる……ウイイレ配信のリンクでしたわ……」

 その上田さんの一言で呆れを通り越し、笑いが込み上げてきた。何を見せられてたんだという気持ちと何故気付かなかったんだという気持ちが掛け合わさり、お洒落な居酒屋の2階は爆笑に包まれた。笑い過ぎるくらい笑った。

 本当の日本対ドイツ戦はもう終わっており、2-1で日本が勝利していた。再現するならなんで3点目入れたんだよ。また笑った。腹筋が捻じ切れてしまいそうだった。そしてそのウイイレ生配信を6000人が見ていたらしい。絶対に僕らと同じ勘違いをしていた人が混ざってるに違いない。別次元のワールドカップで幻の3点目を目撃した6000人。これから良いことがあるに違いない。同志たちよ、幸あれ。

川谷絵音
ウイイレを見る前。ゲスの極み乙女のツアー、大阪ワンマンライブでの1枚

<第4回に続く>

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川谷絵音(かわたに・えのん)

日本のボーカリスト、ギタリスト、作詞家、作曲家、音楽プロデューサー。1988年、長崎県出身。「indigo la End」「ゲスの極み乙女」「ジェニーハイ」「ichikoro」「礼賛」のバンド5グループを掛け持ちしながら、ソロプロジェクト「独特な人」「美的計画」、休日課長率いるバンドDADARAYのプロデュース、アーティストへの楽曲提供やドラマの劇伴などのプロジェクトを行っている。