組織を勝たせるのは教育のプロ! 青森山田高校・黒田監督流マネジメント
公開日:2017/12/30

冬スポーツの代名詞と言えば“全国高校サッカー選手権大会”。近年、その選手権で全国的な知名度を高めてきたのが青森県代表の青森山田高校サッカー部である。青森県内では選手権に21大会連続出場、夏のインターハイには18年連続出場を誇る名門だ。プロ選手も多く輩出し、日本代表の柴崎岳選手も青森山田の出身である。ついに2017年は高校サッカー選手権で初優勝。今回連覇を目指している。またプロの育成組織であるJユースとの混成リーグ“高円宮杯U-18サッカーリーグ2016プレミアリーグEAST”でも優勝。チャンピオンシップも制し、高校生年代のタイトル2冠を勝ち取った。
青森山田高校のすごいところは、ハンデがありながらも強豪チームとなったことだ。本州の北端に位置する青森県の代表である青森山田は、試合のたびに遠征することになる。その年間移動距離はなんと7000キロ以上にも。これではいわゆる強豪と練習試合を組むことも行うことも大変だ。またグラウンドは1年の3分の1も雪に覆われるのだ。そして選手集めも苦労するだろう。都会の高校ではなく田舎の青森にスカウトしてくることは簡単なことではない。
これらのハンデをものともせず、プロチームの育成機関であるJユースとも互角以上に渡りあっている…。その理由を青森山田高校サッカー部監督、黒田氏自らが語っているのが『勝ち続ける組織の作り方 -青森山田高校サッカー部の名将が明かす指導・教育・育成・改革論』(黒田剛/キノブックス)だ。
ホテルマンから教師になった黒田氏は当時荒れていた青森山田高校サッカー部をたてなおし、全国トップクラスの強豪に変貌させた。本作に書いてある黒田氏の考え方とやり方は、全てのチーム、高校生には当てはまらないだろう。だが明らかな結果が2つある。ひとつはハンデがある中、高校の部活動チームの中で全国屈指の強豪になったこと。さらにプロの育成機関であるJユースチームにもひけをとらない強さを身につけていることである。
黒田氏は“高円宮杯U-18サッカーリーグ2016プレミアリーグ”を制した後
これは教育のプロとしての信念が実を結んだ結果であると結論づけている。
スカウト網が発達した現在、高いポテンシャルをもつ選手はJユースへ進んでいることが多い。プロになる夢をもったプレーヤーならば当然のことだ。けれど中学生年代のジュニアユースチームから彼ら全員が、プロになる最終段階であるユースに昇格できるわけではない。このJユースから悪く言えば落第した子供たちやそもそも中学時代にJユースに在籍すらせず、中学年代では全く有名ではない子供たちを青森山田は入学させ文字通り育ててきた。
言ってみれば非エリートの集団でもある青森山田高校は、高校1年の段階では同年代のJユースに大きく引き離されている。チーム間のレベルは圧倒的な差となるのが当然だろう。だが、そうはなっていない。大きかった差を高校3年間で縮め、追いつき、いつしか追い越している。そのメソッドこそただの“指導”ではなく“教育”であると、黒田氏は自信をもって言い切るのだ。
書籍の題名は『勝ち続ける組織の作り方』である。勝負事は水物であるが、たとえ負けても組織が消えてなくなるわけではない。勝ち続けようとする組織を継続させていく。そのグランドデザインを黒田氏は行っている。根本はもちろん人材である。ハンデを背負って前述の通り選手を教育によって成長させることだ。サッカー部内では選手に挨拶を徹底させること、リーダーになる選手を見極め自主性を高めること、選手の仲間への態度のチェック、これらは全て強いチームに必要なのだ。複数人いるコーチにもまた自主性を促し、成長させ後進の育成も意識している。そして実はいま黒田氏は青森山田中学の教頭である。中学は黒田が改革を進め、勉強のレベルを上げることを進めている。(蛇足だが青森山田中学サッカー部も年代トップレベルで、中学の全国大会を3連覇中である)。これにより青森山田のブランド力をより高めようとしているのだそうだ。
荒れていたサッカー部の指導から始まり、学校自体の組織運営にもかかわる黒田氏は教育のプロであり、勝負師のサッカー部監督であり、会社経営者である。結果を出す経営者がトップにいて、目的のための人材教育と組織づくりがしっかりしている会社であれば、結果はついてくるものだろう。青森山田が株式会社なら株価は高騰していくかもしれない。
青森山田は勝ち続ける組織であり続ける。今回の全国高校サッカー選手権大会で、そして今後も。
文=小林恭
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