「君が好き。でも君は私を好きにならないで」女子高生同士の危ういバランスから目が離せない――大ヒット百合マンガ『やがて君になる』 仲谷 鳰インタビュー
公開日:2018/2/17

(仲谷鳰/KADOKAWA)
少女たちの揺らぐ気持ちを丁寧にすくいとり、初の連載作品でありながら累計50万部を突破した『やがて君になる』。
〝好き〟という気持ちを知らない少女と、そんな彼女だからこそ好きになった先輩。一筋縄ではいかないふたりの関係性、作品に込めたメッセージについて、作者の仲谷さんにうかがった。
■「恋愛をするのが当たり前」という前提に違和感が
仲谷鳰さん(以下、仲谷)「子どもの頃から山岸凉子先生、萩尾望都先生の作品に触れ、中性的なキャラクターや性別の垣根を越えた関係性に親しんできました。女の子同士のカップリングが好きだと自覚したきっかけは、高河ゆん先生の『LOVELESS』。好みのカップリングは、“面倒くさい子”と、“それを助ける子”の組み合わせ、でしょうか」
――2015年に連載が始まった『やがて君になる』も、まさに“面倒くさい子”と“それを助ける子”の百合マンガ。初の連載作品ながら、瞬く間に多くのファンを獲得した。
主軸となるのは、高校1年生の小糸侑とその先輩・七海燈子の関係性。侑は、人に恋する気持ちがわからない。一方燈子は、ある事情から他人の想いを受け入れられずにいる。誰のことも特別に思わない侑だからこそ、燈子は彼女に恋をする。「侑が好き。でも侑は私を好きにならないで」。危ういバランスで成り立つふたりの関係は、どこへ向かうのか。瑞々しくも繊細な王道の百合マンガながら、〝好き〟という感情をあらためて問い直し、読み手の恋愛観に揺さぶりをかけてくる。
仲谷「もともと私は、恋愛マンガを読むのが苦手なほうなんです。『恋愛をするのが当たり前』『恋愛って素晴らしい』という前提に立って話が進むことに違和感を覚えてしまうので。この人を好きになるのか、恋愛するのかという選択から始まる話のほうが好きですし、自分でもそういう作品を描きたいと思っています。百合というジャンルは女の子同士ということもあって、恋愛に至る前の葛藤を描きやすいんですね。『やがて君になる』は、百合の王道とも変わり種とも言われますが、『これが私にとっての百合です!』というものを提示したつもりです」
――恋をするのが当たり前じゃなくてもいい。自分の感情を丁寧に扱ってもいい。作品からは、そんなメッセージも伝わってくる。
仲谷「『こういう生き方、考え方があってもいいんだよ』『こうあるべきという姿にとらわれなくてもいいよ』というメッセージは、意識して入れています。実生活では、妥協して折り合いをつけなければいけないこともたくさんあります。でも、物語の中ではいろいろな生き方を認めて、赦されたような気持ちを味わってほしいので」


■百合は私の可能性を広げてくれる
――その一方で、侑のことが好きでたまらない燈子のかわいらしさ、そんな燈子に恋する生徒会副会長の沙弥香の切なさなど、百合の甘酸っぱさも味わえる。
仲谷「あまりにも不安な関係だと読むのがつらいので、キスやいちゃいちゃを入れてバランスを取っています。燈子は優等生のようでいて、素は子どもっぽいし、好きになったら一直線。面倒くさい人ですが、『でもかわいいから許せる』と思っていただけたらうれしいです」
――1月には、5巻が発売されたばかり。6巻からは、長らく準備を進めてきた文化祭の幕が上がる。
仲谷「全体の6~7割まできました。もうすぐ終わるんじゃないかと言われていますが、もう少し続きます(笑)。自分のことが嫌いな燈子が、侑によって変わるのか……。その辺りを描いていきます」
――最後に、仲谷さんが考える百合の楽しみ方をうかがった。
仲谷「百合にもいろいろなタイプの作品があり、ひとつにはくくれません。ですから百合マンガを読んでみようと思ったら、いくつかの作品を読んでほしいと思います。百合の解釈も人によって違いますが、私に関して言えば百合というジャンルだからこそ恋愛マンガを描くことができました。限定された狭いジャンルのようですが、私にとっては可能性を広げてくれるもの。ぜひご自身の興味のある作品を見つけてください」


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取材・文=野本由起
(c)仲谷 鳰/KADOKAWA