『ダ・ヴィンチ』2018年4月号「今月のプラチナ本」は、益田ミリ『永遠のおでかけ』
公開日:2018/3/6

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?
『永遠のおでかけ』
●あらすじ●
末期がんの宣告を受け、余命6カ月といわれた父。
いつもどおりの生活と共に、父、母、妹との、家族の時間が綴られる20編。
やがて父は旅立っていき――。
「大切な人の死」をめぐる日々を描く、全書き下ろしエッセイ集。
ますだ・みり●1969年大阪府生まれ。イラストレーター。『今日の人生』『美しいものを見に行くツアーひとり参加』『沢村さん家のこんな毎日』『こはる日記』『僕の姉ちゃん』『泣き虫チエ子さん』など著書多数。絵本『はやくはやくっていわないで』(共著)で第58回産経児童出版文化賞を受賞。「すーちゃん」シリーズは2012年に映画化された。
- 益田ミリ
毎日新聞出版 1300円(税別)
写真=首藤幹夫
編集部寸評
「いた」ことをわたしは知っている
ミリさんの本は、本当の気持ちが、静かに書いてある。それを声高に主張したり、誰かにぶつけたりしない。悲しみも怒りも喜びも簡単に吐き出さず、まるで磨くようにじっくりと思い出し、自分のものにしていく。父の死を巡るエッセイ=本書でも、そうだ。「父がお金を払う姿が好きだった。ケチくさいところがなく、レジの人にもいつも丁寧だった」「小さな部品が、少しずつ外れていくみたいに、父の調子が悪くなっている」「柿を食べ終え、父はゆっくりとベッドに横になった。この父が、わたしには最後の生きている父の姿になった」。記憶は磨き上げられ、言葉として刻まれる。だから、「大切な人がこの世界から失われてしまったとしても、「いた」ことをわたしは知っている」。自分も遠からず父母を送る年齢になってきて、この「知っている」感覚を、自らの内に持ちたいと思った。
関口靖彦 本誌編集長。そう言っておいて私のほうが先に死ぬ可能性もあるわけですが。死について考える/受け止めるわれわれは食べて生きているので、本書でもさまざまな食事が描かれています。
さりげない正直さに打たれる
『永遠のおでかけ』ってすごく素敵なタイトルだと思った。「おでかけ」──そう考えられたら、別れにも多少前向きでいられる。益田さんの著書のタイトルで驚いたといえば、『どうしても嫌いな人』。誰しも嫌いな人の1人や2人はいる。でも、そうした自分のネガティブな感情はできれば隠したいはずだ。フィクションとはいえ、それを題名にして正面から向き合う益田さんの姿勢に勇気と本気を感じた。そうした正直さは『永遠のおでかけ』にも流れている。自己啓発本を買うことがあるというくだりに「強い心になって、傷つかずに生きたいのである。しかし、何冊読んだところで相変わらずずたずたに傷つき」とあって、穏やかでときに鋭い独特な筆致には日常の中で飲み込んできたいろいろな感情が織り込まれていることを知る。シンプルな文章に涙してしまうのは行間の深さに秘密があるのかもしれない。
稲子美砂 最近、意図的に脚本家や演出家の方に取材させていただいているのだが、物語の作り方から、描きたい世界、役者に求めるものなどが、実に様々。作品を観る視点が広がって楽しい。役得です。
別れは日常の中にあるんですね
益田さんが迎えた「大切な人の死」をめぐる物語。桜を見にいけばよかった……、ケンタッキーフライドチキンくらい買ってくればよかった……。益田さんの小さな後悔を読んで、これが日常であり、これから私も迎えるであろういくつかの「大切な人の死」の際も、同じようなことが起こるだろうなと、思ってしまった。ただ私の両親は幸いなことに健在で、あげく私よりも何倍も体力があるので、まずは彼らを悲しませることのないよう、自分の体調管理が最優先かもしれない……。
鎌野静華 夏に甘いコンデンスミルク入りの冷たいベトナムコーヒーはもちろんおいしい。でも温かいのもおいしいな、と最近インスタントの商品にハマり中。
あなたの大切な人がなくならないように
この人を失いたくない。そう思ったときから、死が怖くなった。だからこの本は、私のお守りになる。大切な人を亡くした作者は、心の移ろいを刻み込むように記憶し、言葉にして紡いで見せる。死は誰よりもまず死者のものである、と前置きしながらも。そんな作者の有り様が、美しいと思った。死者について語る、その中で生と死がもたらす断絶はゆるやかになっていく。大切な人が好きだった食べ物が美味しいのは、彼らが生きた証だ。それだけで私たちはつながっていられるのだと思った。
川戸崇央 『ラブライブ!サンシャイン!!』特集を担当。堕天したい。「トロイカ学習帳」は『おらおらでひとりいぐも』を入口にシニアがテーマ。後半は赤面必至。
読後、すぐに新幹線のチケットを取る
関西弁のお父様が、自分とすっかり被ってしまう。私の実家も関西で、父は過去に癌で「ステージ4」と診断された(奇跡的に手術が出来、今も健在です)。あの頃、何度も往復していたが、東京の自分と実家の私の距離感が掴めず、心の在り方がわからなくなっていたように思う。〈悲しみには強弱があった。〉、「死」というものに向き合う私もまさにそうだったのかもしれない。著者が、当時の想いを言葉にしてくれたように思った。読後、すぐに来月実家に帰る新幹線のチケットを取った。
村井有紀子 TEAM NACS企画(P156)担当。本公演を観劇に大阪へ。『騙し絵の牙』著者・塩田武士さんとも本屋大賞ノミネートのお祝いが出来ました。
一緒にごはんを食べたくなる
亡くなった「父」をはじめ、家族についての思い出が詰まったこの二十編のエッセイには、食べ物の話題が幾度ものぼる。確かに、考えてみれば職場や学校の空間を除くと、親しい人と一緒にいるのって、食事をしている時間がほとんどかもしれない。その時に交わした他愛も無い会話は覚えていなくても、一緒に食べたものやその感想は不思議と記憶に残っている。そして「もっと一緒に食べたかったな」という後悔も。読みながら、たまらなく誰かとごはんを食べたくなる一冊だった。
高岡遼 次号「銀英伝」特集に向けて作品を読みこむ日々です。田中先生の台詞回しが格好良すぎて痺れる。真似して自分も言ってみたいけど、チャンスは皆無。
みんないつかしんでしまう
ごはんの描写がたくさんある。病院の売店で買う森永チョイスビスケット、お父さんと選ぶコンビニおでん。とりわけ印象的なのは、実家から東京へ帰るバス停に向かう益田さんが涙をこぼしつつ「東京に帰ったらデパ地下でおいしいものをいっぱい買おう」と心に決めるシーン。せつなさ、たくましさ、残酷さといった、生きていくことのぜんぶが押し寄せてくるような、たまらない気持ちになる。みんないつかしんでしまう。その時がくるまで、おいしいものを食べて生きるのだ。
西條弓子 何もかもいやになったときは、銀座某店のチョコレートパフェを食べると決めている。生きていくしかない、という気分になる凄いパフェ。
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