忙しい毎日にお疲れ気味の方へ。16編の物語が教えてくれる“平凡な日々の楽しみ方”
公開日:2018/2/27

人生の幸せは、自分の手で創っていける。
本書『カフェでカフィを』(ヨコイエミ/集英社クリエイティブ)は、そんな見落としがちな当たり前の事実を再確認させてくれる。
コーヒーやお茶を巡って繰り広げられる16編のショートストーリーはシンプルな構図で進む。しかし、ひとつひとつの物語がゆるく繋がっているので素っ気なさがなく、様々な登場人物の気持ちになりきりながら作品を楽しむことができる。
本書の最大の魅力は、ストーリーの中で突飛な出来事が起こらないところにある。手に汗握るどんでん返しのミステリーや背筋が寒くなるホラー小説のような非日常感はなく、日常の平凡さを描いているのだ。だからこそ、読者は登場人物に自分の姿を重ねながら「こんな気持ちになったことがあるな」と、作品の世界にひたることができる。
心温まる16編のショートストーリーの中でも筆者の心に一番深く残ったのは「野立はいかが?」に記されていた“世界を再構築するごっこ遊び”というセリフだ。田舎に出戻り負い目を感じていたマサコは、幼い頃に遊んでもらっていた茶道講師であるフミおばさんが発したこのセリフにハっとさせられる。フミおばさんは、「自身が行う茶道や身の回りに溢れている映画や小説などは、現実を抜け出して世界を再構築するためのごっこ遊びのようなものだが、それを作りなお していくうちに、この世界も捨てたものではないと思えるようになるのだ」と語る。こうしたフミおばさんのセリフはマサコだけでなく、私たちの心にも染みわたるのではないだろうか。
大人になると、小さな頃に思い描いていた気持ちや憧れもいつの間にか忘れていってしまうものだ。特に、社会に出て仕事をこなすようになると心苦しい体験でやさぐれてしまったり、現状から逃げ出したいと思ったりすることもあるだろう。そんな時はフミおばさんが言っていたように、自分の世界をもう一度構築し直してみるのもよいのかもしれない。
今ここにある現実は、自分自身の意志や行動で生みだされている。だからこそ、苦しいときや辛いときは窮屈な現実を抜け出し、世界を作り直す勇気を身につけることも大切だ。
多くの人の日常は、毎日淡々と平凡に流れている。平凡な毎日は、単調に生きてしまいがちだ。しかし、平凡な日々の中でも癒やしや幸せを見出すことはできる。幸せの在りかが分からなくなっている方は、ぜひ本書を手に取り、まずは1杯のおいしいコーヒーから身近な幸福を噛みしめてみてはいかがだろうか。
文=古川諭香
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