史上最悪の殺人教師はでっちあげ! 法廷で明かされた“驚愕の事実”とは?
公開日:2018/11/11

突然だが、みなさんは2003年にメディアで大きく取り上げられた「史上最悪の殺人教師」の事件を覚えているだろうか。この事件は当時、福岡市の公立小学校で教鞭をとっていた教諭が、教え子である9歳の男児の髪が赤みがかっていることに目を付け、精神的・身体的虐待を行ったと報道されたものだ。
中でも、両耳を強く引っ張りながら掴み、体を持ち上げるようにする「ミッキーマウス」や、鼻をつまみ、鼻血が出るほど強い力で振り回す「ピノキオ」などといった身体的虐待や「穢れた血を恨め」という教諭の差別的発言も大きく取り上げられた。
学校側は男児の両親からの抗議を受け止め、授業に監視役を付けるなどの対応を行ってはいたが、教諭は監視役の目を盗みながら暴力行為を続け、遂には男児に自殺の強要まで行っていたと報道されていた。さらに、いじめを受け続けた男児は重度のPTSD(外傷後ストレス障害)と診断され、小学校に通えなくなり、自殺の恐れもあったため、大学病院の精神科閉鎖病棟に長期入院することとなった。
さて、こうした事件の概要を読み、みなさんはどう感じただろうか。おそらく、大半の方が卑劣な殺人教師に怒りや嫌悪感を覚えたはずだ。だが、この事件には大きな裏があった。メディアで批判され続けていた教諭は実は、被害者男児の両親によって殺人教師に仕立てあげられていたのだった。その全貌を記しているのが『でっちあげ』(福田ますみ/新潮社)だ。
■全ての始まりはごく普通の家庭訪問から
殺人教師にでっちあげられた川上譲さん(仮名)は、事件が起こった小学校に10年前から勤務していた中堅どころの教師だった。そして、この恐ろしいでっちあげ事件は被害者男児として報道されていた、浅井祐二くん(仮名)宅の家庭訪問から始まった。
川上さんは祐二くんの自宅を13日に訪問する予定だったが、前日に母親から「家庭訪問日は今日ではないか」という連絡を受け、言い合いを避けたいと考え、12日に家庭訪問を行うことにした。
家庭訪問中、母親との些細な雑談から、祐二くんの曽祖父がアメリカ人であることを聞いた川上さんは「アメリカの方と血が混ざっているから、祐二君はハーフ的な顔立ちをしているんですね。目や鼻がはっきりしているんですね」と言った。しかし、このなにげない発言が結果的に川上さんの人生を大きく変えることになってしまった。
事件は家庭訪問から3週間たったある日、起こった。なんと、浅井さん夫婦が突然来校し、川上さんが家庭訪問時に血への差別的な発言をし、息子に体罰を行っていると抗議し始めたのだ。
たしかに川上さんは生徒たちに「ミッキーマウス」や「ピノキオ」といった行為を行っていたが、それは、報道されているような暴力性のあるものではなく、あくまでも低学年の児童とコミュニケーションを深めるための手段であったという。そのため、力加減もしていたそうだ。
しかし、祐二くんは普段から些細なことで同級生を蹴ったり、殴ったりという行為があり、その行き過ぎた暴力行為を止めるため、肩を抑えたり、頬を軽く払った心当たりがあり、どこからが体罰としてみなされるのかが自分の中で曖昧だったため、川上さんは学校側に、右の手の甲で祐二くんの頬を叩いたことはあると答えてしまった。こうして、彼は「史上最悪の殺人教師」として、浅井さん夫婦から次々とありもしない事実をでっちあげられていくようになる。
一体なぜ、祐二くんの両親はこれほどまでに川上さんに執着し、彼を殺人教師にしたがったのか。法廷で次々と明らかになる驚愕の事実は、まさに小説より奇なりだ。
でっちあげ事件の恐ろしさは、自分が知らない間に周りの人が全て敵に変わってしまうところにある。この事件はマスコミや市、学校関係者が浅井さん一家の発言に信憑性はあるのかを一切検証しなかった点も問題視されている。本書は“嘘でも何でも言ったものが勝つ社会”を作りあげないために必要な1冊だといえるだろう。
文=古川諭香