なぜ人は“無実の罪”を自白してしまうのか… 追いつめられた容疑者たちの心理とは
公開日:2018/11/25

殺人などの重大な事件において、被疑者が取り調べの際に自白をしたにもかかわらず、後になってからそれを撤回し、無罪を主張する場合がある。多くの人は、こうしたニュースを聞くたびに、「本当にやっていないなら、そもそも自白しなければいいのではないか…?」と疑問に思っているだろう。
だが、現実には「足利事件」のような例がある。足利事件は、1990年に栃木県足利市で起きた幼女誘拐殺人事件。当時導入されたばかりのDNA鑑定によって疑われた菅家利和さんが、たった1日の取り調べで自白に落ち、2000年には最高裁で無期懲役が確定した。その後、再審請求審でDNA再鑑定が行われ、当時のDNA鑑定が間違っていたことが判明。2009年に刑の執行が停止され、菅家さんは、17年半ぶりに獄中から出ることができた…。
つまり、この事件は、物的証拠によって虚偽自白が証明された稀有な例なのである。本書『虚偽自白を読み解く(岩波新書)』(浜田寿美男/岩波書店)は、実際の事件を例にとりながら、冤罪の温床になっている虚偽自白について考える。菅家さんは、なぜ“たった1日”で自白に追い込まれてしまったのか。
■取り調べの厳しさは「体験した者にしかわからない」
先日公開された映画『検察側の罪人』では、二宮和也が演じる沖野啓一郎の厳しい取り調べシーンが話題となった。著者によれば、現実でも被疑者として取調官から圧力を受ける苦痛は相当なものだという。取調官は、被疑者が犯人だと思い込み、無実である可能性を考えずに追求する。被疑者は、それまでの社会的な共同体から切り離され、孤立無援の状態で「おまえ以外に犯人はいない」と責め続けられる。いくらそこで「私はやっていない」と否定しても、取調官は納得してくれない。それ故に、被疑者は圧倒的な無力感に襲われる。菅家さんは、著作『冤罪』(菅家利和/朝日新聞出版)の中で、当時のことをこう振り返っている。
先のことは、何も考えられませんでした。その場をどうにか逃れたくて、夜十時にもなれば、「もうどうでもいいや」というヤケクソな気持ちになってしまいます。そうして、自分は、
「分かりました。自分がやりました」
とひと言、口に出して言いました。
■無実の人が“犯人を演じる”
とはいえ、仮に取調で追いつめられたとしても、実際に殺人を犯していないならば、いわゆる“秘密の暴露(=犯人しか知り得ない情報を自白すること)”ができないように思える。著者によれば、被疑者は一度「やりました」と自白してしまうと、まずは自分でストーリーを作らなくてはならないという心理に陥るのだという。
菅家さんも「辻褄の合う説明をしないといけない。そんな心境になっていました」と語っている。そして、被疑者たちは、報道で知り得た情報や、取調官の追及で示された事実を元に、それらに合う自白内容を創作する――つまり、“犯人を演じる”。当然、その自白には後付けによる違和感が残る。だが、被疑者が犯人だと確信している取調官は、意図せず被疑者を誘導してしまい、結果として事実に合致した自白調書が残る…というわけだ。
本書は、足利事件の他にも、狭山事件、袴田事件、日野町事件などの実例を見ながら、虚偽自白による冤罪のカラクリを暴き、最終的には“どう自白を撤回するか”まで踏み込んだ分析が行われている。本書を読めば、日々のニュースで被疑者を見る目が変わるかもしれない。
文=中川 凌
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