男性が滅んだ世界で女子高生が抱く“異性”への興味――『アイアムアヒーロー』作者が描く新しい世界
更新日:2019/2/20

「男という性別を知らない」女子高生ひなたがどう生きるのか――。『アイアムアヒーロー』の作者の新作が、男の滅んだ世界を描く『たかが黄昏れ』(花沢健吾/小学館)だ。
本稿では、等身大の「男」の物語を得意としてきた花沢氏が、多感な10代の少女を描く意欲作をレビューしていく。
花沢氏は2004年に『ルサンチマン』でデビュー。その後TVドラマ化された『ボーイズ・オン・ザ・ラン』、実写映画が製作された『アイアムアヒーロー』を世に送り出し、現在はくすぶっていた忍者の物語、『アンダーニンジャ』(講談社)を、本作と同時に連載している。
舞台は女性しか存在しなくなった世界
『たかが黄昏れ』は未来の日本をモチーフにした架空世界が舞台。主人公の女子高生・ひなたは、母とは死別し、妹と祖母と3人で暮らしていた。
この世界ではひなたたちが生まれた17年前に男が滅んでいた。すでに男という単語を話すことや、雄という字を使うことも犯罪級のタブーになっている。
またこの世界の日本は、戦時中と思われる描写がある。ひなたも高校卒業後、徴兵で国防軍に入隊する旨のセリフがある。大人になりつつある多感な時期にさしかかっているひなた。彼女がいま気になっているのは「男」だった。
祖母が反体制派だったという同級生の楓(かえで)が語る「情報」、そしてそこかしこに残る「彼らの痕跡」をみるにつけ、ひなたはますます男への興味を強くする。
ストーリーはまだ序盤で、ひなたのいる世界についてわからないことも多い。この物語の設定は登場人物がみているものや会話から、徐々に明らかになっていく。
反体制! 百合! 子ども以上大人未満の少女たち
本作の緻密に練り上げられた世界観は気になるところだが、それ以上に登場キャラクターたちが非常に魅力的だ。
くすぶっている男を描かせたら天下一品、等身大のリアルな男たちを赤裸々に描いてきた花沢氏だが、今回は一転して少女たちを美しく、そして生々しく描いている。
ひなたは、妹の前ではしっかりとした姉であろうとする一方、みたことがなくても男についての知識はあり、それがタブーとされている社会に納得がいっていない。
「都合が悪けりゃ自分の立ち位置を変えられる。私ら子どもの特権でしょ」
ひなたは多感な10代として描かれ、やるべきことをやりつつも、どこかもやもやしている。そんな中、大人びた楓に恋心を抱くようになる。
男性が存在せずとも女性が妊娠できることを匂わせる描写もあり、今後の2人の関係の進展も気になるところだ。
「男」を知らなかったひなたの運命は
第1話のラストシーンは、作品タイトルを想起させる美しい「黄昏」であった。
未来ある10代の少女たちには、明るい未来が開けていてほしい。
しかし、作品タイトルと第1話の黄昏シーンは、この世界が終末に近づいているという意味なのか、少女たちの運命を暗示しているのか、美しくも不安な気持ちになった。いずれにせよ印象的すぎる場面である。
本作は単行本1巻が発売されたばかりで、いまからでも乗り遅れた感はない。
またこの1巻のラストページ、物語が一気に動き出すような衝撃的な「ヒキ」はあまりにも続きが気になりすぎる…! 今後の展開も見逃せない。
文=古林恭