家事はきちんとしなくてもいい! 世界と比較して分かった“日本のおかしな家事事情”
更新日:2019/3/20

日本では家事をきちんとこなすことが“美徳”であるかのように思われており、日本人女性はそのプレッシャーに苦しんでいる。『「家事のしすぎ」が日本を滅ぼす』(佐光紀子/光文社)は、そんな苦しみに救いの手を差し伸べてくれる1冊だ。
現代の日本は男女雇用機会均等法や男女共同参画社会基本法などが制定されており、男性と女性は平等であるとされているが、実際はそうではないように思える。例えば、男性は家事ができなくても「男だから仕方がない」で片づけられる。独身の場合は「早くいい奥さん、もらいなよ」と言われることも多い。しかし、女性の場合は違う。家事が苦手だったり、できなかったりすると周囲から厳しい視線を向けられてしまうのだ。
また、女性はキャリアと家事を天秤にかけなければならない。「きちんと家事をしなくては…」というプレッシャーに負け、キャリアや自分の心を犠牲にしてきた日本人女性は一体どのくらいいるのだろう。
本書の著者である佐光氏は、そうした女性の本音や日本の現状に着目。海外と日本を比較しながら、完璧主義な日本の家事事情を変えていこうと訴えかけている。
日本は世界一、夫が家事をしない国だと佐光氏はいう。それは言い換えれば、世界で一番女性が家事をしすぎている国であるということ。家事は女性の責任だと考えられがちだが、本当は最低限やればよいもの――本書を読むと、女性だけでなく世の男性もそんな想いに駆られ、自分の家庭を見つめ直したくなるのではないか。
■できない家事は外注してもいい
“修士論文で、「なぜ女性が家事を担うのか」を、何組かのご夫婦に別々に話を聞きながら探ろうとして、最初に行き当たったのは、誰もが「ちゃんと」した食事を家で作ることや、自分たちで家事を「きちんと」することは大事だという価値観を共有しているということだった”
佐光氏のこの体験談は、私たちに興味深い事実を教えてくれる。
日本人は家事を自分たちでこなすべきだと考えている。近年では、プロに家事を代行してもらえるサービスも続々と登場しているが、お金を払って他人に家事を行ってもらうことに抵抗感や罪悪感を覚えてしまう方は、まだまだ多いように感じる。
だが、この感性は日本人特有のもの。現に、アメリカでは「バーゲニング理論」という考え方がある。バーゲニング理論とは、「家事はできればやりたくないものだが、家庭生活を維持するためにある程度はやらざるを得ない。その配分は、家庭に提供する資源の割合に準じることが多い」というもの。つまり、自分がやりたくなければ、持てる資源を活用し、家事を外注するという考え方だ。
こうした考えは家事のプレッシャーから解放されるためのキーポイントとなる。近年は共働き世帯が増え、核家族化が進んでいるにもかかわらず、女性に与えられる家事の負担は昔と大差がない。その結果、女性は仕事や育児だけでなく、家事という負担にも悩まされてしまっている。
しかし、アメリカ人のようにバーゲニング理論を取り入れていけたら、世の日本人女性はもっと自分らしく生きられるようになるはず。そのためには、こなすのが厳しいと思う家事は外注したり、男性も積極的に家事に関わっていく必要がある。
「家事は毎日やらなくても、手を抜いてもいいもの」――そんな認識が広まっていけば、孤独に家事を頑張り続けている女性の心を救うこともできるのだ。
■日本の家事の「当たり前」は海外では「非常識」
佐光氏は本書の中で、他にも家事にまつわる日本と海外の「当たり前」をいくつか比較している。それらを見ていると、日本人にとっての「常識」は海外では「非常識」であることも多いのだということに気づかされる。
例えば、2009年にP&Gが行った、日本と欧米数カ国での家事比較調査(「家事と自分時間とのバランスに関する意識実態調査」)からは、興味深い事実が見えてくる。
調査によれば、1日に3回以上食器を洗う人の割合は日本が55.5%であったのに対し、イギリスは27.3%、アメリカは8.3%、スウェーデンに至っては7.7%であったそう。もちろん、その背景にはアメリカやヨーロッパは日本よりもさらに食洗機が普及していて、熱湯で食器が洗浄できるため、まとめ洗いをしても雑菌に対処しやすいという事実はある。
しかし、それを差し引いても、日本とはまったく異なる調査結果を知ると、日本人がいかに“きちんと家事を行うこと”に重きをおいているかが伝わってくる。日本人は「毎食後に食器を洗わない手もある」という選択肢が頭に浮かびにくく、家事に対して程よく手を抜けなくなっているのだ。
また、部屋の片づけに関しても日本の当たり前は世界の人から見ると常識ではないことが多い。日本では断捨離中だと言うと、尊敬や称賛の言葉をかけられがちだがアメリカでは一転し、「変わり者」として見られてしまうのだそう。
こんな風に、日本の家事の常識は風変わりに映ることもあるため、日本人女性は枠にとらわれながら必死に家事をこなそうと頑張らなくてもよいのではないだろうか。家が散らかってしまったら家族みんなでゆっくり片づければよいし、食事が作れない時は外食やお惣菜に頼ってもいい。そう柔軟に考えていくことができたら、家事が楽しくこなせるようになり、人生にゆとりも生まれてくるはず。本書は日本に新たな家事の価値観を吹き込み、心の重荷を減らしてくれる。
女性の社会進出が進んできた現代には、家事という呪縛から逃れたがっている女性が多くいる。家事をこなすのに性別は関係なく、足りないところは補い合えばいい。そんな考えが、これからの日本には必要。「私は家事ができません」と世の女性が堂々と言える世界を、私たちの手で作っていこう。
文=古川諭香
レビューカテゴリーの最新記事
今月のダ・ヴィンチ
ダ・ヴィンチ 2025年7月号 解体! 都市伝説/文字が映す表現者たち
特集1 有名エピソードから今話題の“あの噂”まで 解体! 都市伝説/特集2 文章だから見える、もう一つの顔 文字が映す表現者たち 他...
2025年6月6日発売 価格 880円
人気記事
人気記事をもっとみる
新着記事
-
連載
前世で培ったゲーマーの知識を駆使! 習得困難なスキルを裏技でゲット/勇者の当て馬でしかない悪役貴族に転生した俺⑨
-
インタビュー・対談
娘がいじめを受けていることの真偽を確かめるため担任に問い合わせ。すると翌日、担任が報告してきたのは耳を疑う対応だった【漫画家インタビュー】
-
レビュー
見た目はJK、中身はシニア? ツッコミが追いつかない“年齢詐称系VTuber”星空バアドがクセになる!【書評】
-
連載
ダンジョンの外を目指す少年の前に中層のボスが登場! 今までの化け物とはレベルが違う!?/追放された『時計使い』、迷宮で真の力に覚醒する⑰
-
連載
昔戦場で会った女戦士と再会。でも誰だったっけ!? 思い出せない勇者に女戦士が戦いを挑む/終活勇者⑥
今日のオススメ
-
インタビュー・対談
大沢在昌、60歳にしてたどりついた「男女の真実」とは?20億円の車と過去の女を捜し出すハードボイルド小説『晩秋行』が文庫化!【インタビュー】
-
レビュー
「姑の強いこだわりを和らげたい」「過去の失敗を思い出してしまう」悩みは“脳”がつくるもの?──脳科学で答える人生相談【書評】
-
レビュー
“ひんやり”とろける大人のための贅沢なスイーツ。簡単なのに美しい「豆乳ブランマンジェ 黒ごまソース」を作ってみた【書評】
-
レビュー
胃からのSOSを感じる! 中央アジアで愛される国民食を食べてみたら… 知られざる食文化と旅ごはんの思い出がたっぷり詰まったコミックエッセイ【書評】
-
レビュー
映画化も話題の小説『青春ゲシュタルト崩壊』がコミカライズ!思春期の苦しさとときめきをリアルに描く【書評】
PR
電子書店コミック売上ランキング
-
Amazonコミック売上トップ3
更新:2025/6/15 03:30-
1
メダリスト(13) (アフタヌーンコミックス)
-
2
僕の心のヤバイやつ 12 (少年チャンピオン・コミックス)
-
3
ザ・ファブル The third secret(1) (ヤングマガジンコミックス)
-
-
楽天Koboコミック売上トップ3
更新:2025/6/15 03:00 楽天ランキングの続きはこちら