お付き合い残業、残業時間に残業を減らすための会議…「もう、帰りたい!!!」と叫ぶすべての働く人へ
更新日:2019/4/19

効率よく仕事を進め、定時に上がっているだけなのに、周囲の「え、もう帰るの?」オーラがすごい。アホな上司が思いつきで指示を出すので、取引先とのいざこざが絶えない。「どうしたら残業が減り・会議が減るか」の会議が開かれ、そのせいで残業になった…。
あーーー、もう帰りたい!!!!
と、いった苛立ちは、会社で働く人の多くが経験済みのはずだ。『僕たちはもう帰りたい』(さわぐちけいすけ/ライツ社)は、そんな社会人のやり場のない気持ちを題材にしたコミックだ。

冒頭に挙げたエピソードは、いずれも本書に取り上げられたもの。そのほかにも「残業を減らせ」と「成果を出せ」を同時に指示され困惑する話や、仕事と家庭の両立を目指した結果、大忙し&どっちつかずで疲弊する人なども登場。エピソードの制作に“働き方改革の旗手”として名高いサイボウズも協力しているだけあり、「あー、あるある…」とため息をつきつつ共感してしまう話が満載だ。


そして本書のエピソードは、「仕事がつらい…」「ああ、もう帰りてぇ…」という愚痴だけでは終わらない。登場人物たちは、同僚や家族に思いや悩みを打ち明け、勇気を持って行動を起こすことで、前を向いて生きていけるようになる。彼らが集う場所として毎回スナックが登場するように、本書は「対話の大切さ」を描いた作品でもある。
定時に帰る社員を白々しい目で見ていた同僚も、話してみると実は早く帰りたがっていて、「効率のいい仕事の進め方を教えてほしい」と心の底で思っていたりする。夫の帰りの遅さに怒っているように見えた妻も、実はまったく無関係な苛立ちをぶつけていただけだったりする。
人間関係にまつわるイラ立ちや悩みの多くは、実はそういった誤解から生まれている。それは話し合うことで解決ができるし、そこで得た気づきで、人は変化、成長していける。


社会人の「もう帰りたい」という気持ちを題材にしながらも、そんなメッセージを伝えてくれて、「世の中ってそう悪い人ばかりじゃないんだな」「まだまだ自分にはできることがあるんだな」と気づかせてくれる本書の視点は、とても優しく、あたたかい。

文=古澤誠一郎