映画『キングダム』大ヒットの理由は、原作で描かれる人間ドラマにあった

マンガ

公開日:2019/5/1

『キングダム』(原泰久/集英社)

 山崎賢人(※崎は正しくはたつさき)さん主演で公開されている映画『キングダム』。公開3日で興行収入7億円を突破し、“映像化不可能”と言われていた原作の世界観を見事に再現していると高い評価を集めている。この大型連休中に話題作を観に行こうと計画している人も少なくないはずだ。

 でもどうせならば、映画の前に原作『キングダム』(原泰久/集英社)を読んでおきたい。多種多様なキャラクターが登場する本作。基礎知識を身につけてから映画に挑む方が、その理解度が深まるのは間違いない。

 本作は春秋戦国時代の中国大陸を舞台にした、戦乱の物語である。主人公となるのは、戦災孤児の信(しん)。戸籍のない彼は、同じ境遇である漂(ひょう)とともに、奴隷として過酷な毎日を強いられていた。ところが、大切な友である漂の死、そしてその一因となった若き秦国の王・嬴政(えいせい)との出会いにより、信の人生は大きなうねりを迎える。ひとりの奴隷が、中華統一のために立ち上がり、天下の大将軍を目指すべく立ち上がるのだ。

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 本作は既刊54巻。しかし、あっという間に読むことができる。それはスピード感あふれる展開と、読者を先へ先へと誘うストーリーテリングのなせるわざだ。作中の大半を占める戦闘シーンは、まさに大迫力。血しぶきが舞い、首がはねられる。ときには仲間の死という哀しいシーンも挿入される。ページをめくるたびに手に汗が滲み、まるで自分が戦場に立っているかのような錯覚さえ覚えてしまう。

 さらに胸を熱くさせるのは、なによりも主人公・信の生き様だ。信は自らの強さを疑わない。どんな逆境に遭遇し、仲間が弱音を吐いても、諦めない。決して後ろを振り向かず、ただただ前だけを見据えている。その強い姿からは、戦乱の世とは程遠い現代を生きるぼくらも勇気をもらえる。

 事実、本作に感銘を受ける経営者たちは多いという。企業の代表として“経営”という戦場で闘う彼らは自らを信と重ね、部下を束ね、諦めずに闘うということを学んでいるのだ。

 また、本作には泣けるシーンもたびたび登場する。なかでも心動かされたのは、単行本31巻で描かれるワンシーンだ。

 敵国の策略にハマり、絶体絶命の危機を迎えた信と嬴政。最後の砦となった蕞(さい)の城には、およそ戦力とは言えない民衆ばかりがいた。誰もが「闘えない……」と諦めきっているそのとき、嬴政は民衆に「共に血を流すために俺はここに来たのだ」「最後まで戦うぞ 秦の子らよ」「我らの国を絶対に守りきるぞ!!」と声をかける。その瞬間、絶望一色だった民衆は立ち上がり、自らの力で闘うことを決意する。

 これは作中屈指の泣けるエピソードとしてあげられることも多い。力のない者が、自らのプライドのために立ち上がる姿。逃げることなく、逆境に立ち向かう勇気。その描写に背中を押される読者は多いだろう。

 本作は単なるバトルマンガではない。戦場を舞台に描かれるのは、重厚な人間ドラマである。人はどうして強さを求め、血を流すのか。その理由はさまざま。各々が信念を持っているからこそ、ときにぶつかり合う。そして、その姿が人間くさく、とても美しいのだ。

 話題の映画を観る前に、ぜひ原作を読んでもらいたい。戦乱の世を生きる男たちのドラマに、きっと感銘を受けるはずだ。

文=五十嵐 大