藤本さきこの本喰族!! 毒虫になった兄は、兄なのだろうか…『変身』フランツ・カフカ /連載第11回
公開日:2019/11/26

私にとって本は、食べて吸収し細胞にするもの。
食べることと同じくらいを作っていく。
食物が肉体のエネルギーを作るなら、書物は魂のエネルギーをつくる。
ひとつだけ違うことは、魂には「お腹いっぱい」という感覚がないこと。
お腹いっぱいにするために読むのではないのだ。
この連載「本喰族」では、読んだ本の中から頭に残っている「言葉」から次の本をリレー形式で検索し、魂がピンときた本をどんどん喰っていきたいと思います♡
『変身』フランツ・カフカ

「えっここで終わり!?」と思わず、声に出してしまった。
物語が終わりだと気づかず、次に切り替わった全く違う話を読み始めていた。
なぜびっくりしたのかというと、ハッピーエンドでも、バッドエンドでもなく、ただ終わったのだ。一人の男の人生が。
主人公のグレゴール・ザムザは、毎日家族を養う主として働く、平凡なセールスマンだった。しかしある朝、目を覚ますと、自分がとてつもなく大きな一匹の毒虫に変身していた。
毒虫に変わってしまった男と、その家族との数カ月を描いた奇妙な物語である。
なぜ男が毒虫に変わってしまったのか? その意味はなんなのか?
それらは一切書かれていない。
ただひたすら、毒虫の体つきの描写と男の苦悩、 気味の悪い毒虫に変わった兄(息子)を受け入れるために葛藤する家族、そして見放していく様 子が淡々と描かれている。
葛藤が続いた暁に、家族は苦しみから解放されたいあまり、「あれは兄ではない。ただの毒虫だ」という「変更」に行き着く。
「あの毒虫を兄だと思うことが間違っている。それが全ての苦しみの原因なのだ」というのだ。
毒虫になった男は、元に戻ることなく虫のまま死んでいき、物語は終わる。
毒虫は臨終の際に、自分から湧き上がる家族への深い愛情を感じながら死んで行き、逆に家族は 毒虫が死んで清々して終わる。
なんていう後味の悪い、スッキリしない結末なんだろうか。
相手が何を感じているのか? 相手がどう考えているのか?
その人の意思。
その人の存在。
それらが、目から、耳から、知覚から、全くキャッチできずわからなくなった場合、ましてやそれが「毒虫」という誰からも忌み嫌われるものに変わってしまった場合、私ならどうだろうか?
それが確実に自分の愛する家族だったはずでも、日が経つにつれて、「本当にこれはその人なのだろうか」となってしまうのだろうか。
この目の前のものを「兄さん」と呼ぶか? 「害虫」と呼ぶか?
他の誰かや、何かの「存在」に対する定義なんか、自分の中のそれ一つで決まるのだ。
「こう呼ぶことにしよう」と決める瞬間なんてほんの一瞬だ。
それによって全ての見方や行動が 変わる。
目の前の世界から何を受け取るか、まで変わるのだ。
これは人が持つ、神がかりな力だと思う。
「自由」という、恐ろしいほどの力だ。
作者カフカが何を思ってこの物語を書いたのかはわからないが、残酷さも闇も、正解も不正解も、全てのジャッジをごちゃまぜにし、「ただその人のそれぞれ見方」と「変更の過程」を描写しただけの、怖さを感じるほど自由な物語だった。
様々な解釈があるこの物語だが、私はこの物語を「人の偉大な自由さを描いた物語」と呼ぶことにしようと思う。
毒虫は自分から湧き上がる家族への愛情に感動しながら、黙想に沈み死んでいった。
次の本は、「黙想」というキーワードで美味しそうな本を探します!
文=藤本さきこ
(プロフィール)
藤本さきこ●ふじもとさきこ/株式会社ラデスペリテ 代表取締役
1981年生まれ、青森県出身。累計3万人以上を動員した「宇宙レベルで人生の設定変更セミナー」を主宰する人気講演家。4人の子の母でありながら、実業家としても活躍。1日20万アクセスを誇るアメーバのオフィシャルブロガーとしても知られる。友人と共同創業した「petite la' deux( プティラドゥ)」は実店舗からネットショップへ事業形態を変更。布ナプキンや化粧品、香油、ハンドメイド雑貨を販売。そして、「Laddess perite(ラデスペリテ)」では、自身が開発したオリジナルの万年筆やノートやスタンプ、自ら選んだ文房具を発売し、いまや年商3億円を超える規模に拡大。自らの人生を「明らめた(明らかに見た)」結果、宇宙の叡智に触れる経験をして以来、「女性性開花」をテーマに人生の在り方を追求。著書『お金の神様に可愛がられる』シリーズ3部作はベストセラーになり、『お金の神様に可愛がられる手帳』(いずれもKADOKAWA)は、4年連続で刊行している。