スタイリストSIVAさん/他がままに生かされてスピンオフ企画「僕を生かしてくれた人たち」
公開日:2021/4/2
山中拓也初著書『他がままに生かされて』の刊行を記念した特別短期連載。2月は4回にわたり、本書から抜粋したエッセイを配信してきた。 3月からは本書のスピンオフ企画「僕を生かしてくれた人たち」を本連載限定で公開!書籍に掲載しきれなかった、山中拓也の恩人たちを紹介していく。

東京に上京してすぐ、我ながら安易な発想だと思うけど「ロックバンドだし、毎日着れるようなライダースを買おう」と、東京で初めての買い物へ出かけることにした。東京に来て最初の買い物ということもあって、自分が本当に気に入るものを見つけたいという気持ちが強かった。
しかし、10店舗ほど訪れても、直感で「これだ!」と思えるものには出合えなかった。ちょうど、当時交流のあったスタイリストに「ライダース探してるならこのカタログ見てみてよ。多分、拓也くんの趣味に合うから」と言われて見てみると、確かに僕が好きそうな系統の服ばかり。
そのカタログに載っていた服を扱っている店を訪れたときに出会ったのが、MUZEというブランドを手掛けるスタイリストのSIVAさんだった。店の奥から強面の兄ちゃんが出てきたかと思うと「一回衣装貸したことあるよ」と、気さくに話しかけてきた。
なんでMUZEの服は自分にとってこんなに美しく見えるんだろう…と思っていると、SIVAさんは服に込められたこだわりについて細かく話してくれた。「このジッパーはある黄金比で出来ていて、それはキューブリックの映画作品から生かされた黄金比なんだよ」と言われたとき、「僕の好きな映画だ。この人は僕と趣味が合うのかもしれない」と興味が湧いてきた。同時に、だから僕はこの服に惹かれたのかもしれないと腑に落ちる瞬間でもあった。
好きな映画の話をしているうちに、意気投合した僕たちは急速に仲良くなっていった。僕よりも10個年上ということもあって、服に関する知識量はもちろん素晴らしいし、「この服を着るなら知っておいた方がいいことがある」と、自分の知らないカルチャーを教えてくれることも新鮮で、「この服が好きならおすすめの曲があるよ」というアプローチもしてくれる。
彼は、僕の知らないものの見方を教えてくれる人だ。それまでは、自分をカッコよく見せるために服を着るだけだった。でも彼は「服も音楽の趣味も全部繋がってるんだよ。だから、着る服にも意味を持っていた方がいいんだよ」と話してくれる。
彼の知り合いも似たような感覚を持っている人たちばかりで、その中に入ったとき、「表面的な薄い知識じゃすぐに剝がされて、しょうもない人間だって思われるだけや」って思った。その圧倒的な理解力、知識量に触れて僕は彼らと対等に話せるくらい努力することにした。
この出会いは、ディグるという興味を掘り下げるために必要なことを思い出すきっかけになった。
自分の好きなものを知るということは、自分を形成していくことに繋がる。そして、自分の中にある“好き”という感情がどのように生まれているのかを知ることは、これから先の音楽活動にも良い影響があるのではないかと感じている。