SiMのMAHさん/他がままに生かされてスピンオフ企画「僕を生かしてくれた人たち」
公開日:2021/4/23
山中拓也初著書『他がままに生かされて』の刊行を記念した特別短期連載。2月は4回にわたり、本書から抜粋したエッセイを配信してきた。 3月からは本書のスピンオフ企画「僕を生かしてくれた人たち」を本連載限定で公開!書籍に掲載しきれなかった、山中拓也の恩人たちを紹介していく。

SiM というバンドでボーカルをしているMAHさん。彼は昔、「オーディションで上がってきたバンドはバンドじゃない」って思っているような人だった。僕たち自身、オーディションでグランプリを獲ったけど、正直「オーディションなんて…」という気持ちも持っていた。だから、MAHさんの気持ちは理解できるし、興味を持たれなくても仕方ないなと思っていた。
だけど、僕はMAHさんのカリスマ性に憧れていたから「いつか対等に話せるところまで上がっていこう」という思いが常にあった。
そんなある日、僕たちのライブを偶然見たMAHさんが「お前らって、他のやつらと違うな。バンドマンっぽくないって思ってたけど、お前らはめっちゃバンドマンやな」って言ってくれた。僕たちを認めてくれたその日から、MAHさんとの仲はすごく縮まって、兄貴みたいな存在に変化することに。
東京に上京して、まわりのバンドが売れていったとき、僕は取り残されていく感じがしてただただ不安だった。「僕は波に乗り遅れたのかもしれない」とMAHさんに話すと、「俺らにもそういう時期があったよ。でもさ、売れていったバンドに対して『5年後見てろよ! このままじゃ終わらねぇからな』って思えたら新しい原動力になって、また前に進めるんだよ」と励ましてくれた。
自分が一人で不安になっているような気がしていたけど、そんなことはない。SiMにもそういう時期があったんだと知ったことで、この不安を飼いならさないと先には進めないんだと思うことができた。
ファンへの感謝を教えてくれたのもMAHさんだ。本当は1万枚くらい売れてほしかったCDの売れ行きが5000枚程度と停滞していたときに、悩んで電話をかけたことがある。そのときにMAHさんは「5000人が拓也の音楽を聴いてくれてるって、すごいことなんだぞ?」って言ってくれた。ファンを大切にするって、そういう気持ちを忘れないことなんだって頬を引っ叩かれたような気がした。
MAHさんは、絶対に後輩にお金を出させない。最初の頃は、先輩だから出してくれるのかな、程度にしか考えてなかったが、ある日の食事代を僕が出そうとした時のこと。「その金は、拓也の後輩に使ってやれ。売れてないインディーズバンドのときには、金銭的にも精神的にもキツイだろ。だから、自分が売れたときには後輩に還元してやれ」と言った。
控えめに言ってカッコいい。こんなことを言う男に憧れない人間がいるだろうか。僕はそれからというもの、その教えを守って後輩へと還元することにしている。