井頭愛海「初めての“ハッちゃけた”役で、演じることの楽しさを痛感しました」【あの人と本の話『アーモンド』】
公開日:2021/6/12

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、電子書籍2300万ダウンロードを突破した人気コミックが原作の、ドラマ『結婚できないにはワケがある。』で、ストーリーの鍵となる“謎の女”鉄子を演じている井頭愛海さん。原作愛が貫かれている撮影現場のこと、そのなかでみずからに起きた変化、そして幼い頃からずっと親しんできた本についてお話を伺いました。
(取材・文=河村道子 撮影=山口宏之)
忙しい日々のなかでも、井頭さんが大切にしている“本の時間”。休憩時間や移動時間に、すっとページを開いてはその世界に没頭する。
「幼い頃からずっと、本に親しんできました。母がよく図書館に連れて行ってくれていたんです。休みの日になると、図書館と本屋さんを巡り、ずっと本を眺めては、気になったものを手に取る。本との出会いを探しに行くことは、あの頃も今も、私にとってすごくわくわくすること」
小学生の頃はファンタジー、中学生になってからは山田悠介などのサスペンスジャンルのものに夢中なっていたという井頭さんの本選びには、ひとつの法則がある。
「1ページ目を読んで決めるんです。冒頭の文章に自分がその世界に引き込まれるかどうかで選ぶことが多い。韓国のドラマや文化に最近、ハマっていた私に、“これ、面白そうじゃない?”と、母が本屋さんで見つけてくれたこの本も、“悲劇なのか喜劇なのかは、あなたにも僕にも、誰にも永遠にわからないことだから”というプロローグの一文に惹きつけられて選んだ一冊です」
韓国で40万部突破、13カ国で翻訳され、2020年本屋大賞翻訳部門第1位ともなった、井頭さんおすすめの本、『アーモンド』は、偏桃体(アーモンド)が人より小さく“感情”がわからない少年・ユンジェの物語だ。
「感情がわからない主人公の視点で進んでいく物語は淡々としています。だからこそ、その視点、気持ちのなかにすっと入り込むことができる。怒りや恐怖を感じることのできないユンジェの言葉には、みんなが思っていても言わなかったりすることがたくさん詰まっていて。そこからは“共感”という言葉についても深く考えさせられました。まるで挨拶のように軽く使ってしまっているその言葉が持つ真の意味に。そして感情がわからないゆえのユンジェの真っ白な心に触れたとき、今みんな、面と向かって話し合えていない状況のなか、SNSを中心に、人々は必要以上に感情過多になってしまっている、ということにも気付きました」
“世界で一番かわいい怪物。それがおまえだな”。祖母と母はユンジェにたっぷりと愛を注ぐ。家中に、「喜」「怒」「哀」「楽」「愛」「悪」「欲」と書いた紙を貼って、学校でもなじめるよう、その感情を丸暗記させようと奮闘する。祖母が念入りに書く「愛」という字。その意味を祖母は“かわいさの発見”と言う。“愛”は井頭さんの名前にも――。
「“愛”のなかの“心”の三つの点は“私ら三人だ”と、おばあちゃんが言うシーンがすごく印象的で。その場面を読んでいて、愛という感情の意味を改めて考え、受け取ることができました。“みんなから愛される人になってほしい”という、両親が私の名前に込めた意味も、そんな名前を付けてくれた家族の温かさも」
そんな家族のもと、井頭さんは大阪で生まれ育ってきた。ドラマ『結婚できないにはワケがある。』で演じている鉄子は、本領発揮!関西弁の元気な女の子だ。
「そこは任せていただいて!と(笑)。台本をいただいたときから、自分のなかの鉄子がずっと喋っていました」
理想の男性と結婚したい女・まりこと、ぬいぐるみの人形を愛する完璧な男・富澤光央課長、そして彼が溺愛する人形“みちゅこ”との三角関係から繰り出されるラブコメディー、鉄子はそこに絡んでくる“謎の女”。みずからも“てちゅお”という人形をいつも持ち歩いている。
「ずっとわちゃわちゃしている鉄子ですが、実は家庭環境にちょっと問題があって、いろんな意味でもがいている子。けれど必死に、一生懸命に生きている明るい子。すごく愛おしいなぁと思いながら、彼女のなかに入っていきました」
井頭さんにとって初めての“ハッちゃけた”役。撮影現場でも、自分の変化にはたと気付いたという。
「原作では、鉄子は自分のことを“アタイ”って呼んでいるんですけれど、はじめ、台本には現代に寄せて、“ウチ”になっていたんです。けれど、自分の原作愛が溢れてきてしまって、“アタイに変えてもいいですか?”と、思いきって監督に相談したんですね。そんなことを現場で言うのは初めてのことだったのですけれど。でも監督が、“それ、意外といいんじゃない?”と言ってくださって。原作に忠実な鉄子でありたかったので、見た目からも役に近づけるように、前髪をアシンメトリーなものにしてみたり、髪を明るい色にしてみたり、自分からいろいろ動く、ということに挑戦しつつ、自由な気持ちで演じていました」
“原作そのまんま!”“原作を大切にしていてうれしい”――原作ファンからも大評判の本作は、キャスト&スタッフたちの大きな原作愛に溢れた現場だったという。
「撮影現場でも、みんないつもマンガを見て、髪型を近づけてみたり、変顔を研究したり(笑)。原作のあのぶっ飛んだ世界観を再現しようと、それぞれが挑戦し続けていました。それだけに熱量があり、撮影現場にいつもいる人形、“みちゅこ”と“てちゅお”への愛も溢れていました(笑)」
まりこを助け、“結婚できないワケ”についてストーリーが示すところの鍵となる人物・鉄子。いよいよクライマックスを迎えるドラマでは、不思議な三角関係の行方が明らかになっていく。
「“みんなで喜べる日は来るのか?”というところを楽しみにしていただきたいです。スピード感を緩めず、ドラマはラストに向けて突っ走っていきます。最後まで笑って観ていただけたらすごくうれしいです」
ヘアメイク:石岡悠希 スタイリング:加藤沙季 衣装協力:ジャケット6万6000円、キャミソール1万6500円、スカート4万1800円(以上、MEGMIURA/MEGMIURA OFFICE TEL03-5790-9162)、イヤリング6820円(IT Átelier/IT Átelier E-mail:itto.it.10@gmail.com)、その他スタイリスト私物 *価格は全て税込
。
ドラマ『結婚できないにはワケがある。』

原作: 邑咲奇(ソルマーレ編集部「恋するソワレ」連載中) 出演:速水もこみち、若月佑美、古川毅(SUPER★DRAGON)、井頭愛海、山口真帆、吉田志織、秋山ゆずきほか ABCテレビ毎週日曜23:55〜、テレビ神奈川毎週火曜23:00〜 ●30歳までに理想の男性との結婚を夢見る29歳のまりこ(若月佑美)。課長の光央(速水もこみち)は理想通りの完璧な男だったが、“みちゅこ”という名の人形を溺愛していて……。不思議な三角関係のラブコメディー。 画像提供/ABCテレビ
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