「モンスターの医者」ってどんな人? 異色のヒーローが国を守る、医療ファンタジー

マンガ

公開日:2022/4/15

モンスターの医者
『モンスターの医者』(岸本聖史/マンガボックス)

 幼い頃、お小遣いを貯めて初めて買ったゲーム。それは村にやってくる敵を、武器や魔法で倒していくアクションものだった。敵を倒すたびに主人公や仲間がレベルアップし、どんなに強い敵がやってきても村を守れるようになっていく。こうして僕の頭には、いつの間にか「敵=倒して解決」というテンプレートができてしまっていた。

 しかし大人になった今、そのゲームに対して思うことがある。敵が主人公の村にやってくる本当の理由はなんだったのだろう。もしかしたら何か重度の病気や怪我をしていて、助けてもらいたかったのかもしれない。もちろん架空の世界だし、昔のゲームなのでそこまで深い設定はないとも言える。考えても意味がないことは分かっている。でももし、本当に助けを求めていたなら「倒す」以外の選択肢で村を守れたのではないだろうか。

『モンスターの医者』(岸本聖史/マンガボックス)は、まさに「治療」という形で凶暴なモンスターから王国を守る医者と1人の少年の姿が描かれていく。

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 物語の舞台は、未知の病原菌によってモンスターの狂暴化が多発するサンライル王国。かつてはモンスターとの共存を望んでいたが、今では毎日多くの人間の命が奪われ、国は滅亡の危機に直面していた。

 その国で暮らす主人公はナギ・ヴァレットという少年。彼にはある特殊な力が備わっていた。それはモンスターに触れることで心の声を聞けるというもの。彼の心臓にモンスターの臓器「核」が埋め込まれており、それを通してモンスターの心の声が届くのだ。

 ナギは、その能力を用いて後に相棒となるスライムドラゴン・ポムや、狂暴化したモンスターを次々と謎の病原菌から救い出していく。モンスターとの共存を望むサンライル王国にとって、これ以上重宝する能力はないだろう。

 でもなぜ、ナギの身体にモンスターの臓器「核」が埋め込まれているのか。現状、ナギ以外に核が埋め込まれている人間はいない。作中では、ナギと一緒にモンスターを治療する医者・ルーベンスが「核を人間の身体に移植するのは神業レベルの知識と技術が求められる。モンスターの医者の中でもこんなことができる人はたった1人だけ」と語っている。ナギはいったい、どういう経緯で誰に手術を施してもらったのか……。

 本書の魅力は、バトルアクションに医療要素が組み込まれているところだ。例えば、モンスターと対峙するシーン。従来のアクション漫画であれば「戦闘開始だ!」などと書かれるが、作中では「治療開始」「施術開始」といった言葉が用いられている。

 また、敵のモンスターが傷つかずに元気になっていく過程が描かれるのも、アクション漫画としては新鮮だ。「敵を倒して平和を守る」という概念を覆した稀有な作品と言えるだろう。

 1巻では、モンスターを見事治療し王国を守ったナギに、医者としての可能性を感じたルーベンスがモンスターの医者を育てる学校・王立医術アカデミーに連れていく途中で終わりを迎える。ナギはこれからどんな道を歩んでいくのか? 王国を滅亡の危機から救うことはできるのか? 新感覚のアクション漫画をぜひ読んでいただきたい。

文=トヤカン