奈緒さんが選んだ1冊は?「ひとりが好きでいいのだと安堵した優しさのかたまりのような一冊」
公開日:2022/6/11

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、奈緒さん。
(取材・文=河村道子 写真=TOWA)
「題名がそのときの自分にすごく重なるところがあって」。この本を初めて手にしたのは、「お芝居をちゃんとやってみたい」と、たったひとりで上京した20歳の頃。
「当時、私はひとりが好きだったんです。けれどそれは声を大にして言いにくいことで。他の人といる時間が嫌なわけではなく、ただ“ひとりの時間がすごく好き”ということを、どういうふうに人に伝えたらいいのかわからなかった。でもこの本の題名を見たとき、まるで手紙をもらったような気持ちになったんです」
〈ひとりが好きなあなたへ。そんなあなたが私は好きです〉という一文からは、「あぁ、そういう人ってたくさんいるんだ。そしてそのことに銀色夏生さんは気付き、手紙を書いてくれたんだ」と、安堵にも似た気持ちに包まれたという。
「その一文から続いていく言葉は、今も淋しさや孤独を感じたとき、ふと取り出してみるお守りのような言葉。そしてこの詩集は、そっとしておく優しさ、傍にいてくれる優しさ、“いつでも気にしているよ”という優しさ――いろんな優しさがあるんだよ、ということも示してくれる、私にとって、まるで優しさのかたまりのような一冊なんです」
「人間として向き合わなければならないことが、この作品には描かれている」と語るサルトル原作、栗山民也演出の主演舞台『恭しき娼婦』でも、優しさについて考え続けているという。舞台はアメリカ南部。冤罪を着せられ、逃走する黒人青年をかくまう娼婦・リズィー。だがその街の権力者の息子は彼女に虚偽の証言をさせようと迫る。街中が黒人を犯人と決めつけるなか、奈緒さん演じるリズィーが下す決断とは……。
「“優しい”ってどういうことだろう?と。脚本を読み、感じたのは、人に優しくすることさえ、余裕がある人や権力を持った人にしか許されないならば私たちはどうしたら良いのだろう?と。読み重ねる中で何が正解なのか、迷い続けています。けれど答えを出そうとすることはやめようと。“これだ”と一カ所に留まり、決めずに演じなければならない題材だと思っています」
自由とは? 自分の本質とは? 人間の根源的な問いが舞台からまっすぐに放たれる。
「私が思っている以上に、たくさんのことを観客の方々が受け取ってくださると確信しています。観てくださる方が、まるで舞台と対話するような作品になると思います」
ヘアメイク:竹下あゆみ スタイリスト:岡本純子(Afelia)
舞台『恭しき娼婦』

作:ジャン=ポール・サルトル 翻訳:岩切正一郎 演出:栗山民也 出演:奈緒、風間俊介、野坂 弘、椎名一浩、小谷俊輔、金子由之 6月4日(土)~19日(日)紀伊國屋ホール ●冤罪を被せられた黒人青年を匿う娼婦・リズィー。強者と弱者、人間の尊厳、人として譲れないものとは?20世紀を代表する哲学者の傑作戯曲が現代に問うものは?