片岡健太(sumika)さんが選んだ1冊は?「クリエイティブをするうえで何度も読み返す、お守りのような一冊」

あの人と本の話 and more

公開日:2022/7/11

片岡健太さん

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、片岡健太さん。

(取材・文=倉田モトキ 写真=TOWA)

「何冊目だろう、これ」

 パラパラめくる文庫には、ページの角を折った跡が。創作に行き詰まった時に幾度となく読み返し、何冊も買い直したという。

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「クリエイティブをするうえでのお守りのような一冊です。高校時代に初めて読んだ時はピンときませんでしたが、曲作りに追われるようになった22、23歳で読み直したら薬のように効きました。最初から最後まで大事なことが書いてあります」

 中でも、片岡さんが惹かれた一節が〈思考の整理とは、いかにうまく忘れるか、である。〉

「僕はものを作る時に、ずっと考え続けてしまう癖があるんです。でも、時々忘れないと言葉も出てこないし、曲も生まれてこない。忘れることへの罪悪感をなくし、むしろ肯定してくれるのが新鮮でしたね」

 初エッセイの執筆中も、何度もこの本のページを開いたそう。父に教わったギター、松葉杖でスタートした中学生活、初めて組んだバンド。作中には、sumika結成前のエピソードもたっぷり盛り込まれている。

「膨大な記憶の中から、今の自分につながっているものだけにフォーカスしました。剣道で学んだ心技体が音楽につながっているんだと腑に落ちた瞬間、この本を書く機会をいただけてよかったなと思いました」

 sumikaの人気が広がる中、突然声が出なくなり、活動休止した時のことも赤裸々に綴っている。

「当時は過度に心配されないよう、何重にも塗り重ねて言葉を発信していました。でも、今なら伝えられるかなと思って。それに、コロナ禍が続き、暗闇で戦っている人も増えています。そういう状態に陥った時の取扱説明書になれば、僕の話にも意味があると思いました」

 タイトル『凡者の合奏』に込めたのは、これまで出会った人たちへの感謝の気持ち。

「やっぱり僕は人に生かされてるなと思っていて。ひとりで何でもできるタイプだったら『天才の独奏』になっていたかもしれないけれど、僕は正反対。平凡だけど、みんなのおかげで合奏できているんです」

 初めての本を書き終えたことで、自身に変化はあっただろうか。

「物事の焦点をちゃんと見極めたいという気持ちが増しました。今、世の中には膨大な情報があふれています。すべてに焦点を合わせることはできないので、何を取り入れ、何を伝えるのか精査したうえで、これからも言葉を発していきたいですね」

かたおか・けんた●神奈川県生まれ。2013年、荒井智之、黒田隼之介、小川貴之とともにsumikaを結成。ボーカル&ギター、楽曲の作詞も担当する。9月より全国20カ所26公演に及ぶ全国ツアーを開催。「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2022」「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2022 in EZO」など夏フェスへも多数出演予定。

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『凡者の合奏』

『凡者の合奏』書影

片岡健太 KADOKAWA 2090円(税込)
●挫折の連続だった中学時代、度重なるメンバーの脱退、声を失った原因不明の病。山あり谷ありの半生を振り返る、全編書き下ろしエッセイ。故郷や思い出の地を巡った撮り下ろし写真も多数収録。各章の冒頭には、書き下ろしの詩も。「普段作詞をしていますが、曲のつかない詩を書いたのは初めて。エッセイを書いたことで開いたチャンネルを使い、一気に書き上げました。新しい扉が開いた気がします」(片岡さん)