BOOK OF THE YEAR 2022投票スタート! 圧倒的な歌声を持つyamaが選ぶ今年の一冊は、『チ。―地球の運動について―』!

文芸・カルチャー

公開日:2022/9/9

雑誌『ダ・ヴィンチ』の年末恒例大特集「BOOK OF THE YEAR」の投票がスタート! 今回は8月にセカンドアルバム「Versus the night」を発売したyamaさんに、今年の1冊を伺った。

取材・文=吉田可奈

たとえ音楽を禁じられた時代に生まれたとしても、歌うことはやめないと思います

――圧倒的な表現力を持ち、一度聴いたら忘れられない歌声を持つyama。そんなyamaが今年一番感銘を受けた本は、魚豊氏による、禁じられた真理を追究するマンガ『チ。―地球の運動について―』。本作で描かれている、“自分の信念を命懸けで貫く姿”に感動したと話す。

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「最初にこのマンガを読んだときに、地動説が異端とされた時代に違和感に気づき、抱いた信念を命懸けで証明する人物たちにドラマを感じたんです。自分と重ねて考えてみると、いま自分が正しいと信じてやっている音楽も、もしかしたら未来にはそれとは違う信念を持った自分がいるかもしれない、と思ったんですよね。なにより、正しいと思うことを一旦疑うことは大事なのかもしれない、と教えてくれた作品です」

――本作ではその信念を抱く登場人物たちが、手掛かりとなるものを少しずつ隠し、残しながら、“異端思想”とされ、処刑されていく姿が描かれる。すべての登場人物が命を懸けて次に望みを繋ごうとするからこそ、セリフのひとつひとつが重く、力強い。

「どの言葉たちも、すごく強い意味を持っていて、ハッとさせられるんです。なかでも、“不正解は無意味を意味しない”という言葉には、ものすごく元気をもらいました。とはいえ、当たり前とされていることを、“違うかもしれない”と思うこと自体、怖いことだということも分かります。作品のなかではその人間の弱さも描かれていますし、当たり前を守ろうとする宗教側の人たちも、しっかりと信念を持っているんですよね。そのどちらにも、人間らしさを感じました。正義は人によって変わってくるので、そのぶつかり合いがこの物語の魅力だと思います」

――もし、この登場人物たちのように、命懸けで守りたいものはあるかと聞くと、少しだけ時間をおいて、“音楽”と答えた。

「音楽は、自分の人生にリンクしているんです。これまで、音楽によって絶望することもあれば、音楽によって生かされていると感じたことも経験しました。そう思うと、自分にとって音楽は“命”なのかなと感じました。もし、このマンガの地動説が音楽だったとして、歌った瞬間に殺されるとしても、自分は間違いなく、歌うことを選ぶと思います」

――真っ直ぐに、迷うことなくそう言葉にする姿はとても真摯だ。さらに、本作で書かれている“言葉は奇跡”というセリフにも、感銘を受けたという。

「言葉は傷つける武器になりますし、逆を言えば救いにもなるんです。自由自在な言葉って、間違いなく奇跡ですよね。その想いを抱きながら、今回のセカンドアルバム『Versus the night』に収録される「それでも僕は」で、初めて作詞作曲に挑戦したんです。今まで歌詞を書かなかったのは、言葉を使うことに恐怖を感じていたからなんですよね。先ほどのように“奇跡”と呼ばれる言葉を、自分が上手く扱えるんだろうかと迷っていた。それでも、いまは紡ぎたい言葉があると思い、今回挑戦しました」

逃げてきた自分の弱さと向き合うことで、肩の荷が下ろせた気がします

――この「それでも僕は」では、yama自身が“命”と話す音楽に対して、否定的になってしまう気持ちを素直に歌っている。この言葉は、ミュージシャンにとって大きな勇気がいることだということは、想像に難くない。

「最初に作詞をするときに、今まで逃げてきた自分の弱い部分としっかりと向き合いました。カッコつけようとは一切せずに、素直に言葉を書いたときに、少し肩の荷を下ろせた気がしたんです。それと同時に、どんどん曲を作っていきたいと思うようになりました。言葉を紡いでいくことは、これからも続けたいなと思っています」

――そんなyamaがいま挑戦してみたいのは、新たな言葉と出会うための読書だと話す。

「作詞をし始めて、語彙や言葉の表現の仕方が大事だなって実感したんです。それは難しい表現をしなくちゃいけないというよりも、多くの視聴者の方が聞いた瞬間に理解し、分かる言葉を使いたいと思っていて。そのためには読書はすごく大事だなと思ったんです。それに、言葉のおもしろさにあらためて気づいたんですよね。ある言葉にハッとしたり、感動したり…。大きな影響を与えなくてもいいから、なにかひと言が刺さるような歌詞を書いていけたら、歌っていけたらいいなと思っています」

――セカンドアルバムには、Vaundyから楽曲を提供された「くびったけ」という曲も収録される。本作を制作するうえで、新たな自分と出会えた大事な曲になったようだ。

「パワフルでグルーヴィなこの曲を、どうしたら自分のものにできるんだろうと、今も悩んでいます。『チ。』の話と繋がりますが、今まで自分が正しいと思い、譲れないとさえ思ってやって来たレコーディングのやり方、テイクの選び方を一度置き、Vaundyさんに身を任せ、できる限り求めることに応えられるように挑戦したんです。その結果、Vaundyさんが本当に新たな表現を提案してくれたというか、見つけ出してくれました。レコーディングでVaundyさんに、『声が特徴的で武器でもあるから、こうアプローチしたほうがより声を活かせるんじゃないかと思って作りました』と言っていただけたのは、すごくうれしかったですね」

――そんな宝物のような歌声を持つyamaだが、それは天性のものではなく、努力の末、手に入れたもの。

「オリジナル楽曲である『春を告げる』をリリースするまでは、ボカロ曲を中心にカバーしていました。原曲が機械音なので、細かい歌い方や表現のディレクションは、自分なりに考えて実践していました。レコーディングをするときは妥協が無いように何回もトライして、盛ることなく、2000回くらい録っていたいたときも。なかなか納得できずに、1週間同じ曲を歌い続けることもありました。ですが、今は1回のレコーディングに集中して、感情的な部分をなるべく大事にしつつ、変化に気を付けながら歌っています」

――つねに現状に満足することなく、見据えているのは未来の自分だ。

「いま、自分で感じていることを表現したり、新たな自分を見つけるためには、もっとたくさんのアーティストさんの音楽を聴いてインプットしたり、新たなエンジニアさんとお仕事をしたりと、とにかく刺激を受けないといけないと思っていて。自分だけでは、限界を感じているんですよね。だからこそ、これからもたくさんのカルチャー作品や人に触れて、立ち止まることなく、アップデートしていきたいですね」

「Versus the night」

“夜=孤独=自分自身との闘い”をテーマに制作に打ち込んだセカンドアルバム。横浜流星主演の映画『線は、僕を描く』の主題歌「くびったけ」や挿入歌「Lost」の他、多くのタイアップ曲が収録。さらにACIDMANの大木伸夫やササノマリイ、DURDNなどバラエティ豊かな楽曲提供陣により歌声の音色を変えた、まさにカラフルな全13曲。特典映像には、アコースティックのライブ映像を収録している。

【プロフィール】

やま●SNSを中心に、ネット上で注目を集める新世代シンガー。2018年よりYouTubeをベースにカバー曲を公開し、活動をスタート2020年に初のオリジナル楽曲「春を告げる」が大ヒット。その後はオリジナル曲を中心に活躍。

『チ。―地球の運動について―』

「禁じられた真理」を探究する人々を描いた一大叙事詩。舞台は15世紀のヨーロッパ。当時一番重要とされていた神学への専攻を期待されていた神童、ラファウのもとに、異端思想のど真ん中である“地動説”を唱える謎の男が訪れる。当時は異端思想を持つ者は危険人物とみなされ、火あぶりに処されていた。しかし、真理に気付いてしまったラファウは、驚きの行動を取る。