ランジャタイ国崎和也「地下ライブでの経験は全部無駄だった」初エッセイ『へんなの』は「僕の集大成」《インタビュー》

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更新日:2023/4/1

国崎和也さん

 唯一無二の芸風で、観る者を奇天烈ワールドへいざなう漫才師・ランジャタイ。相方の伊藤幸司さんとともに、おかしな世界観を生み出し続ける国崎和也さんが、「国崎☆和也」名義で初エッセイ集『へんなの』(太田出版)を上梓した。

 少年時代のノスタルジックな思い出、地下芸人時代のエピソードなど、収められたエッセイは、どれもタイトルどおり「へんなの」ばかり。さらに、国崎さんに多大な影響を与えたマンガ家・漫☆画太郎さんの過去の短編を巻末に掲載するという、前代未聞の構成になっている。

 このエッセイについてインタビューを行ったところ、さらなる「へんな」エピソードが飛び出すことに……!?

取材・文=野本由起 撮影=島本絵梨佳

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ヤバイ時が一番笑っちゃう

へんなの

──国崎さんは、「QJWeb クイック・ジャパン ウェブ」で連載を始める前からメディアプラットフォーム「note」でエッセイを公開していましたよね。どういうきっかけで書き始めたのでしょうか。

国崎和也さん(以下、国崎):コロナ禍でずっと家にいて、暇だから何かやろうと思ったんです。オール巨人師匠のパネルを作ってた時期と、ちょうどかぶってますね。

 その後、「QJWeb クイック・ジャパン ウェブ」から連載のお話をいただいたんです。最初は地下芸人のコラムを単発で書いてほしいと言われたんですけど、2回目からはそのテーマもなくなって。自由に書かせてもらって、楽しかったですね。

──『へんなの』という題名どおり、国崎さんが出会った変な人や変な出来事について書かれています。まえがきには「あたくしはこの『わからないまま』がけっこう好きで、よくわからないまま進んでいく物事が、この世が好きです」とありますが、やっぱり「わからないこと」「へんなこと」がお好きなのでしょうか。この心境について、もう少し詳しく教えていただけますか?

国崎:子どもの頃、学校でテストを受けるじゃないですか。もう、全部わかんないんですよ。それがめっちゃ楽しくて。「無理だな」「これはヤバイぞ」って思うけど、白紙で出したら怒られますよね。だから絶対違うけど、算数のテストだったら「5」とか答えの欄に書いてみたりして。「全然違うよな」と思いながら「7」とか書くのが楽しくて、テスト中ずっと笑いをこらえてました。「こんなの、絶対怒られるだろうな」って(笑)。

──芸人になった今も、その感覚がずっと続いているのでしょうか。

国崎:続いてると思います。心の中でくすくす笑ってる感じが、ずっと続いてますね。ヤバイ時が一番笑っちゃいますね。

 この間、父方のじいちゃんが亡くなったんですよ。僕はコロナでお葬式に行けなかったんですけど、妹から「お兄ちゃん、来なくてよかったね」って言われて。火葬したあと、みんなで箸を持って骨を壺に入れるじゃないですか。なのに、親戚のじいちゃんがなぜか箸をもらえなかったらしくて。言えばいいのに、黙ったままうちのじいちゃんの骨を素手でつかんだんですって。でも、あれって、焼きたてだからあっちぃじゃないですか。「あつっ! あつっ!」って両手でお手玉して、最後に骨壺に「ウーーーンッ!!」ってぶち込んだらしいんですよ(笑)。妹はそれを見て、めっちゃ笑いをこらえてたらしいんですけど。やっぱり僕も、そういうので笑っちゃうんですよね。

昔のおもちゃ屋は、子どもを騙してなんぼ

国崎和也さん

──コラムを読んでいてすごいなと思ったのが、国崎さんの映像記憶能力です。小学生時代のことから最近の出来事まで書かれていますが、文章を読んでいると鮮明な映像が浮かびます。

国崎:確かに、いろんなことを映像で覚えてますね。モグライダーの芝さんもそうみたいです。勉強ができない人は、そういうことでしか覚えられないんでしょうね(笑)。文字がダメだから。

──「人や動物や出来事を、なんとなく、『ボヤーっ』とだけとらえて生きてきたので、言葉よりも色や音のほうが先に『ぐわん』とくる感覚がずっと残っていて、それでいろいろ物事をとらえたりできるのが、すごく楽しかったりします」という一文もありました。

国崎:ふわっとしたのが、最初に来るんですよ。その変な感覚が楽しいし、ありがたいですね。

──富山県で過ごした子ども時代のエピソードも鮮烈です。国崎さんが見てきた山や田んぼの風景が、目に浮かびました。

国崎:子どもの頃、よく竹やぶに入って遊んでたんですよ。竹って縦にまっすぐ生えていなくて、重力でちょっと斜めにしなってるんです。そこに寄りかかって、ぼーっとするっていうのを子どもの頃はずっとやってました。その間、本当に何もしないんです。でも、1、2時間くらい全然平気で。それが楽しかったんですよね。今やっても楽しいと思うので、皆さんも竹やぶを見つけたらぜひ(笑)。

──1、2年前に、実家に帰った国崎さんがインスタライブで犬を散歩させる動画をあげていたのを見たんです。それが、エッセイで書かれていた景色と重なりました。田んぼの横を歩きながら、「お母さんから『カラスに餌をやれ』って言われた」と言って餌を撒いているのを見てすごいな、と。

国崎:ヤバイですよね。本当はダメでしょ、あれ。母親が犬の散歩中にカラスに餌をやるから、犬を見るとカラスがついてくるんですよ。家の前の電信柱にも、めっちゃカラスがいて。不気味な家ですよ。良くない家です。近所でね、絶対悪く言われてます。「あの母親、またカラスに餌付けしてる」って(笑)。

──「子どものころから犬猫に囲まれた生活をしていたので、人間と犬と猫にあんまり境目がなく」ということも書かれていました。その感覚が、ネタにも表れているのでしょうか。

国崎:あるかもしれないですね。犬、猫、カラス、モグラとかネタに出てきますし、分け隔てがあんまりないかもしれないです。

──子どもの頃に通ったおもちゃ屋のおじさんたちのことも、よく覚えていますね。

国崎:覚えてます。昔は「ぎゃおッPi」っていう「たまごっち」みたいなおもちゃを、「たまごっち」だって言い張る店員もいて。今はネット社会ですから、ああいうインチキはもうないでしょうけどね。当時は子どもを騙してなんぼって世界でしたから。「遊戯王カードダス」のレアカードだけ抜いて、バラで売ってるおもちゃ屋もあってひどかったなー。もういくら回しても出てこない。

──どうしてズルしてるってわかったんですか?

国崎:友達全員で協力して回したんですよ。でも本当にレアカードが出てこなくて。で、お店のショーケースにレアカードが並んでて。3000円くらいで売られていて「なんだ、これ」みたいな。それは個人でやってるおもちゃ屋だったので、カードダスからいくらでもレアカードを抜けたんでしょうね。もう潰れちゃっただろうな、あの店。懐かしいなー。

──そういう昔の思い出話を読んでいると、こちらも懐かしさも感じました。書いてる時はどういう気持ちでしたか?

国崎:いや、普通でしたよ。楽ですよ、(仰向けに寝転がるポーズをしながら)こうやってスマホで打ってるんで。普通に記憶をたどりながら打ってました。

「ネタの途中でうんこ漏らした。拾ってくれ」って言われて……

──これまで出会ってきた芸人さんの話も、たくさん書かれています。特に印象深いのはどなたのエピソードでしょう。

国崎:誰だろう……。あ、中山亮さん! 今は実家の醤油屋さんを継ぐために、芸人を辞めて福岡に帰ったんですけど。でも、伝統の味が、聞いたらボタン1個でできるらしくて。機械でやるから、別に継がなくてもよかったんじゃないかって(笑)。

──今も交流はあるんでしょうか。

国崎:たまにあります。この本も送りましたし、としかわメンバー(国崎さんが参加していたライブ「としかわトーク」のメンバー。モダンタイムス、4000年に一度咲く金指、ウェンズデイズなど)に醤油を送ってくれることもあります。

 中山亮さん、芸人時代に借金100万円で自己破産したんですよ。普通します? もうちょっと頑張ればいいのに(笑)。周りの芸人は全員止めたんですけど、みんなの反対を振りきって100万円で自己破産。

──他にも、いわゆる「地下芸人」「地下ライブ」のお話も多いですね。地下ライブでの経験で、今役立っていることはありますか?

国崎:ないです。全部無駄だったな、みたいな(笑)。モダンタイムスさんが教えてくれたことって、何ひとつテレビで通用しないんですよ。「スベったら大きな声を出せ」とか、そういうことしか教えてくれなかったから(笑)。

 あと、劇場だと満席に見える椅子の並べ方とか教えてくれましたね。「お客さんがいない時は、こうやって椅子を並べると満席に見える」みたいな。確かに不思議と満席に見えるんですけど、本当に役に立たないんですよ。この間も、かわさん(モダンタイムス)から「お腹空いた」って呼び出されて、「芸人とは」ってえんえん教えてくれて、僕が奢って終わりました(笑)。

──そういう方々を、今ランジャタイの番組に呼ぶこともありますよね。恩返しをしたいという気持ちがあるからでしょうか。

国崎:確かに、全部の番組で名前を出してはいるんですよ。こないだも『ランジャタイ国崎のつっこめ台車! お笑いモンスターハウス』っていう番組があったので、モダン(タイムス)さん含めて地下芸人さんの名前を出したんです。他は全員いたんですけど、モダンさんだけ外されてました(笑)。そういうのが多々あります。それを話したら、モダンさんは「俺たちはもうテレビ局を許さない」って言ってましたけど(笑)。

──やっぱり「みんなで売れたい」という思いがあるんですか?

国崎:ありますね。モダンさんは「みんなで売れたいよなー」ってよく言います。でも、売れていくのは周りだけ。マヂカルラブリーさん、アルコ&ピースさん、脳みそ夫さん、ザ・ギースさん、マツモトクラブさん……全員モダンさん軍団なんですよね。気づいたらモダンさんだけ売れてない(笑)。

──芸人仲間のお話は、ネタが尽きませんね。

国崎:モダンさんばっかりですけどね。劇場に出た時、僕らはモダンさんの次の出番だったんです。モダンさんは、阿佐ヶ谷姉妹さんをひどくした「蒲田姉妹」のネタをやってめちゃくちゃウケて。で、暗転したらかわさんが逃げるように走っていって、としさん(モダンタイムス)が血相変えて「ちょっと来てくれ!」って。何かと思ったら、「かわさんがネタの途中でうんこ漏らした。拾ってくれ」って言うんです。それで、暗闇の中、みんなで懐中電灯もって「どっかに転がってるはずだから」「あったあった!」って。嫌ですよー。そういうのばっかりですからね。

自分の本に漫☆画太郎先生のマンガが載るなんて!

国崎和也さん

──今回、そういったエピソードが一冊にまとまった感想は?

国崎:単純にうれしいっすね。書店に行ったら、自分の本があるんですもんね。まだ確認してないですけど、すごいですよね。「これ書いたの、僕なんです」ってやりたいです。勝手にいい場所に並べたい。

──読み返してみて、特に国崎さん自身が気に入っているのは?

国崎:最後に載ってる大先生のマンガですね。漫☆画太郎先生のマンガを載せていただけたんですよ。それが一番気に入ってます。

──よく載せられましたよね。

国崎:いや、めちゃくちゃありがたいです。こんなことないですから。自分の本に大先生のマンガが載るなんて、信じられないです。

──漫☆画太郎先生には、国崎さんからお声がけしたんですか?

国崎:いえ、太田出版の副社長です。副社長が、偶然にも漫☆画太郎先生の担当で。はじめは冗談半分で「僕の本に先生のこのマンガを載せたいんですけど、いけますか?」って聞いたら、「ちょっと話を通してみます」って。

 僕らが前にDVDを出した時に、サンプルをいろんな方に送ったんですよ。その中で唯一、画太郎先生が手紙をくださって。めちゃくちゃうれしかったです。

 今回も、最後の最後に「『友情出演』ってお名前を載せてもいいですか」って言ったら、それもOKをくださって。本当にありがたいです。

──今回の書籍は、「国崎☆和也」名義で刊行されています。名前に「☆」を入れたのも、漫☆画太郎先生の影響でしょうか。

国崎:それもあります。あと、最初は「ふっとう茶☆そそぐ子ちゃん」っていう名前でやろうとしたんですけど、さすがに本名を入れないとキツイという話になって。それで「☆」を残したというのもあります。この星マークも「★」にしようかとか、一回こだわろうとしましたね。よく見たらやっぱり「☆」のほうがよかったので、こっちにします、とか。

──カバーイラストもかわいいですね。こちらも、国崎さんが選んだのでしょうか。

国崎:かわいらしいっすよね。フカザワユリコさんって方のイラストなんですけど。大田区か品川区の郵便局で見た地域の雑誌にこのイラストが載ってて。もう5、6年前ですけど、印象に残りすぎてて、写メ撮って。今回本を出すとなった時に、「あ、そういえば」って思い出して調べてもらったんですよね。それで、表紙にイラストを使わせてもらえることになったんです。

 画太郎先生しかり、フカザワさんしかり、いろんな方に協力していただけてありがたいですよね。僕、なんもしないですから。帯には川原さん(天竺鼠・川原克己)からコメントをいただきましたし。

──このコメントもひどいですよね(笑)。

国崎:「まだ読んでないけど、面白かったらいいな~」っていうコメントですからね。最初、編集さんから「このコメントだけだととんでもないので、何人かにコメントをいただいて、そこに紛れ込ませましょう」って言われたんです。でも、候補の方々が多忙すぎて、川原さんしか残らなかった(笑)。結果、最高の形になりましたね。

──この本には、川原さんとのエピソードも書かれていました。

国崎:不思議なんですよね。こんなに感覚が似てる人は、初めてでした。先輩ですけど、普通に友達ですね。普段もあのままの人なんです。「耳は眼鏡をかけるとこじゃない」みたいなことをずっと言いますし。「みんな当たり前のように眼鏡を耳にかけてるけど、耳のこの部分はそういうところじゃない。耳もそう思ってない」って言うんですよ。まぶたについても言ってたな。「ムキムキに鍛えたマッチョでも、眠たい時は我慢できずにまぶたがくっつく。みんなかわいい」って。変ですよね。面白いっすけど。

──今回ご著書を出版されますが、他に挑戦したいことや野望はありますか?

国崎:今はもうないですね。この本で出し切りました。ここがピークです。多分これが、僕の集大成です(笑)。

──どんな方に読んでほしいですか?

国崎:画太郎先生が読んでくださって、手紙までいただいたのでもう満足です。川原さんはこのまま読まないでしょうね(笑)。この間、会った時も「まだ読んでない」って。「読まないだろうな。おもろかったらええけどな」って言ってました。あれは、もう読まないっすね(笑)。

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