吉川ひなのさんが選んだ1冊は?「幼い頃の私を守ってくれるような、自分の気持ちを代弁してくれた一冊」

あの人と本の話 and more

公開日:2023/8/13

 ※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年9月号からの転載になります。

吉川ひなのさん

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、吉川ひなのさん。

(取材・文=河村道子 写真=山口宏之)

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“ひなのの親は毒親だったの?”。2年前、エッセイ『わたしが幸せになるまで』を上梓したとき、初めて明かした自身の生い立ちに、読者からはそんな声が上がってきたという。

「そのとき初めて毒親という言葉を知りました。嫌な言葉だなと思いつつ、言葉の由来を調べていくと、この本をきっかけに皆が使うようになったことがわかって。けれどページを開いてみると、まるで小さな子どもの頃の自分を守ってくれる温かな空間にいるような心地になれたんです。まるで自分の気持ちを代弁してもらっているような。もっと早くに出合えていたらと思いました」

 自分を守る術を知らない幼い頃に、親からされたことで大人になった今も苦しむ人たちがいる。カウンセリングの現場から発想された本書は様々な事例から、そんな人々の傷ついた心に寄り添い、光を示す。そのひとつとして示されるのが、あなたは親を許さなくていい、ということ。

「許すことが自分を救うと言われますが、この本は許さなくていいと。じゃあ、許す、許さないっていったい何だろう?という問いが自分のなかに浮かんできて。その問いに向き合ったのは、今まで誰にも話せなかった母親のことを書いてみたい、と思い始めていたときでした」

 その奇跡のようなタイミングから紡がれていったのが、最新エッセイ『Dear ママ』。“書く”ことは吉川さんにとって最も自分らしく、自分を知ってもらえるものだという。深奥にある気持ちと向き合い、それらを言語化していくときの美しさ、強さが、この一冊には溢れている。

「こんなこと書いたらママが嫌がるんじゃないか、という罪悪感の生まれる回路が自分にはできてしまっていたんですね。けれどそれをまっすぐに受け入れ、認めて、正直に表現していくことで手放していきました。“事実はこうです”と著すことで」

 最終章「わたしのままを受け入れる」では、執筆の発露ともなった“許し”について記されている。

「この章は、書けない時間が続きました。書けないのはなぜ?と、自分に向き合うことから再び始めて……の繰り返しでした」

 文章にはそんな心の動きもありのままに刻まれている。そしてその揺らぎは、読む人の心を動かしていく。

「本当の自分で生きる覚悟をしたいと思いながら書いていました。もし関心を抱いてくださったとしたら、この本を通して、私が寄り添えますように、と思っています」

スタイリング:宮澤敬子 メイク:SADA ITO ヘア:shuco 衣装協力:ワンピース8万9100円/edit & co. Dress Me(TEL03-5464-7767)、ピアス 2万4090円/ripsalis(ロードス TEL03-6416-1995)、リング 3万8500円/タラッタ(ロードス) *すべて税込

よしかわ・ひなの●13歳でデビュー後、一躍トップモデルに。女優や歌手としても活躍。第一子の妊娠をきっかけにハワイに移住。オーガニックコスメブランド「hinalea」、子ども服ブランド「Love the Earth blue」をプロデュース。環境アクティビストとして情報発信も行っている。著書に『わたしが幸せになるまで』など。

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『Dear ママ』

『Dear ママ』

吉川ひなの 幻冬舎 1650円(税込)
●実母との複雑な関係や境遇、これまで語ってこなかった過去の傷について綴った「ママとわたし」、3人の子育てをするなかで現れてきた本当の自分、愛することのスキルを磨く日々を軽やかに著した「母親になったわたし」、そして“無理に許そうとしない”境地に至るまでを記した「わたしのままを受け入れる」―。3章から成るエッセイのなかには自分を大切にする本当の意味が見えてくる。