「ヘラヘラしてその場を取り繕う」人見知りのホンネを描いた漫画に学ぶ、心地よい人付き合い【漫画家インタビュー】

マンガ

更新日:2024/4/18

意見を言わない人は意見を期待されなくなっていく。漫画を通じて自分の意見を表現できるように

 現在は漫画家として活動しているわたなべさんだが、過去、会社勤めをしていた経験もあったそう。新人研修を受けていたころ、同期から「誰もおもしろいこと言ってないのに、なんで笑ってんの?」「ヘラヘラして見えるからやめた方がいいと思うよ」と言われてしまう。これ以外にも、会社員時代人見知りで苦労してしまったことはあったのだろうか?

「人見知りがバレたくない人見知りだった私は、笑うことでその場に馴染もうとしていたし、ハッキリ意見を言うことや拒否することが苦手だったので、周りからは『ヘラヘラしてる人』『物事あまり深く考えない人』と思われていたみたいなんですね。意見を言わない人というのは、普段から意見を期待されなくなっていくみたいで、『わたなべさんもこれでいいよね』みたいな感じで、私の気持ちをスルーされることが増えていったような気がします。その結果、よくわからない雑務が増えていたり、レクリエーションの日程も勝手に決められていたり…。あとはやっぱり部署の人達とのランチタイムがめちゃくちゃ苦手でしたね。毎日のように顔を合わせて世間話するなんて私には拷問にも等しいと思っていました(笑)。入社して数カ月後、あまりに辛くなってきたので、『節約のために自炊していて…』とお断りして、自分のデスクや敷地内のベンチで、ひとりでランチするようになってホッとしたことを覚えています」

人見知りの自分を許せたら生きるのがラクになりました

 会社を辞めて、仕事での人付き合いはどのように変化したのだろうか?

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「アシスタントさんを雇っても、人見知りでうまくお仕事を頼めなさそうなので、デビューしてからずっとひとりで漫画を描いてきたんですけど、やっぱり会社員の頃と比べて圧倒的に接する人数は減りましたね。基本お取引のある編集部の担当さんのみ、ほんの数人とのやりとりで仕事ができてしまいます。担当さんとのやり取りは、始めはやはり緊張感がありましたが、描いている作品が心の中を描くエッセイということもあり、自分の考えを腹を割って話さなくてはならないことも多くて。担当さんたちもそれに応えて同じように腹を割ってご自分のことを話してくださるので、私としてはとても信頼をおいていて、居心地の良いものだと感じています。仕事上では数人の編集さんとのやりとりだけですが、仕事を通じて漫画家さんやイラストレーターさんとの横のつながりができたのがとてもうれしかったですね」

人見知りの人付き合い下手…。自分のような悩みを持つ人の背中を押したい

 会社員時代には自分の意見をなかなか言えないでいたわたなべさんだが、コミックエッセイを通じて自分の意見を表現できるようになり、結果仕事の成功につながっていったようだ。わたなべさんはかつて“汚部屋”住人でもあり、そこからの脱却を描いた『ダメな自分を認めたら部屋がキレイになりました』も上梓している。“ダメな自分を認める”、“人見知りを許す”というのは自己分析であり、自己容認と言えるだろう。自分を卑下する自虐ではなく、正しく自分を見つめる自己分析をどのようにしているのだろうか?

人見知りの自分を許せたら生きるのがラクになりました

「自己分析、私自身はあまり得意とは思っていないんです。あえて言うのであれば『自分を好きになりたい』(幻冬舎刊)でも描かせてもらった通り、子どもの頃から母との関係が良くなかったことで、幼い頃から『どうして私は母にこんなに叱られてばかりなんだろう』『私のどこがそんなに悪いのだろう』と自分を省みるクセがついていたのが今の自己分析につながっているのではないかと思っています。今現在、自己分析をする上で気を付けているのは客観視です。第三者の目線になって自分のことを見つめることができたら…と、いつも思ってます。例えば部屋が汚く人見知りなのが、友達のことだとしたら私はどう思うだろうか、何をしてあげられるだろうかと考えてみることが多いかもしれません」と語るわたなべさん。物語冒頭に登場したHさんとも、本来の対等な友人同士に戻れたと思っているそう。

「以前より気楽に付き合えています。自虐ネタを話題提供に使わないと自分の中で決めてから、“アドバイスする人”VS“いつも何か悩んでるダメな人”という構図がなくなって、本来の形に戻れたと思っています。ただ、以前よりは少しだけ距離は感じる気はしますね。もちろん嫌な距離ではなくて、お互いを尊重し合える距離というか。言いたいことを言ってぶつかり合って常に近くに…という関係は私には向いていないと思うので、今くらいの付き合いがとても心地よくてありがたいと思っています」

 最後に、人見知りに悩む方へのメッセージをもらった。

「人見知りの人付き合い下手でこれまで生きてきた私は、対人関係への苦手意識が体にしみついているような状態でした。人と疎遠になるたびに自分を責めてしまって何度も傷ついてきたので、新しい人間関係を築くことに恐怖心がありました。でも今は少し怖がり過ぎていたのかな、なんて思っています。この本が『私も変わってみたい』と思っている方の背中をそっと押すことができるならうれしいです」

取材・文=西連寺くらら


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