現役デパ地下レシピ開発者が伝授! 10分でデパ地下デリが作れるアイディア満載のレシピ集

食・料理

公開日:2024/4/12

目指せ10分! デリキッチン
目指せ10分!デリキッチン』(白井ありさ/KADOKAWA)

 時間がないとき、疲れたとき、来客をもてなすとき…頼りになるのがデパ地下のデリ惣菜だ。見た目がオシャレで味も格別。そんなデリ惣菜が自宅でも作れるとしたら? しかも、たった10分で!
 そんな夢のようなレシピを惜しげもなく教えてくれるのが『目指せ10分! デリキッチン』(白井ありさ/KADOKAWA)だ。
 デパ地下デリの現役レシピ開発者だからこその発想と時短のコツ、こだわりポイントまで著者の白井ありささんに伺った。

デリ惣菜を自宅で再現するポイントは、欲張らずに“手を抜く”こと!

――デリ惣菜を開発するとき、どんなことを大切していますか? そして、白井さんならではのこだわりは?

白井ありささん(以下、白井):“目から食べる”という言葉があるように、第一に見た目が良いこと、おいしそうなビジュアルであることを大切にしています。同じ食材でも切り方ひとつ違うだけ、発色の濃淡が微妙に違うだけで、見た目のおいしさや見栄えが大きく変わります。
 食材そのものが持つ特徴を引き出し、使われるメニューの中で、その食材が最大のポテンシャルを発揮できるように、ひとつひとつの食材の取り扱いにこだわっています。また、盛りつけも非常に大切にしています。

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 これも約8年デパ地下の商品開発に携わった経験が活きていると思います。フロアにたくさんの惣菜店(競合)があるなかで、まずはいかに見た目で目を引き、足を止めてもらうかを意識した商品作りをしてきました。見た目がきっかけとなり、その料理に興味をもち、食べてみたくなるようなデリメニューの開発を心がけています。

――デパ地下デリのような惣菜を家庭で再現しようとするなら、ここがポイント!ということは何でしょう?

白井:家庭で再現するときのポイントは、欲張らずに“手を抜いてみる”ことだと思います。実際に販売されているデパ地下惣菜は、“おうちで作れないプロの味”“おうちで作るには難しい調理工程”“おうちで揃えるには大変な複数食材”といった大きく分けて3つの要素が組み込まれており、おうちで作るにはハードルの高いお惣菜だと思います。
 だから、「買う」意味があります。当たり前ですが、簡単に再現できてしまうような惣菜では、デパ地下で買う必要がありませんよね。

 そのうえで、実際にデパ地下惣菜をおうちで再現する際には、例えば8種類も食材を使って作られているサラダであれば、4~5種類に食材を絞って作ってみたり、キッシュを作るときのパイ生地をクロワッサンに代用してみたり、完璧に再現するのではなく良い意味で“手を抜く”ことがポイントです。

アスパラベーコンのクロワッサンキッシュ

――その“手抜き”アイディアで驚いたのが、本書でも紹介されている『アスパラベーコンのクロワッサンキッシュ』です。パイ生地の代わりに市販のクロワッサンを使う発想に驚きました。

白井:私は食べるのも料理するのも大好きなのですが、結構面倒くさがり屋です(笑)。キッシュの生地は一般的に冷凍パイシートを使って作りますが、値段は高いし取り扱いが面倒、かつ余ったパイシートが冷凍庫にずっと眠っている…なんてこともよくありました。

 そこでパイシートの原材料に注目! ほぼ「クロワッサン」と同じじゃん!と気がつき、スーパーで一番安いクロワッサンを使ってキッシュを作ってみました。すると大成功。アパレイユ(卵液)の配合にもこだわり、隠し味のしょうゆで誰でも簡単にコクをプラスできます。これはいろんな方に知ってほしい一押しレシピです。

自分の感動を再現したい! 複雑な工程を簡単にアレンジするために…プロならではの試行錯誤

飲めるレンチン卵焼き

――“おうちで作るには難しい調理工程”を見事に家庭向きにアレンジされているのが『飲めるレンチン卵焼き』ですよね。電子レンジでふっくらしっとりシュージーな卵焼きができるなんて嬉しい限りです。

白井:これは、板前修行しているときに習った、だし巻き卵が原点になっています。飲めるくらいぷるぷるで本当においしくて感動しました。家で作る卵焼きといえば、お弁当に入れるようなものしか知らなかったので、そのときの喜びは今でも鮮明に覚えています。

 でも、家で再現するにはハードルが高い。ガスを使い、卵液を何度も分けて巻き時間がかかるし、うまく巻けるようになるまで大変だし、そのうえ巻き簀を使います。なので、なかなか家で気軽には作れないなぁ…と思いました。

 そこで、手軽に入手できるお豆腐を使い、レンジで簡単に作れるレシピを開発しました。特に、誰もがうまく作れて、飲めるくらい柔らかい食感に仕上げるために、加水率は何度も試行錯誤しました。

――その試行錯誤の結果を惜しげもなく公開してくださっているのが、この『目指せ10分! デリキッチン』なんですね。
デリ惣菜にこだわらず、毎日の食事作りが少しでもラクになったり、調理を面倒に思わなくするコツってあるんでしょうか?

白井:旬を味方につけることが、毎日の食事作りがラクになる秘訣だと思います。日本には四季があり、食材には走り・旬・名残といった時期がありますが、旬は1年のうちで食材のピーク。最もおいしい時期で、安く入手でき、新鮮で栄養価が高いメリットがあります。
 食材そのものがおいしいと、手をかけなくて済むので、実はとってもラクして食べることができますよ。

 例えば、春が旬のスナップえんどうがあったとします。蒸して塩をかけたり、マヨネーズかけるだけで絶品! 立派な副菜になります。菜の花であれば茹でてめんつゆをかけるだけでおいしいですよね。
 食材そのものが新鮮でおいしければ、加える調味料はひとつだけで十分においしくいただけます。なので、旬を味方につけることをおすすめします。

さっぱりガリトマト

――それを伺って、本書に紹介されている『さっぱりガリトマト』を思い浮かべました。これからの暑くなる季節にぴったりですよね。この食材の組み合わせは“目からウロコ”でした。

白井:私自身、年々お酒を飲むと食事の量が食べられなくなってきまして…。食事の後半戦、調味料やお腹にたまらない漬物などをアテにして飲むことが増えました(笑)。
 その中でもガリが好きで、お口の中をさっぱりしてくれて、食べるとよりお酒が進むしおいしく食べられちゃう!と気がついたんです。

 そこで、ガリをもうちょっとオシャレにデパ地下風にしてあげたいな、と思い、トマトとしそと組み合わせました。ガリに味がしっかりついているので、味つけはとてもシンプルに。しその香りも良い爽やかなサラダになりました。

食事作りは毎日だからこそ、少しでもラクしておいしく、楽しんでほしい!

――毎日食事作りに苦労している身として、本書には時短のコツがギュッと詰まっている点も嬉しかったです。スーパーで入手しやすい身近な食材を使っていたり、電子レンジや炊飯器を活用することで調理のハードルがグッと低くなっていたり。
特に“目指せ10分!”に、救われる思いがして(笑)。

白井:忙しい日々の中であっても、気軽に挑戦できる料理であってほしいという願いも込め、10分以下で作れるレシピを数多く盛り込みました。普通だったらもっと時間がかかってしまうメニューでも、10分あればごちそうができる時短のコツをたくさん盛り込んでいるので、ぜひ参考になさってください!

――最後に、この本に込められた白井さんの想いを教えてください。

白井:大手食品メーカーで商品開発に携わった経験、板前修行、デパ地下の商品開発に携わった経験など、この本は約10年の活動の集大成です。これまでに培った知識や経験、ノウハウ…書籍に載せられるものは全てを盛り込みました。本当は秘密にしたい、とっておきのレシピも(笑)。

 この一冊を通して、一見難しそうな料理を簡単においしく作れることで、料理に対する苦手意識が減って「私ってすごい!」と自己肯定感がちょっとでも上がるのに役立てばうれしいです。
 また、食事作りは毎日だからこそ、少しでもラクしておいしく&楽しめることで、日々の活力になると信じています。ぜひ、お手にとっていただけますと幸いです。人生限られた食事回数のなか、大切な一食に私のレシピをお役立ていただけましたら何よりです。

取材・文=岸田直子、撮影=佐々木美果