橋本 愛「恐怖を作り出すのは想像力。結局は自分の頭の中次第」

あの人と本の話 and more

2016/1/7

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、1月30日に公開される映画『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―』で、一人暮らしのマンションで聞こえるはずのない音に悩まされる女子大生を演じた橋本愛さん。以前からのファンだという西加奈子さんの小説『漁港の肉子ちゃん』について訊いた。

 いつも鞄に必ず文庫本が入っているという橋本さん。西加奈子さんの小説は、『窓の魚』を読んで以来、好きで読み続けているという。

「『窓の魚』はとても詩的な印象だったけど、最近の作品はどんどん現実味を帯びてきて、より私自身に“近く”なったような気がします。西さんの小説は、いつも自分がしゃべっているような語り口で、言葉がすっと自分の中に入ってくる。『これはどういう意味だろう?』と引っかかるところが一つもないし、わかりやすくて読みやすいと同時に、言葉に強さがこもっている。大好きな作家さんの一人です」

『漁港の肉子ちゃん』は、11歳の少女・喜久子の目線を通して、漁港町の風景とそこに生きる人々が情感豊かに描かれる。同時に、喜久子にしか見えない三つ子の幽霊や、喜久子にしか聞こえない動物の声など、不可思議な描写も加わりながら、喜久子の繊細に揺れる心を丁寧に映し出していくのだ。

「チョウチンアンコウのエピソードが好きでした。雌の10分の1の大きさしかない雄がひとたび雌の体に吸いつくと、一体化していってやがて小さなイボになる、という話を読んで泣いてしまった喜久子がとても愛おしかった。ペンギンの話も好きですね。水族館に一羽だけいるペンギンのカンコが、どういう経緯を経てそこにたどりついたのかという、彼女なりの解釈も面白かった。喜久子に心情を重ね合わせて追っていった先に描かれたラストが一番好きで、何度も読みました」

 1月30日より公開の映画『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―』は、山本周五郎賞を受賞した小野不由美のドキュメンタリーホラー小説が原作だ。

「原作にはすごく興味があるんですが、怖くもあるんです。小説って、自分の想像力だけですべてを補わなきゃいけないじゃないですか。恐怖を作り出すのは、結局自分の想像力。頭の中次第でどれだけでも怖くなれますから。映画はすべて目に見えるので、ホラーを観るのも抵抗はないんですけど」

 映画の台本を読んだときも、「すべてが書いてあるから怖くなかった」という橋本さん。だが、ある種の客観性を持って演じられる“間”が、観る者にじわじわと妄想を喚起させ、恐怖のかけらが匂いたつ。

「自分が演じるとなると、どのタイミングで何が起こるのかすべてわかってしまうので、怖いという感情は一切なくなりますね。ただどう見せるか、どう怖がらせるかという自分の役割をまっとうするだけ。だから、観た方に『怖かった』と言っていただけるととても安心します。でも、今回の映画はただ怖がらせるだけの作品ではなくて。幽霊ももとは人間だったのだから、心霊現象をたどっていけば、それぞれに関わった人間の生にたどりつきます。すべてが一つにつながったときに浮かび上がる悲劇の裏に漂う哀切もまた、この作品の魅力なんじゃないかと思います」

(取材・文=立花もも 写真=冨永智子)

橋本 愛

はしもと・あい●1996年熊本県生まれ。2009年『Give and Go』で映画デビュー。10年、映画『告白』に出演し注目を浴びる。出演作に『アナザー ANOTHER』『寄生獣』、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』など。日本アカデミー賞優秀新人俳優賞など数々の賞を受賞。16年、映画『シェル・コレクター』が2月公開。
ヘアメイク=赤松絵利(esper.) スタイリング=髙山エリ 衣装協力=ワンピース6万5000円(税別)(COSMIC WONDER/Center for COSMIC WONDER TEL03-5774-6866)

 

『去年の冬、きみと別れ』書影

紙『漁港の肉子ちゃん』

西 加奈子 幻冬舎文庫 600円(税別)

男に騙され続けた末、北陸の小さな漁港町に流れ着いた肉子ちゃん。でっぷり肥えて不細工で底抜けに明るいけれど頓珍漢でやや下品。そんな彼女を反面教師に、娘の喜久子は小学生ながらに処世術にたけたクールな美少女。だが繊細な喜久子は心の傷を負うたび、肉子ちゃんに癒されていく。惜しみない愛に溢れた母娘の物語。

※橋本 愛さんの本にまつわる詳しいエピソードはダ・ヴィンチ2月号の巻頭記事『あの人と本の話』を要チェック!

 

映画『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―』

原作/小野不由美『残穢』(新潮文庫) 監督/中村義洋 出演/竹内結子、橋本 愛、佐々木蔵之介、坂口健太郎、滝藤賢一 配給/松竹 1月30日(土)全国公開 
●怪談雑誌に連載を持つ小説家の「私」に届いた読者からの手紙。それはマンションの部屋で奇妙な音に悩まされる女子大生・久保さんからだった。かつて同様の手紙をもらっていたことに気づいた「私」は久保さんとともに調査を開始。住人たちを襲った悲劇を辿るうち怪奇の連鎖に巻き込まれていく。
(c)2016「残穢-住んではいけない部屋-」製作委員会