土村 芳「『べっぴんさん』は、自分が演じる役の愛し方を、ていねいに感じ取ることができた、かけがえのない作品です」

あの人と本の話 and more

公開日:2017/3/6

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、NHK連続テレビ小説『べっぴんさん』で、ヒロインとともに、子ども服づくりに情熱を注ぐ“君ちゃん”こと、君枝を演じている土村芳さん。心弾む、“キアリス”メンバーの物づくりの場面の秘話、そして、そこに込められている想いとは?

「小さなところまで目が行き届く、視野が広がる。私の日常にも、もしかしたら、こんな世界があるかもしれないと探したくなってくる。読んだ後はいつもそんなふうに感化されてしまうんです」

 前回、このコーナーに登場してくれたとき、お薦め本として挙げてくれた『ふくわらい』をはじめ、「西加奈子さんの作品が大好き」と語る土村さん。その最新作『i』が、気になって仕方ないのだけれど、今はドラマ『べっぴんさん』の世界観に集中しているため、「なかなか他の物語の世界へ行けないんです」と、ちょっぴり淋しそうに微笑む。代わりに今よく手に取っているのは、今回紹介してくれた図鑑や、折り紙、刺繍など、手作りに関する本。
「『べっぴんさん』の撮影に入るひと月ほど前から、ストーリーによく登場するお裁縫のシーンのための訓練がありました。針の正しい持ち方から学び、指抜きを使ってスムーズに並縫いができるところまで。それができるようになってからは、自分の好きな模様を刺繍したり、小物を作ったり、楽しく裁縫をすることができるようになりましたね」

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 ドラマのなかでは、ベビー・子ども服専門店「キアリス」の店内で、創立メンバーである4人の女性たちが物づくりをしながら、楽しそうに語り合うシーンが観る人の心を柔らかにする。

「女学校時代から始まり、家庭を持ち、母となり……と、長い年月を経ながら、積み重ねてきた役ですが、お裁縫をしているシーンだけは、10代の頃の役の気持ちに戻ってしまうんです。“これ、いいね”と、4人が笑顔を見せるときの、ふわっとした空気感は、仕事や家庭の悩みを抱えているときも、そのすべてから離れ、タイムスリップしてしまうようなものを持っている。女性として、母として、成長の過程を演じながらも、そこだけは変わらない、という部分を大切に演じています」

 病弱で生真面目、けれど、ふわりと周りを包み込むような空気をまとった土村さん演じる君枝は、ストーリーのなかでいくつもの局面に出会ってきた。仕事と家庭の問題、息子の子育てに関する姑との意見の相違……けれど、その解決の仕方は“やっぱり、君ちゃんだね”と頷けるような、そして観る人にも何か示唆してくれるものを与えてくれる。

「でも、放送最終月の今月は、君ちゃんもこれまでにない大変な時期に差し掛かってくるんです(笑)。大阪万博の時代になり、キアリスも新しい風を取り入れ始めて、そこでも悩むことが多くなってくる。仕事も家族も、目まぐるしく動いていく、そんなキアリスの季節を、最後まで見守っていただけたら、うれしいです」

 本作では、初の連続ドラマ、レギュラー役を担い、新たな扉がまたひとつ開いたという。

「ここまで長い期間、ひとつの役と向き合ってきたという経験は、これから様々な役と出会っていくとき、私の基礎になっていくと思います。役に対する歩み寄り方、寄り添い方をじっくりと学んだ作品でした。自分が演じる役の愛し方を、ていねいに感じ取ることができました」

(取材・文=河村道子 写真=干川 修)

土村 芳

つちむら・かほ●1990年、岩手県生まれ。京都造形芸術大在学中、林海象監督に注目され、映画『彌勒 MIROKU』で主演。主演舞台『銀河鉄道の夜』が、シアターグリーンフェスタ2014で賞を受賞。出演作に舞台『母に欲す』、映画『カミハテ商店』『劇場霊』『何者』、ドラマ『コウノドリ』など。4月6日スタートの『恋がヘタでも生きてます』(日本テレビ系)に出演。
ヘアメイク=石邑麻由 スタイリング=道端亜未 衣装協力=ワンピース4万8000円、ピアス1万5000円(THEATRE PRODUCTS/THEATRE PRODUCTS OMOTESANDO TEL03-6438-1757)(すべて税別)

 

『魔女図鑑 魔女になるための11のレッスン』書影

紙『魔女図鑑 魔女になるための11のレッスン』

マルカム・バード/作・絵 岡部 史/訳
金の星社 2260円(税別)

“実験にともなう危険について、当方はいっさい責任を持ちません”。そんな言葉から始まるレッスンは、魔女の家、ならわしといいつたえ、魔法のかけ方、美しさのひみつなど、魔女になるための秘策を明かしていく。細やかに描かれた絵、ユーモラスな言葉は、現実と地続きになって、読む人に魔法の力を与えてくれる。

※土村 芳さんの本にまつわる詳しいエピソードはダ・ヴィンチ4月号の巻頭記事『あの人と本の話』を要チェック!

 

ドラマ『べっぴんさん』

脚本/渡辺千穂 出演/芳根京子、谷村美月、百田夏菜子、土村 芳、永山絢斗ほか
NHK総合 月~土曜 8:00~8:15放映中
●商売哲学を持つ父のもと、何不自由なく育った坂東すみれ。だが戦争はすべてを奪う。生活のため、洋裁の腕を生かし、仲間とともに始めた子供服作りに情熱を注ぐ、女性の仕事と家族の物語。高度成長期に舞台が進む放送最終月は、成人した子供たちの母としての迷い、そして愛情の過程が描かれる。