耽美で官能的な世界を描いた処女小説が書籍化『ヴィオレッタの尖骨』宮木あや子

小説・エッセイ

2017/10/12

昨年、ワーキングガールズエンタメ『校閲ガール』がドラマ化された宮木あや子さん。だが、その真髄はむしろ耽美で官能的な作品にある。その原点でもある処女小説を所収した新刊『ヴィオレッタの尖骨』がこのたび刊行された。

宮木あや子さん

宮木あや子
みやぎ・あやこ●1976年、神奈川県生まれ。2006年『花宵道中』で「女による女のためのR-18文学賞」大賞&読者賞をW受賞しデビュー。14年、同作が実写映画化。著書にドラマ化された『校閲ガール』シリーズをはじめ、『白蝶花』『雨の塔』『セレモニー黒真珠』『野良女』『あまいゆびさき』など多数。

 

「神様、湯気をちょうだい」――煙草を吸う少女にそう言って、くちづけをねだるもう一人の少女。女子校という楽園で暗い闇を共有する少女たちを描いた「紫陽花坂」を宮木さんが書いたのは、彼女たちと同じように女子校に通っていた16歳の頃。

「13歳で短編を書いて、15歳で小説家になろうと決めて。文藝賞に応募するために書いた初めての中編小説です。起承転結のつけ方も、読者の楽しませ方もわからない状態で書いたから、すごく拙い。だけど情熱だけは迸っていて、読み返してみるとおもしろかった。私の分身のような作品なので、どこをどう直していいかわからず、編集からの助言ももらって、結局5回も改稿しました(笑)。通っていた女子校はこんなにドロドロしていなかったし、むしろ幸福な場所だったけれど、だからこそ何度も小説の中で戻りたくなるのかもしれません」

技術を凌駕する熱量で疾走する本作は、まさに宮木さんの原点だ。表題作「ヴィオレッタの尖骨」に込められた想いも同様に深い。

「声楽の絵梨と、バイオリンのひづる。彼女たちが通う、音楽科と美術科のある高校にはモデルがあって、私はそこに入りたかったんです。人数制限で受験すらできずに諦めたのだけど、音楽を専攻する2人組の少女をいつか書きたいと思っていました。それからもうひとつ、踝を抉り出される美しい少年というのを書いてみたくて。ちょうど『校閲ガール』を執筆していた時期だったんですが、エンタメとはまた違う、美しく耽美な物語も書きたい……という欲求が湧いてきて。タイミングよく“まるごと愛”というテーマで短編の依頼を受けたので、2つのモチーフをあわせ、所有欲というちょっと変わった愛の形を描いてみました」

高校卒業後は家のために身売りされる茉莉と、彼女を逃そうとする逸子の旅を描いた「針とトルソー」。遊郭でしか生きられない双子が人生の出口を探す「星の王様」。時に暴力に晒されながら、彼女たちはみな、自分を縛るものから抜け出そうとあがく。

「『星の王様』は、今も実在する遊郭の写真をみて衝撃を受けたのがきっかけです。いつかその場所を舞台に書いてみたいけど、まずは想像だけで描いてみました。『針とトルソー』は、痛みを抱えたまま二人がどう現実を乗り越えていくかを書きたかった。理不尽から逃れることはできなくても、過去に一つでも自分を支える礎となるものがあれば生きていけるのと同じように、大切な誰かがこの世に存在してくれているだけで希望を見出すことができる、そんな救いがあってもいいんじゃないかと」

少女の刹那的な儚さと残酷さを官能的に描いた本作。ほとばしる感性に技術をそなえた宮木さんが、隅々まで趣向を凝らした真骨頂だ。

「演劇、音楽、ファッション。私の好きなものを全部つめて、とにかく美しくなるように書きました。ギャラリーや美術館に行くような気持ちで読んでいただけると嬉しいです」

取材・文:立花もも 写真:下林彩子 イラスト:中村キク