過去最大ヒットの出発点は「うつ経験の編集者との出会い」『うつヌケ』田中圭一インタビュー

コミックエッセイ

2017/12/21

今年1月に発売され33万部を超える大ヒットとなった田中圭一さんの『うつヌケ』。マンガとして面白いのはもちろん、極めて社会的反響の大きかった作品だ。

 

田中圭一さん

田中圭一
たなか・けいいち●1962年、大阪府生まれ。84年にデビューし、『ドクター秩父山』で人気を集める。代表作は『田中圭一最低漫画全集 神罰1・1』『田中圭一の「ペンと箸」〜漫画家の好物〜』など。現在、WEBサイト「電ファミニコゲーマー」で『若ゲのいたり〜ゲームクリエイターの青春〜』を連載中。

 

うつの方の役に立ちたい 未来を見据える転換点

今年1月に発売され33万部を超える大ヒットとなった田中圭一さんの『うつヌケ』。マンガとして面白いのはもちろん、極めて社会的反響の大きかった作品だ。

「僕自身、10年近くうつに苦しみました。取材させていただいた皆さんにも僕にも、うつの方の力になりたいという強い気持ちがありました。これは〝うつの治し方〟の本ではないんです。うつは原因にも症状にも様々なケースがあり、脱出の方法もそれぞれ。うつってこういうものなんだ、と少しでも理解を広められればと思っています。そのためにはマンガの体裁が合っていたのかなとも思います」

社会への波及力の大きさの陰には、新しい執筆形態への挑戦もあった。一つは、担当編集者をツイッターで募集したことだ。

「偶然に懸けてみたんですが、30分もたたないうちに〈私もうつ経験者なので、ぜひ!〉とお返事が届きました。すぐに信頼関係が築けましたし、文芸とマンガを両方経験された優秀な編集さんで、アドバイスが新鮮で的確。おかげで、取材マンガのノウハウが身につきました。もう一つは、『文芸カドカワ』とWEBの『note』の両方で連載したことです。『note』では1話ずつの販売もしました。活版印刷用にはモノクロ、電子用にはカラーと同時並行で原稿作業ができて、今後WEBで発表する際には、この作画方法をマストにしたいと思っています」

田中さんのこれまでの経歴は、かなり異色。ギャグマンガで人気を獲得し、その後、手塚治虫をパロディ化した作風で注目を集める。その傍ら、サラリーマンもずっと続けていたのだ。こういった豊富な経験があったから、『うつヌケ』も描けたのではないだろうか?

「マンガ界の王道ではなく、脇道を歩いてきたのがよかったのかもしれません(笑)。この本に関していえば、京都精華大学で教え始めたことも大変プラスになりました。学生に教えるために自分のノウハウが論理的に整理されましたし、ほかの先生のメソッドも勉強できる。マンガを読んでいても、自分なりにメソッドが分析できるようになるんです。それがいい形で作品にフィードバックできていると思います」

『うつヌケ』には、うつの方の役に立ちたいという絶対的な思いに加えて、マンガの新しい手法から大学での経験まで、田中さんのすべてが詰まっている。一冊だけど、ただの一冊じゃない。そんな素晴らしい本なのではないかと思う。

「ありがとうございます。僕がマンガを続ける上で、将来につながる転換点になったと思います。うつは本当に苦しかったですけれど、この作品も描けて、結果的にいいこともたくさんありましたね」
 

『うつヌケ』コマ

取材・構成・文=松井美緒 写真=川口宗道