子ども向け鉄道雑誌『鉄おも!』が親子に支持される理由

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更新日:2018/2/1

 いま、小さな子どもを持つ親たちから絶賛され、オンリーワンの強さを誇る雑誌がある。その名も『鉄おも!』(ネコ・パブリッシング)。名前から想像できるかもしれないが、ズバリ「鉄道」に特化した、公称5万部を誇る児童向け月刊誌だ。

「『鉄おも!』ほしさで習い事にもちゃんと行く!」「『鉄おも!』を渡しておけば子どもが静かになる」…親たちからは賞賛の声が続々。雑誌不況といわれる中、その強さの秘密は何か? 『鉄おも!』編集長の松沼猛さんとデスク大渕俊輔さんに話を聞いた。

■鉄道好きの子どもは知識欲旺盛。かっこいい! を軸に専門知識も

――創刊は2006年と、もう10年以上前なのですね。

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大渕:元々弊社は『レイル・マガジン』や大人向けの鉄道趣味誌を40年近く出してきた出版社ですが、電車が好きという子は昔から必ずいるものなのに、そういえば子ども向けのものがないよね、と生まれた雑誌です。実は『鉄おも!』の「おも」って「鉄道おもちゃ」の「おも」で、最初はカプセルプラレールの特別バージョンといったおもちゃを付録にするなど、おもちゃ色のほうが強い隔月刊誌でした。月刊化され今のバランスになりました。ちなみに、他の出版物のイメージの影響か、書店では鉄道書のコーナーに置かれることが多くて、お子さんに見つけてもらいにくいんですよ。とはいえ上り調子なのは、出版不況の中でありがたいことだと思っています。

――読者対象はどのあたりを想定していますか?

大渕:鉄道関連は情報量が多いので、小1くらいが目安です。とはいえ未就学児にも楽しんでもらえるように意識して作っています。実際、鉄道が好きな子にはすごく知りたがりの子が多い。知識欲が強いというか、その意味でいうと、2、3歳の子が見てくれていて、しかもイラストやおたよりをたくさん送ってくれるのはこの雑誌の特徴かもしれません。ふりがなをふってはいますが、たぶん読めませんから。

――相当難しい漢字もふりがなをふってそのままですよね。ちょっと驚きです。

大渕:そこについては、実は毎月、侃々諤々やっています。まずは松沼からあがってきた元原稿を僕がちょっと薄めるのですが、松沼はずっと鉄道雑誌に関わってきてものすごく鉄道に詳しいのに対して、僕はほとんど知らない。そのため僕は漢字をひらがなにしたり削ったりしがちなのですが、「いや、それは鉄道においてはこういう意味がある」と言われて、「じゃあ戻しましょう」と…。

松沼:たとえば2月号の機関車特集で「3種類の電気で走ります」という本文説明がありますが、最初はここをざっくり取られていて。でも「ここを取られるとこの機関車の存在意義そのものが全部消えるから、難しいけどここは残して」みたいにやりとりをしました。実は営業担当も鉄道好きで、一度、ふたりで相談した上で僕に戻ってきます。原稿にはそのやりとりの跡も赤字で残っていますね(笑)。

――下手にひらがなにすると意味がわからなくなったりもしそうですね。

松沼:はい。それに文字量はできるだけ減らしたいのに、ひらがなにするとすごく増えてしまうこともあります。なので、とりあえずそのまま書いてから、簡単にするためのやりとりをしています。僕も子どもの頃から電車好きでしたけど、当時読んでいた本は「電磁直通空気ブレーキ」とか、めちゃめちゃ難しい用語ばっかり並んでいるものばかり。とにかく名前は覚えましたが、それが実際にどういう仕組みのものなのか知ったのは実際に本を作るようになった30年後くらいで。実は鉄道マニアの間ではけっこう単語だけ知っているという人が多いのですが、その意味では、お子さんたちも同じなのかな、と。

大渕:まあ、そこらへんがせめぎあいですよね。僕らはよかれと思ってやっていますが、一方でもっとライトな電車好きの子に読んでもらうにはどうすればいいかというのもあって。やっぱり「かっこいいよね!」というのはどの子にも共通の動機ですから、かっこいい写真をどう見せるかを主軸にした上で、どの程度まで説明するかを考えていくというのが、鉄道ものの作り方のひとつでしょうね。

■毎月、読者ハガキが700枚、イラストも200~300は届く

――特集はどうやって決めていますか?

松沼:特に会議という感じではなく、大渕から大まかに出してもらって話しながら決めていきます。僕はどうもマニア的になってしまって、どうしてもちょっと難しいテーマを出したくなりますが、大渕から「赤い電車って派手でいいんじゃないですか?」とか言われると「そ、そうですよね」と(笑)。

大渕:子どもが見たときの視点が大事で。そんな企画は専門誌じゃありませんからね。

松沼:基本的に読者は2、3年で入れ替わりますし、車両も新しくなりますから、新年号の「今年はこうなる」という記事や、働く電車を集める企画とか、ほぼ定番のローテーション的な面もあります。

――強い企画はありますか?

大渕:「新幹線」は強いですね。あとは「特急」や「働く電車」に「通勤電車」ですかね。とはいえ、特集や企画による売れ行きの差はあまりないですが。全体の20%は定期購読者が占めていますし。社内でも2番目に高率の雑誌ですね。

――読者からはどんな声が届きますか?

大渕:巻末の読者プレゼントハガキにアンケートをいれていますが、切手も必要なのに毎月700通くらい戻ってくるのはとてもありがたいですね。地元の電車にすごく愛着があって「○○線を特集してください」とか熱くリクエストしてくる地方の子とか細かい声も多くて、そういう反応はこの雑誌ならではですね。

――700通! すごい数ですね。イラストもかなり届くんですよね?

大渕:平均で200~300は来ますね。イラストの選定基準は特にありませんが、毎号送ってくださるお子さんが多くて、なるべくだぶらないように配慮はしています。前に「息子が勢いあまってテーブルクロスに絵をかいちゃって、よく出来ていたので持ってきた」って編集部を訪ねてきた親子がいらっしゃいましたが、ほんとにすごい大作で。脚立の上から写真に撮って掲載しました。

■専門知識は読みやすく。子どもだからと手を抜かない

――『鉄おも!』は電車のパノラマ写真など雑誌だからこその見やすさや楽しさが詰まっています。とはいえ雑誌の世界はスマホと時間を取り合う状況にありますが、編集部として意識することはありますか?

大渕:まだまだスマホに抵抗を持つ親御さんは多いですし、お子さんも雑誌に対する親和性は高いので、そこにきちんと情報を届けていくのが大切ですよね。とはいえうちもウェブサイトを作っていて(鉄おも!LAND)、以前は誌面にのせていたイベント情報をそちらに移行するなど、使い分けています。

松沼:ウェブは検索して狙ったものに届くまで意外と手間がかかりますが、紙なら開けばいいのでそこは強い。ただし、情報の速さはウェブに絶対に勝てません。実際に本の制作スケジュールでは間に合わなくてのせられない情報も多々ありましたから。

――「イベントカレンダーは使える!」というママの声も多いようです。各社の情報がまとまっているのもいいですよね。

大渕:親御さんにはイベントや商品情報、あるいは「新型列車が出た」とかお子さんに伝えて喜んでもらえる情報に人気がありますね。実際、大抵の鉄道関連企業のホームページは情報量がとても多いので、あまりネットにふれない方には大人でもわかりにくい面はあると思います。僕らがまとめた情報を喜んでいただけるのは、業界的に情報の発信がまだまだ足りていないということかもしれませんが、よろこんでいただけるならうれしいですね。

――そして素直に『鉄おも!』は大人が読んでも面白い。つい引き込まれてしまうんですよね。

大渕:ありがとうございます。実は大人のおともだちの読者さんも多いです(笑)。鉄道雑誌の世界は専門的なものが多いのですが、『鉄おも!』との間をつなぐ本はありません。なので「鉄道、割と好きだけど…」というライトな方、たとえば女性にも見ていただけているようです。

松沼:とはいえ中間的な雑誌が必要かというと、『鉄おも!』を卒業してさらに鉄道好きになった人はもっと深い情報をウェブで調べたり、専門誌を読んだりするのでなかなか難しくはあります。とにかく長く鉄道雑誌をやってきた中で思うのは、相手は基本的にマニアですから、彼らが「知っている」と思うものは売れないし、「これ知らない」と思うものがひとつでもあれば売れる可能性があるということ。だから読者対象にかかわらずいつも「いくらウェブで調べても、ここまでは追いつかないだろう」くらいの勢いで作る。実はこの本もそこは変わらなくて、子どもたちが「こういうのあるんだ。ふうん、すごいね」って思えば買ってもらえる。実はそれが最低ラインですね。

――深い専門知識を読みやすくはしても、子どもだからと手は抜かない…そこが強さの秘密かもしれませんね。今日はありがとうございました。

取材・文=荒井理恵