「出てこいや~!」総合格闘技ブームのはじまり、見る者からは想像を絶する葛藤を描いた『プライド』〈高田延彦インタビュー〉

スポーツ

2018/1/21

photo by渡辺秀之

 今は「出てこいや~!」の人と言えば、思い至る人も多いかもしれない。情報番組からバラエティ番組まで、老若男女が目にするメディアでもお馴染みのタレント高田延彦氏。大きくて優しい高田氏が、二十数年前までは日本で最も前衛的でストイックなプロレスラーだったことを知る人は、どれほどいるだろうか。

 日本で最も知られる元プロレスラーの同氏が、現役時代に前人未踏の茨の道を選び、総合格闘技ブームの火付け役になった経緯が詳しく書かれた新書『プライド』(金子達仁/幻冬舎)が出版された。高田氏に話を伺った。

『プライド』(金子達仁/幻冬舎)

■PRIDEがあるからRIZINがあり、同書が生まれた

 高田氏の代名詞である「出てこいや~!」が生まれたのは、総合格闘技イベントのPRIDE時代まで遡る。開幕セレモニーで選手たちの登場を促すのに、主催側に「勢いよく紹介してほしい」と言われ、飛び出したアドリブなのだそうだ。昨年末もPRIDEの系譜を継いだRIZINが開催されたが、今回もオープニングセレモニーで、高田氏のこのフレーズによる“開幕宣言”があった。

 タイトルのとおり、PRIDEの始まりを描いている同書。第1回大会である「PRIDE.1」は20年前、世間を巻き込み、紆余曲折の末に開幕した。高田氏は、メインイベントでカリスマ柔術家のヒクソン・グレイシーと対決するも、あっけなく惨敗。当時、人気絶頂のプロレスラーだった高田氏は、多くのファンから罵られるなど、名実ともに失墜を味わっている。

 高田氏は、「この経緯があるから、今があるというか。知らない人もきっと多いだろうから、今の世代のファンにも伝えたいんです」と述懐する。「始まりから20年が経ちました。私の場合、ハッピースタートどころか、終わってもおかしくなかった。ほんの一端かもしれないけれど、かたちとして残してくれたのはありがたいことです」。

 失意と敗北からの復活劇とすると、どこかで聞いたようなサクセスストーリーにも聞こえかねないが、その実は生々しく、痛々しいほど。同試合に挑むことを「死刑台に向かう気持ちだった」と明かしているように、見る者からは想像を絶する葛藤が、当時の高田氏にあったことが同書には赤裸々に描かれている。

 ここまで暴露しているからこそ、劇的な読み物になっているのかもしれない。そう感想を述べるも高田氏は、「もっと、まだ、埋没している記憶もあるかもしれない。記憶をこう呼び起こす装置みたいなのがあればいいんですけれども」とかけがえのない濃密な時間への思い入れを語る。

「あんな負け方をしたけれども、だからこそわからない傷を感じることもできた。見る側、ヒクソン、私、それぞれの立場で考え方、感じ方は違って当たり前ですから。いろんな思いに感情移入したりして、(同書は)読むことができるんじゃないかと思います」

■自分らしさを殺して惨敗。相手が誰であろうと変えない

 PRIDEの第1回大会で、高田氏が惨敗に至った理由の一つが、相手ヒクソンに“合わせて”しまったことがある。ヨガの達人でも知られたヒクソンについて、「あの無駄のない豹のような、自然のボディワークで鍛え上げた肉体を見ると、サプリメントとって、マシン使って作り上げた自分の身体がすごく俗っぽく思えてきちゃって」という高田氏は、この試合に向けてヒクソンのようになるべく、自然食に徹し、野外で走り込み、別人のように身体をそぎ落とした。

 自分らしさを消し、築いた礎を壊したのだ。「戦いの入り口から間違っていた」という高田氏。「自分のペースを変えちゃいけなかったよね。社会生活でも言えることなんだろうけど、例えば、どんなにプレゼンする相手が強敵であっても、相手がこうだから自分を変えるとかじゃなくて、やっぱり常に自分のスタイルで。行ってだめならしゃーないじゃないかと。相手が大物だからって、こうしてああしていじくったりなんかして、しっちゃかめっちゃかになっちゃって、結局言いたいことが言えなかった、勝負にもならなかったってことになると、その敗北感ってないじゃないですか」

 高田氏は惨敗から1年後、ヒクソンとの2戦目にこぎつけ、今度は相手に合わせることなく挑んだ。再び敗戦を喫したが、それがあってこそ今の高田氏があることが、同書を読むとわかる。自分らしく集中して立ち向かうことができれば、結果よりも大切な“経緯”が成長を促し、「勝つか負けるかは相手が判断すること」となるのだという。

「だから相手が誰であろうと、今まで自分のやってきたことを信じて、それを磨いてぶつけることが、恐らく自分が望む一番の結果を引き出す近道なんだなということが学べた」と高田氏は明かす。

■ニュースで放送されない格闘技、地上波へのこだわり

 始まりの惨敗のもう一つの大きな理由は、当初は「PRIDE.1」の地上波が決まっていたが、なくなってしまったことにもある。有料視聴の習慣が根付いていない日本では、地上波での試合とそれ以外の放送媒体での試合とでは、認知度も影響力も大きな差がある。

「スポーツ選手が地上波に出るということにはこだわりを持っています。やっぱりモチベーションが全然変わってくるので」と高田氏。「一般的に認知されているスポーツというのは、競技をすれば必ず全局のニュースで流れるじゃないですか。ウインタースポーツでもサマースポーツでも。でも、われわれのやっている競技というのは、試合結果が普通のスポーツニュースに流れることは、ほぼない。皆無です。ボクシングはやりますけれども、MMA(総合格闘技)はないんです」

「昔の話になっちゃうけれども、毎日、巨人戦ってやってたんです。毎日、巨人対どこ。毎日ですよ。だから、巨人の相手のピッチャーは、巨人戦になるとものすごい力を出す。(普段)めったに映らないから。故郷のお父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、その子どもたち、同級生まで、みんな見るからです」

 PRIDEは後に地上波での中継が実現。大みそかのお馴染みのイベントとなり、今それをRIZINが引き継いでいる。「面白い試合をすれば、また“火がつく”可能性があるわけです。地上波でダイジェストでもいいから、流れる可能性がある。これは選手には絶対にモチベーションになるんです」

 すべての経緯があって今があるということが、ここにも強く表れている。年末の格闘技イベントで“火のついた”人には、ぜひとも読んでみてもらいたい一冊だ。

取材・文=松山ようこ 写真=渡辺秀之

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