一片の偽りもなしに届く、「青いままの君」への歌――相坂優歌インタビュー

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公開日:2018/1/31

《私はからだがあるからいたい/遺体になる前に会いたい/私はからだがあるからいたい/私はアニメみたいになりたい》――これは、声優・相坂優歌の1stアルバム『屋上の真ん中 で君の心は青く香るまま』(1月31日リリース)のリードトラックで、大森靖子が作詞・作曲した《瞬間最大me》の冒頭の一節。このインパクト十分の1曲目をはじめ、尾崎世界観(クリープハイプ)、ALI PROJECTなど、相坂自身がリスペクトを公言する作家が顔を揃えたアルバムは、「表現者・相坂優歌」が抱えた現実への違和感と、そんな現実の中でも自分を偽ることなく存在していたい、という願いが込められた1枚になっている。2016年に音楽活動をスタートし、これまでに発表した3枚のシングルでは自らの言葉で歌詞を綴ってきた相坂に、表現の源泉のひとつである本の話も交えながら、1stアルバム完成までの心情を語ってもらった。

「世渡り上手じゃない人に向けて表現したいな」と、いつも思っている

──1stアルバムの『屋上の真ん中 で君の心は青く香るまま』、聴きどころがたくさんある1枚になりましたね。相坂さん自身は、このアルバムがどんな作品になったと感じているんでしょうか。

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相坂:わたしが通ってきた道、という感じです。中学生のときに衝撃を受けたALI PROJECTさんや、わたしにとって初めてのキャラクターソングである“おはモニ*ハロりん♪”を作っていただいた俊龍さん、深青結希さんからも曲を提供していただいてます。シングル曲の“ひかり、ひかり”は、わたしがすごく尊敬しているクリープハイプの尾崎世界観さんに作っていただき、同じように尊敬していて、影響を受けた大森靖子さんにも新たに念願の曲提供をしていただいたり、わたしのルーツをたどる夢のような1枚です。

──実際、完成してみて、満足感は感じてますか。

相坂:「満足した」というよりは、「表現において、もっと追求したい」と改めて感じました。

──たとえば、今の自分には何が足りてないと思います?

相坂:すくい上げる力、かな。たとえば尾崎さんは、日常におけるいろんな感情をすくい上げるのが上手な方だと思うので。わたしも「もっともっといろんな感情を言語化しないとなあ、ちゃんと自分の気持ちくらい言葉にできないとダメだなあ」と……。わたし、歌に自分が憑依するのが好きなので、作っていただいた歌詞のときにも、曲の主人公になりきりたいなあ、この世界に飛び込みたいなあと思いながら歌っているんです。自分が作詞をしてその世界を作るときも、できあがったものを見ると、「やってよかったな」と思うんですが、書いているときはもどかしいし、苦しいですね。伝えたいことはあるんですけど。

──その伝えたいことの芯って何なんでしょうね。ある感情が膨らんでいったり、肉付けされることで言葉になり、歌詞になると思うんですけど、言葉をはぎ取っていったときに残るものは何か、という。

相坂:たとえば、最近作詞した3rdシングルのカップリング“Look back”にはすごくストレートに書いていて、それは正直でいたいという一点かなあ、と。嘘をつきたくない、正直でありたいって普通のことだと思うんですけど、その背景にはいろんな出来事があって、いろんな思いをして、いろんな考え方をした結果、それでもやっぱり正直でいたい、という気持ちですね。

──アルバムタイトルの『屋上の真ん中 で君の心は青く香るまま』って、自分でつけたんですか?

相坂:そうです。「青く」は、青臭いとか、若かったり大人になりきれてないという意味で「青」という言葉を置きました。大人になると嘘をつかなきゃいけない場面があったり、自分の気持ちを曲げて何かに従わなきゃいけなかったりすることがあると思うんですね。それができる人って、たぶん世渡り上手ですよね。でも、わたしは「世渡り上手じゃない人に向けて表現したいな」と、いつも思っていて。「青いままの君に向けて」という想いを込めて、このタイトルをつけました。

──世渡りが上手じゃない人に届けたいのはなぜ? 自分自身がそうである、ということですか?

相坂:そうですね。自分の気持ちと現実に折り合いがつけられなくて「逃げたいなあ」とか「現実逃避したいなあ」と思ってる人は、わたし以外にもいっぱいいるのかな、と感じていて、そういう人に何か伝えられたらいいなあ、と。もし楽しく生きてても、幸せでも、つらくて苦しい思いをする場面はいっぱいあるじゃないですか。その逃げ道のひとつになるのがサブカルチャーだったりするんでしょうけど、自分の曲もそういう存在になれたらいいですね。自分も、そういう表現に救われたりするので。クリープハイプさんも、大森さんも、現実をちゃんとすくい上げて表現してくれるから、そこに憧れるし、自分もそうしたいなと思ってます。

──なるほど。その考え方には本も少なからず影響を与えているのかな、と思うんですけど、最近読んだ本や、今までに読んだ中で印象に残っている本について教えてもらえますか。

相坂:最近読んだのは、角田光代さんの『おまえじゃなきゃだめなんだ』です。短編集なんですけども、女性が書く現実的な恋愛ものが好きだなあと、改めて気づかせてくれた本ですね。もともと、宮木あや子さんや綿矢りささんが好きなんです。ファンタジーよりも、現実的というか、普通のOLさんをつかまえて主人公にしちゃうような物語にすごく惹かれるし、一気に読んじゃいますね。横断歩道を歩いているひとりひとりになりきれる感じがする、というか。どんなに普通で平凡な人にも、ドラマがあって面白いです。綿矢さんの本だと、最近『勝手にふるえてろ』という本が映画化されたじゃないですか。映画を観た後に改めて読み返したんですけど、ものすごく好きですね。イチとニって、男性に対して順位をつけて心の中で呼んでいる、そういうところがまたリアルだし、そういう女性いるよなあ、と思います。綿矢さんが書く本の登場人物も生きるのが下手だったりするので、たくさん共感するところがありますね。あと、谷崎潤一郎も好きですよ。

──だいぶ飛びましたね(笑)。谷崎のどこが好きなんですか?

相坂:変態性です(笑)。昔から、こういう感情を書いてくれる人がいたんだな、って思いました。品がある展開をするところが好きですね。

「大丈夫」という言葉が好き。「大丈夫」には、無限の可能性があると思う

──このアルバムを聴いていて、「自分の中に何かがあって、それが湧き出して表現になっている人のアルバムだな」と思いました。相坂さん自身、自分が表現したいものが何であるのか、アルバムの制作を通して気づきがあったんじゃないですか?

相坂:まず、アルバムのコンセプトとまったく関係ない部分で、いろんな側面から自分を見てほしいんだな、ということに気づきました。ひとつにまとめてほしくない、カテゴライズされたくない気持ちが表れちゃってるのかな。ロックも好きだし、ふんわりした曲も好きだし、いろんな要素があってひとりの人間なんだっていうことを伝えたかったのでは?と気づきましたね。なんか、「好きなアーティストはこの人とこの人とこの人です」と挙げたときにも、「え、意外」って言われると、けっこう嬉しかったりします。

──意外と言われる時点で、言った人の中ですでに何らかのカテゴライズが存在してますよね。

相坂:そうなんです。もしかしたらわたしは、ひとつのカテゴリーに収められたくない、と常々思っているのかもしれない。もっともっと、みんなの知らないわたしがいるぞ、と。それがこのアルバムの大きなメッセージなのかも。型にはめるのが好きな人も多いけど、ひとつの見方でしか見なくなることって、すごくもったいないじゃないですか。

──カテゴライズされたくないとして、相坂さん自身は「相坂優歌」を何だと思っているんですか。

相坂:どんな気持ちにも寄り添える人間でありたい、ということはいつも思ってます。ネガティブでもポジティブでもいいよと、肯定したいですね。わたしは「大丈夫」という言葉が好きなんです。「大丈夫」には無限の可能性があると思うんですよ。ネガティブな感情をダメだと言ってはいけないというか、もったいない気がして。そういう感情を持ってる人にも「大丈夫だよ」「いいんだよ」と言ってあげたいし、もちろんポジティブな感情は素敵なことだから「いいね」と言いたいし。このアルバムも、いろんな方法でいろんな感情に寄り添えていると思います。

──その中で、M-1“瞬間最大me”のインパクトは際立ってますよね。1stアルバムの冒頭に《遺体》という言葉が出てくるって、なかなかないと思うんですけど(笑)。

相坂:(笑)そうですね。歌詞は大森さんに完全にお任せしていて。最初に打ち合わせをしたときに、「自分が好きなものとか、思い入れのあるものをひとつ持ってきてください」と言われたので、阿部共実さんの『月曜日の友達』というマンガを持っていいきました。そこからイメージしていただいた部分もたくさんあるみたいです。《遺体》という言葉自体には驚かれるかもしれないですけど、《遺体になる前に会いたい》という歌詞からは、この上なく生きる意志が感じられると思っているので、聴いてくれる方にもそう解釈してもらえたら嬉しいですね。

──音楽を受け取ってくれる人、聴いてくれる人は、相坂さんにとってどんな存在だと感じてますか? 自分の音楽に共感してくれる人って、つまり自分のことをわかってくれる人ですよね。音楽を聴いてすべてをわかることなんてできないけど、「こういうことを考えているんだな」ってわかろうとしてくれる人がいるって、とても素敵なことですよね。

相坂:そうですね。音楽活動をさせていただくことによって、より踏み込んだ話ができるようになったと思うし、その上でついてきてくれる人がいたり、そういう人が新たに増えていったりすると、ほんとに大事にしなくてはいけない存在だと思います。ちゃんとわかってくれる人がいると、希望が持てますね。今、そういう人たちに向けて発信できていることがすごくありがたいと思うし、それはアーティスト活動をしていなければできなかったことかもしれません。

──ついてきてくれる人がいるのって、たぶん相坂さんが正直だからじゃないですか? さっき嘘をつきたくないって言ってたけど、正直で嘘をつかない表現は、人を惹きつけるんだと思いますよ。

相坂:ついてきてくれる人はみんな、心が青いまま生きたい人なのかなって感じます。正直に生きたいのは普通のことだけど、その普通を見ないふりをするのか、ちゃんと向き合うのか、そこでついてきてくれるかどうかが分かれるのかもしれませんね。

取材・文=清水大輔 撮影=森山将人
ヘアメイク=田中裕子