『キミスイ』を超える「最高傑作」 住野よる、手応えを語る

新刊著者インタビュー

2018/3/9

デビュー作『君の膵臓をたべたい』が累計200万部を突破し、一躍ベストセラー作家となった住野よる。第5作『青くて痛くて脆い』は、これまで以上に挑戦心が詰まった、飛躍の一作だ。作家自身も胸を張る。
「読者さんに何かを届けられるんじゃないかという自信が、今まで出した本の中で一番あります。最高傑作だと思います」

BMEX『青くて痛くて脆い』イメージ写真

住野よる
すみの・よる●高校時代より執筆活動を開始。小説投稿サイト「小説家になろう」にアップした『君の膵臓がたべたい』(初出時は『君の膵臓を食べたい』)が編集者の目にとまり、2015年6月に同作で作家デビュー。第2作『また、同じ夢を見ていた』、第3作『よるのばけもの』、第4作『か「」く「」し「」ご「」と「』もベストセラーに。

 

 初めて大学生を主人公に据え、大学という時空のリアリティをたっぷり吸い込んだ、青春小説だ。

「大学って最後の青春だな、と思ったんです。社会人になる前の、自分がやりたいことに長い時間をかける猶予のある最後の時間。自分自身は大学時代、そのことを意識して何か積極的にやっていたわけではないんですよね。そこで何かやろうとする人を書いてみたいと思ったんです。今までの作品になかった要素を入れようとしました。例えばファンタジーをなくしたり、全員がちゃんと性欲を持った存在として書いたり。別にいやらしいシーンがあるってことではなく、大学生ってそういう部分を受け入れ始める時期だと思うんです」

 大学1年生の「僕」こと田端楓は、新学期早々のキャンパスでも浮かれていない。彼の人生のテーマは、〈人に不用意に近付きすぎないことと、誰かの意見に反する意見を出来るだけ口に出さないこと〉。その結果、孤独な日々を送っていた。しかし、大講堂での講義中に理想論を突然ふりかざし、周囲をぎょっとさせた同級生の女の子・秋好寿乃とひょんなことから仲良くなる。そして、二人きりの「秘密結社」のようなサークルを作ることに。活動目的は「四年間で、なりたい自分になる」。物語の始まりは、青春のきらめきに溢れている、が……。

「明るい女の子と暗い男の子が出会って、二人きりの友達になっていく。最初の流れは、『膵臓』に似ているかもしれないけれど、二人の関係はもっと歪なんです」

 きらめきの日々は、回想だったのだ。〈あの時笑った秋好はもうこの世界にいないけど〉。その一文をきっかけに時計の針が動き、二年半後の現在。かつて「モアイ」と名付けたサークルは、発足当時の理想から大きく掛け離れた、巨大な就活系サークルになっていた。とうの昔にモアイから去っていた楓は、就活も終え卒業を待つばかりの身となった。だが、やり残したことがある。かつての理想を取り戻させるため、サークル執行部へ戦いを挑む。
 

2017年の自分の気持ちを「モアイ」に込めたんです

 本作は、初の長編連載作だった(『文芸カドカワ』2017年4月号〜12月号掲載)。創作秘話を伺うと、面白いエピソードが飛び出した。

「プロットの段階から2人の担当さんと打ち合わせをして、連載中も毎回相談しながら話を作る、という書き方に初めて挑戦した作品なんです。まず最初に担当さんから、“2人っきりの秘密結社が読みたい”という話をいただいたんですよ、いきなり(笑)」

 話し合いで飛び交う断片的なアイデアが、ひとつの方向性でまとまっていくきっかけは、担当者の一人が語った大学時代の思い出だった。

「その方はモアイと同じように数年で巨大化した、某大学の学生団体の初期の代表者をやっておられたんです。自分自身は大学の頃、そういう団体には馴染みがなかったし、我が物顔でキャンパスにいやがるな、というイメージしかなくって(苦笑)。勝手なイメージで決めつけて、知りもしないのに毛嫌いしていたんですよね。でも、実際にどんな活動をしているかとか、こういう人たちがいる、運営サイドはこんなことをしているってお話を聞いていったら、すごく面白かったんですよ」

 その経験を物語に取り入れよう、と決意した。

「もうひとりの担当さんからは、大学の頃を含めて5年間も同じ人に片思いしていたという話を伺って、“人ってそんなに思い続けられるものなんだ”と。でも、恋愛感情じゃなくても、誰かをずっと思い続けることってあるだろうなと思いました。例えば、大事な相手に何かを伝えられなかった経験って、ずっと残るんじゃないかなって……。自分には知り得ない考え方や、自分以外の人の感覚を、積極的に取り入れて書いてみる、というのが今回の一番の挑戦でした」

 その結果、2人の担当者との打ち合わせは大変なものに。

「夜中にお酒を飲みながら、心の傷をほじくり合いました。あれは自傷行為だったような気がしてます」

 もちろん、作中には自分自身の実感もふんだんに盛り込まれている。例えば、楓が抱く巨大化したモアイに対する思いは、デビュー作が未曾有のベストセラーとなった、作家自身の心理とシンクロしている。

「これを書き始めたのは去年の1月ぐらいだったんですが、ちょうど『膵臓』が自分の想像を超えて大きなものになり始めた時期だったんです。それに伴って得た痛みとか傷が、楓の感情に反映されている部分もあります。主人公が巨大化したモアイに戦いを挑むように、自分は『膵臓』のことを、あの話で感動したと言ってくださる方も含めて、“倒したい”と思ったんです。売上げは別としても、作品としての完成度や強度の面で超えるものを書きたかった。それができた、と自分では思っています」

 まさか「モアイ」に大ヒットした自作を重ねていたとは。そうとは感じさせないところ、それ以外のさまざまなモノに見えるよう調整されているところに、人気作家としての技が光る。

「読者の方たちが“自分は何と戦っているか”によって、モアイにいろんなものを投影してもらえればいいな、と思いながら書いていました。これまでにないくらい多角的な読み方ができるものになったんじゃないかなと、なので『最高傑作』と呼んでます」
 

読んでくれた人の心に(傷)跡をつけたい

 モアイに戦いを挑む楓は、仲間を得て「潜入捜査」や「スパイ活動」を行っていく。切実さの中に、ワクワク感も詰まった、サスペンスフルな中盤。その先に、意外な展開が現れる。もう一押し、本書を手に取るきっかけが欲しい人のためには……作者のこんな言葉を。

「大人になってきて、正しいことを正しいと言い切れる強さが自分になくなってきたんです。“他の人から見たら正しいのかな?”と疑問が浮かぶ。それは他の人に対しても同じで、“なんでこの人たちは自分が正しいと信じ切ってるんだろう?”と疑問に思うことが多いんです。正しいと思っていたものが、実は正しくなかったかもしれない。その感覚を、ちゃんと書いてみたかった」

 読み終えた時、傷付けられたと感じる人もいるだろう。逆に、回復したと感じる人もいるはずだ。いや、傷付けられたことで回復した─そう感じる人が多いかもしれない。

「今まで出した4冊に比べても、一番積極的に傷付けにいった話だなって自分でも思っています。読んだ人の心に跡をつけたい。そうすることで、心の風通しが良くなってくれる人もいるんじゃないかなと思うんです。自分は音楽が大好きなんですけど、歌詞を聞いていて“こんなことを考えている人がいたんだ”だったり、“自分と同じことを考えている人が他にもいたんだ”って感じて、救われた部分がかなりあるんですよね。『青くて痛くて脆い』も、誰かにとってそういう存在になってほしいって思っています。“これは自分の話だ”って感じる人が現われてほしいなって、願っています」

取材・文:吉田大助 写真:川口宗道