書店探訪vol.1 個性溢れる選書が魅力【SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS】

暮らし

2018/3/21

 アマゾンを検索すれば、どんな本でもすぐに見つかる今の時代。それでも人が書店に足を運ぶのは、「こんな本があったんだ!」という新しい本との出会いを期待しているからだろう。

 奥渋谷でオープンから10年になる「SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS」(以下、「SPBS」)は、そんな本との新たな出会いを提供してくれる書店だ。

 たとえば「ライフスタイル棚」と「食の棚」。ここには喫茶店や日帰り登山のガイド本もあれば、博物学の巨星・南方熊楠のマンガ『猫楠 南方熊楠の生涯(角川文庫ソフィア)』(水木しげる/角川書店)もあるし、世界的植物学者のエッセイ集『牧野富太郎 なぜ花は匂うか』(牧野富太郎/平凡社)もある。

 店内には「文芸」「食」などのジャンルごとに本が並ぶが、ビジネス書の棚はない。売れ筋の文庫を並べた平台には、新刊に混じって『貧乏サヴァラン(ちくま文庫)』(森茉莉/筑摩書房)、『風に訊け(集英社文庫)』(開高 健/集英社)などの古典や、おもしろさも読みやすさも抜群の『プチ哲学(中公文庫)』(佐藤雅彦/中央公論新社)のような本も揃う。ビートたけしの『悪口の技術(新潮文庫)』(新潮社)は、この文庫コーナーで何年も売れ続けているベストセラーだそうだ。

「お店に並べる本は4人のスタッフが1冊ずつ選書しています。お客様は、平日は近隣にあるテレビ局の社員さんや、映像や出版関係のクリエイターのお客様が中心。休日はオクシブ(奥渋谷)に遊びに来た若い方もとても多いです。『ものすごく本が好き!』というわけではない方も多いので、パッと見でおもしろいと思える本を表紙が見えるように並べたりと、見せ方も考えています」。

 そう話すのは店長の粕川ゆきさん。コンビニ程度の広さの店内に、ゆったりと並べられた本は約5000冊。近隣にある大型書店の10分の1にも満たない蔵書数だが、店内を見て回っても「在庫が少ない」「あの本がない」という印象はまったくない。むしろ、「へー、こんな本出てたんだ」「これ、前から気になってた本だ!」という出会いに溢れているのだ。

 最近話題の新刊も、入口近くの平台を中心にしっかり揃っている。その平台も、「スタッフの間ですごく評判なんですよ」(粕川さん)という前田司郎氏の芥川賞候補作『愛が挟み撃ち』(文藝春秋)が、芥川賞受賞作以上の扱いで並んでいるのがおもしろい。

「自分が担当しているコミックの棚も『私の家か!』と思うほど趣味が全開です(笑)」と粕川さん。お店の人が楽しみながら選書している棚は、お客さんが見てもやっぱり楽しい。店内には雑貨や古着のコーナーもあり、その商品も担当のスタッフが1点1点セレクトしているそうだ。

 SPBSはトークイベントなども行っているが、その出演者にも本のセレクトを頼むことが多いという。取材時にはシンガー・ソングライターの東郷清丸さんの選んだ『定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー』(晶文社)、『一汁一菜でよいという提案』(土井善晴/グラフィック社)などが並んでいたが、「ミュージシャンが土井先生からどんな影響を!?」と想像するだけでワクワクしてくる。セレクトや見せ方しだいで、本屋はこんなにも楽しい空間になる。SPBSはそんなことを教えてくれる書店だ。

 そして店長の粕川さんに、いま個人的に推している本を3冊紹介してもらった。1冊目は、「私が大好きすぎて(笑)」(粕川さん)と複製原画も展示してプッシュ中の『ニューヨークで考え中』(近藤聡乃/亜紀書房)の第2巻。「作者がニューヨークで過ごす日常を綴ったコミックです。見開きでひとつの話が完結するので、パッと開いたページをフッと読んで、フフッと笑える本ですね。もともと現代アートを中心に活躍していた方で、絵の細かい部分も手書きの文字も本当に上手。『画家さんだなぁ』と感じます」。(粕川さん)

 2冊目は『たすかる料理』(按田優子:著、鈴木陽介:写真/リトルモア)。「著者は代々木上原で餃子屋さんを営む料理家さんです。『頑張って自炊しなきゃ!』と思っている人は多いと思いますが、この本は『日常で自分たちが食べるだけの料理なら、こんなかんたんに美味しいものが作れるんだよ』と教えてくれる。読んでいて気持ちも楽になるし、お腹も減る本です」。(粕川さん)

 3冊目は出版社でもある「SPBS」が発行している『ATLANTIS zine』05号(加藤直徳/ SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS)。「TRANSITの元編集長・加藤直徳さんが、新雑誌『ATLANTIS』の創刊までの過程を伝えるZine(ジン/個人または仲間たちと作る、オリジナルの小冊子のこと)です。プロの編集者やアートディレクターのインタビューも載っていて、『こんなに熱量を込めて雑誌を作っているんだ』と驚かされますし、『なにかを自分で作ってみたい』と思っている人に響く本だと思います」。(粕川さん)

文=古澤誠一郎

SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS

電話番号 03-5465-0588

住所 東京都渋谷区神山町17-3 テラス神山1F

営業時間 月~土曜 11時‐23時 / 日曜 11時‐22時※イベント等により変更あり

定休日 不定休