「コンプレックスを持っている女の子の方がアイドルとして脚光を浴びる」ちゃんもも◎×渡辺優『地下にうごめく星』刊行対談

エンタメ

2018/4/6

小説すばる新人賞出身の新鋭・渡辺優の第3作『地下にうごめく星』は、アイドルに憧れる男女やファン(オタク)の心理を巧みに描いた群像小説だ。アイドルグループ「バンドじゃないもん!」に所属し文筆も行うちゃんもも◎が、本作を読み感動を伝えた。

渡辺優さん、ちゃんもも◎さん

ちゃんもも◎(右)
ちゃんもも●1991年、神奈川県生まれ。リアリティ番組『テラスハウス』に初期メンバーとして出演。2014年より「バンドじゃないもん!」加入。著書にエッセイ『イマドキ、明日が満たされるなんてありえない。だから、リスカの痕ダケ整形したら死ねると思ってた。』。
渡辺 優(左)
わたなべ・ゆう●1987年、宮城県仙台市生まれ。大学卒業後、契約社員として働きながら小説を執筆し、2015年に『ラメルノエリキサ』で第28回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。宮部みゆきから激賞を受ける。17年に短編集『自由なサメと人間たちの夢』を刊行。

 

ちゃんもも◎(以下もも) アイドルのことがここまでリアルに描かれる小説って今まであったかなって、本当にびっくりしました。アイドルの気持ちも、アイドルを応援するお客さんの気持ちも、どっちも書かれているじゃないですか。

渡辺優(以下渡辺) すごく嬉しいです。私は思いっきりオタク側の人間なので、実際にアイドルとして頑張ろうとしている子たちの気持ちは想像で書いていったんです。本業の方からしたら「全然違う!」と思われちゃうんじゃないかなって不安があったので、ホッとしました。

もも 元々アイドルがお好きだったんですか?

渡辺 好きだったんですけど、私の世代でアイドルっていうとモーニング娘。さんとかAKB48さんなので、「テレビの画面の向こう側にいる人たち」って印象があったんです。でも、私の職場にアイドルオタクの男の人がいて、誘われて地下アイドルのライブを観に行ったんですね。「現実の世界にアイドルがいる!」って衝撃を受けたんですよ。第一章に出てくる〈夏美〉が経験したことは、ほぼ私自身の実体験なんです。

もも 初めてライブを観た〈夏美〉がずきゅーんとなる場面、めっちゃ臨場感がありました(笑)。

渡辺 地下アイドルでも、東京の秋葉原とかで活動しているアイドルさんの方が「地上」には近いですよね。私は仙台に住んでいるので、観に行くのは仙台の小さなライブハウスに限られていて。そこの女の子たちは「地下何階」にいるのか分からない。でも、ものすごくキラキラしていたんですよ。そこからハマってしまって、いつからかアイドルのことを小説で書いてみたいなって思うようになって。

もも 私も元々アイドルオタクだったから、応援する側の気持ちもよく分かるんです。〈夏美〉はぱっと見で一番かわいいって感じた子、ではない〈楓〉のことを好きになって、応援したいと思うようになるじゃないですか。その人の表側だけじゃなくて裏側もというか、目の奥にある何かを感じ好きになる。あそこの心の動き、めっちゃ共感しました。

渡辺  推したいって気持ちになる子って、なんていうか……グッとくる、としか言いようがないんです。

もも 分かります!(笑)

渡辺 ただ、私的にグッとくると思った子が、数カ月でやめてしまうことも結構多くて。東京と地方のアイドルシーンはやっぱりちょっと違うのかな、と。

もも 確かに、この小説の舞台が東京だったら、お話の中身もぜんぜん違っていただろうなって思います。そこが面白いですよね。

渡辺 推していた子がやめちゃうのって、オタク側からすれば悲しいことなんですけど、その子がアイドルを目指したっていう時間や経験は、その子の人生にとって絶対に何かプラスになっているはず。そこも想像して書いてみたいな、と思ったんです。

スタートラインに立つ時 問われるのは「覚悟」

渡辺 この小説を書こうと思った時に、今のアイドルになりたい若い子ってどういう子たちなのかなって考えたら、クラスで一番かわいいとか一番の人気者じゃない気がしたんです。アイドルになることで輝ける、アイドルになることでしか救われないって子たちだからこそ、応援したくなるのかなって……。その結果、あんまりキラキラしてない話になりました(笑)。

もも 昔って初めから恵まれているというか、とにかく見た目のかわいい子がアイドルになるって感じでしたよね。今はむしろ、見た目だったり精神的にだったり、どこか自分にコンプレックスを持っている女の子の方がアイドルとして脚光を浴びる。そのコンプレックスにいろんな人が共感する、という方向にここ数年で移り変わっていったのかなと思います。私もアイドルはずっと好きだったし憧れていたけど、まさか自分がなれるとは思ってなかったですもん。

渡辺 そうだったんですね!

もも 今ってスタートラインには誰でも立てるんですよ。あとは覚悟の差が大きいんじゃないかなと思うんですよね。アイドルを実際にやってみて、「思ってたのと違う」って感じることは誰にでもあることで。だからといってやめたくはない、という強い気持ちを最初から持っている人たちしか、上には行けないしグループも続かない。

渡辺 それで言うと、私が小説で出したのは、覚悟がないメンバーばっかりです(苦笑)。

もも でも、「アイドルになりたい!」ってすっごい馬力で突っ込んでいく〈天使ちゃん〉が現実にいたら私、絶対推してますよ(笑)。男の子だけど女の子のアイドルみたいになりたい〈翼〉も、ひねくれててめっちゃいいキャラですよね。〈愛梨〉とオタクの小宮山さんとの絶妙な関係性は、どっちにも感情移入して泣きましたもん。

アイドルに対する気持ちは他に替えがきかないもの

もも 小説を読んでいて、オタクとかアイドルって文学的な表現が合うんだなぁと思ったんです。最近、アイドルを題材にした映画とかドラマがいろいろありますけど、アイドルがステージに立っている時だったり、アイドルを見ているオタクって、頭の中でものすごくいろんなことが同時に起きているじゃないですか。それを表現できるのは、小説とか文章がぴったりなんだなって感じました。

渡辺 オタクの人のブログとかを読むと、自分の推しへの気持ちを書く時ってポエムになる。普通の文章じゃ表せないような、文学的表現になっている気がします。

もも 小説だから、あえて文学的表現になってるんじゃないんですよね。アイドルオタクのありのままの感情を文章にするとこうなる。

渡辺 おおげさに書いているつもりはまったくなかったので、そう言っていただけて嬉しいです。アイドルに対する気持ちって、替えがきかないものだなって思うんですよ。世の中には他にも、恋人とか友達とか家族とか、希望になるような関係はいっぱいあるけど、自分とは無関係のアイドルの女の子に対して、「その子を応援しているだけで嬉しい」「その子が笑ってるだけで嬉しい」みたいな気持ちって、純度100%の希望だなって思うんです。

もも 体の中から幸福感が湧き上がってきますよね。その人が、存在してくれるだけですごく嬉しい。

渡辺 そうなんです! 小説の中で、自分でも上手に表現できたなって思った言葉に、「鈍器で殴られたような楽しさ」って(笑)。それを感じたことがあるのとないのとでは、人生大違いだと思う。アイドルオタクになったことのない人に対して、小説を通して「知らなくて本当にいいんですか!?」って伝えたかったんですよ。

もも 私もおんなじ気持ちですね。「“推し”がいない人生は損ですよ」って言いたい! アイドルが好きな人も好きになったことがない人も、みなさんに読んでほしいなって本気で思います。

取材・文:吉田大助 写真:飯岡拓也