「フェミニズム」は男性を糾弾するものではなく、女性がどう生きていくかを考えるもの――

ライフスタイル

2018/4/17

『わたしを生きる知恵 80歳のフェミニストカウンセラーからあなたへ』(河野貴代美/三一書房)

 フェミニストと聞くと、どんなイメージを思い浮かべるだろうか。おおよそ「ヒステリックに男性を糾弾する、怖いオバサン」といったところなのは、容易に想像がつく。20世紀初頭のイギリスでも女性参政権を訴える運動家たちを、醜い姿で揶揄する葉書が出回っていたほどだ。
https://www.buzzfeed.com/jp/hazelshearing/heres-the-abuse-the-suffragettes-are-received-for-trying-to

 しかしもうすぐ80歳を迎えるフェミニストカウンセラーで、元お茶の水女子大学教授の河野貴代美さんは「フェミニズムというのは、『あなたは女としての自分を生きてますか?』という問いかけが土台になっているものです」と言う。これまでの人生を振り返り、次世代へのメッセージとして『わたしを生きる知恵 80歳のフェミニストカウンセラーからあなたへ』(三一書房)を出版した河野さんに、フェミニズムとは何かについて教えていただきました。

■フェミニズムの柱は、反暴力と反差別

「女性を抑圧から解放する運動の、ウーマンリブが主流の時代には髪を振り乱すイメージが確かにありました。社会運動は少し毒気というか、おとなしくさわやかにやっていては伝わらないところがあるから、それは必要なことだったと思います。しかしそういう運動は、今ではほとんど見られなくなりましたね」

 おっとり話す河野さんは、まさに“どこにでもいそうな、ステキなおばあちゃん”だ。

 1968年にベトナム反戦運動が盛んなアメリカに渡り、アメリカ最大のフェミニズム運動組織「NOW」(全米女性機構)と出合った河野さんは、「あなたはあなたのままであっていい」という思想に感動し、フェミニズムにのめり込んでいった。そして帰国後の1980年、フェミニストカウンセリングルームを立ち上げる。

「『あなたはあなたのままであっていい』という考えに出合い、『これだ!』と思って私は古い服をパッと脱げた感覚を得ました。でも既存の考え方になじめないけれど、『女だから』に縛られて簡単には脱ぎ捨てられない人もいる。また脱いでもどんな服が似合うのかがわからない人もいる。だから今までの生き方を丁寧に振り返りながら、なりたい自分になるためにはどんな服が似合うのかを考えようというのが、フェミニストカウンセリングの出発点なんです」

 フェミニズムは男性を糾弾するものではなく、女性自身がどう生きていくかを考えるもの。そして夫や子ども、隣近所や親せきの話ではなく、世間話ではないレベルで自分を語るためにカウンセリングが機能しているのだと、河野さんは言う。

 河野さんが相談を受けてきた中で、悩みとして大きかったものは「DVからどう解放されるか」だったそうだ。

「フェミニズムの大きな柱は反暴力、反差別です。暴力にはDVから性暴力まで色々ありますが、いずれも被害者たちが快復していく過程には、大きな困難が伴います。『私に落ち度があったのでは』と本人も悩むし、周りも『あなたに問題があるのでは?』とか『そんな服を着ているから悪い』とか言ってしまうことがあり、それで自責の念に駆られてなかなか立ち直れない。だから被害者には『あなたに責任があるのではなく、暴力を是認し助長する社会のシステムに責任がある』という話をずっとします。また暴力には遭っていないけれど、『いいお母さんね』『いい奥さんね』と言われるようにおのずと振る舞ってしまい、違和感があっても抜け出せない人もいます。女性って女性らしさを内面化して、それに添おうとしてしまうから、仕方がない面もありますが……。そういった悩みに対してたんに癒しを与えるのではなく、どうすればいいかを自分で考える手助けをしてきました」

■フェミニズムは、記号ではない自分を生きるツール

 最近は「男だって生きづらさを抱えている」という、男性の苦しみに注目が集まることも多い。中には女性専用車両などを、「逆差別だ」とまでいう声もあるが……。

「それは女性が置かれた状況の、ごく一部しか見ていないからではないでしょうか。レディースデイなど個別の事案だけでは『男性差別だ』と思うかもしれませんが、広い視点で見れば、女性がこの社会で抑圧されていることは理解できると思います。私は女性にしては背が高い方ですが、以前海の近くに住んでいた頃、1人で浜辺を散歩している時に男性とすれ違うのが怖かった。『そんなことないでしょう』と思うかもしれないけれど、女性である限り襲われない保証はありません。でも女性は常に恐怖に晒されていると訴えると、『男性だって暴漢に襲われますよ』と言う人がいます。それは否定しませんが、女性は女性である限り、暴力の恐怖から逃れられないんです。
 また時々『女性だって頑張れば出世できるのに、管理職が少ないのは努力しないからだ』と言う人もいます。しかしトイレットペーパーが切れてしまったり、家の何かがなくなったりした時に焦るのは大抵女性です。それほどまでに女性が家事労働を内面化させてしまっている現実があるのに、多くの男性は外で天下国家を語ることに忙しい。そのような面を見ずに『女ばかりが優遇されている』『女は努力しないから出世しない』と思うのは、ちょっと違うのではないかと言いたいですね」

 フェミニズムは「○○ちゃんのママ」や「××の社員」という記号ではなく、自分はたった1人の存在だと気づくためのツールだと、河野さんの本は教えてくれる。そして河野さんはこの本を、「働く中で女性であることに向き合う、若い世代に読んでほしい」と語る。

「仕事をしながらこの先結婚は、子育てはどうしようと思っている人に向けて『ワークライフ・バランスを取りながら仕事をずっと続けてほしい』『その上で自分の意思や感情をはっきりさせて、自分を確立してほしい』ということを伝えたいんです」

 ちなみにフェミニストカウンセリングルームは、今も全国で各団体が活動している(日本フェミニストカウンセリング学会)。興味があれば、一度訪ねてはいかがだろうか?

取材・文=玖保樹 鈴