朝倉あき「心に刻まれたひとつのセリフ。その言葉の意味がわかるように生きていきたい」

あの人と本の話 and more

2018/5/7

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、モスクワ国際映画祭で邦画史上初W受賞という快挙を成し遂げた映画『四月の永い夢』で主演を務めた朝倉あきさん。おすすめ本にも選んだ大好きな作家のこと、そして同映画の撮影エピソードを訊いた。

朝倉あきさん
朝倉あき
あさくら・あき●1991年、神奈川県生まれ。2008年『歓喜の歌』でスクリーンデビュー。出演作にNHK連続テレビ小説『てっぱん』、大河ドラマ『おんな城主 直虎』、ドラマ『下町ロケット』、映画『神様のカルテ』『横道世之介』など多数。スタジオジブリのアニメ映画『かぐや姫の物語』では、かぐや姫の声を演じた。
ヘアメイク:野中真紀子(éclat) スタイリング:嶋岡 隆(Office Shimarl)  衣装協力:チュールシアースリーブ プルオーバー 1万1880円、シアー プリーツ ジレ 1万7280円、フラワープリント ティアード マキシ スカート1万2960円(いずれもRay BEAMS 原宿 TEL03-3478-5886) ※価格はすべて税込 ほか、スタイリスト私物

「きっと好きだと思うから」

朝倉さんが、『みをつくし料理帖』のページを開いたのは、そんな知人のひと言からだったという。

「そこから髙田郁さんの大ファンになってしまって。『ふるさと銀河線 軌道春秋』も刊行してすぐに書店で見つけ、手に取りました。そのときどきを懸命に生きる人々の小さな物語にスポットライトをあてた9編(所収の短編集)は、まるで著者ご本人が寄り添っていてくれるようなやさしさに溢れていました」

「素適だなと思う文章を見つけると、声に出して読んでみたくなる」と、以前のインタビューで語っていた朝倉さん。本作も音読を試みたのだろうか。

「少しだけ朗読してみたのですが、自分のなかで、あまりにもこの小説が大切な文章になり過ぎていることに気が付き、途中でやめてしまいました。この作品は、ここから何かをつくりだしていくというより、本当にこのままを、ただただ味わいたいと思いました」

 映画『四月の永い夢』は、静謐な描写のなか、声や音が印象に残っていく。かつて親友を亡くしたばかりの頃、何を観ても何も入ってこなかったという中川龍太郎監督の心に唯一届いたのが、高畑勲監督の『かぐや姫の物語』という作品とかぐや姫を演じた朝倉さんの声だったという。

「撮影中は、それがオファーのきっかけと監督からはっきりとはうかがっていませんでした。けれど、そうした形で心に留め置いていただけたのは、本当にうれしかった」

 3年前の春に突然、恋人を亡くし、音楽教師も辞めたまま、初海は喪失感を隠し持ちながらも、穏やかな日常を重ねている。

「はじめは人との距離感が独特な柔らかな雰囲気を持つ女性だなと感じていましたが、物語の途中で、彼女が元教え子を助けにいく場面があるんですね。そこでは激しく真っ直ぐな一面が見えて、一瞬、初海のことがわからなくなってしまいました。けれど、ああ、そうか、それがもともとの彼女の姿なんだと演じていくうちに気付いて。初海に好意を寄せる染め物工場で働く志熊さん(三浦貴大)と話していても、ひとつ距離を置くような受け答えをする彼女の“今”。それは3年前の恋人の死があっての“今”なんだろうなと」

そんな“永い夢”のなかにいるような初海。その夢から少しずつゆっくりと覚めていく過程は、彼女がいる風景のなかから映し出されていく。初海が暮らすレトロな趣のアパート、その部屋がある東京・国立の美しい街並み、志熊が働く染め物工場の、天井から吊り下げられた色とりどりの手ぬぐいがある一角、そして冒頭で、初海のモノローグとともに映し出される桜と菜の花――。

「視界いっぱいに、煙るほどの桜と菜の花が咲いていて、夢のような場所でした。撮影地は埼玉県にある城ヶ谷堤という場所なのですが、その光景を見たときは言葉も出ませんでした。中川監督が選んだ数々の場所からも、この映画で描きたいことを教えていただいたような気がしました」

 亡き恋人の両親が暮らす富山のシーンも、滴るような緑が印象的。そこへと赴いた初海が受け取る彼の母(高橋惠子)の言葉も染み渡ってくる。

“人生って失っていくこと。失い続けることで、その度に本当の自分を発見していくしかないんじゃないかな”――。

「正直、まだ今の私に、この言葉は理解できていないのですが、こうしていることが正しいとか、こうしたほうがいいんだというものが削ぎ落とされていくことなのかなと。何かをすべきだと自分に言い聞かせるのは、本当の気持ちが覆い隠されて見えなくなってしまうから。でもまだわからないんです。この言葉の意味がわかるように生きていきたいなと思いました」

 何か大きなことが起こるわけではない。けれど、心に刻まれたものと寄り添いながら、ともに年月を重ねていけるような――そんな映画だ。

「風景や肌ざわり、匂い、そうしたものをとても感じられる作品だと思います。それをぜひ映画館で体感し、初海と一緒に時間の流れ、気持ちの移り変わりを味わっていただけたら幸せです」

(取材・文:河村道子 写真:下林彩子)

 

映画『四月の永い夢』

映画『四月の永い夢』

監督・脚本/中川龍太郎 出演/朝倉あき、三浦貴大、川崎ゆり子、高橋由美子、青柳文子、森次晃嗣、志賀廣太郎、高橋惠子 配給:ギャガ・プラス 5月12日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開 
●3年前に恋人を亡くした、27歳の滝本初海。音楽教師を辞めたままの穏やかな日常は、亡き彼からの手紙をきっかけに動き出す。元教え子との遭遇、染め物工場で働く青年からの告白、そして心の奥の秘密。喪失感から緩やかに解放されていく日々が丁寧に紡がれる。
(c)WIT STUDIO / Tokyo New Cinema