3年間向き合ってきた大切な相棒、宏嵩との日々を語る――伊東健人インタビュー

アニメ・マンガ

2018/5/26

TVアニメ『ヲタクに恋は難しい』 フジテレビ“ノイタミナ”にて毎週木曜24時55分から放送中 (C)ふじた・一迅社/「ヲタ恋」製作委員会 http://wotakoi-anime.com/

『ヲタクに恋は難しい』を楽しい作品たらしめている要素はいくつも存在するが、やはりキャラクターの魅力は、この作品を語る上では外せない。メインキャラクターのひとりで、超がつくほどのゲーム廃人。決して感情表現が得意とは言えない二藤宏嵩は、その不器用な佇まいと、ふと見せる優しさが共感を呼び、読み手を惹きつける、『ヲタ恋』のキーパーソンである。宏嵩を演じるのは、『ヲタ恋』の単行本1巻刊行時のPVから3年間、彼の「相棒」を務めている声優・伊東健人。宏嵩との出会い、3年間向き合ってきたからこそ気づいた彼の変化、そして宏嵩を通して実感する自身の成長について語ってくれた。

宏嵩のお芝居は難しいものであると同時に、自分の中で大きなものになっている

――TVアニメ『ヲタ恋』、伊東さんはいち視聴者としてどう観てますか?

伊東:もともと原作ファンとしても楽しみにしている中でアニメがスタートしたんですけど、やっぱり演者として観てしまうことが多いです(笑)。「ここ、こうしたらよかった」という後悔とか、「ここ、ええやん」みたいな視点で、一回は観てしまいます。それを取っ払って視聴者として二回目を観ると、日常というかオフィスラブっぽい感じが前面に出つつも、付き合ってからの距離感の難しさが描かれてる作品って、なかなか珍しいんじゃないかと思うんですよ。そういうところで、普段アニメを観ない人たちも観てくれてるのかなって感じることは多いですね。序盤はスピード感がゆるめだったりするんですけど、
「ここまで届け、届け……届いたーー!」っていうところで1話が晴れやかになって終わるのが、とても好きですね。

――確かに、物語の最初で成海と宏嵩が付き合い始めるけど、普通はその過程を見せるために物語のすべての尺を使ったりしますもんね。

伊東:そうなんです。結ばれてハッピーエンド、じゃないんですね。でも恋の難しさって、実際そこだったりするじゃないですか。付き合ってから続けることが難しいって思うんです。僕、『ヲタクに恋は難しい』の後ろに入るサブタイトルを考えるのが好きで。難しいということは、不可能ではない、ということじゃないですか。「難しい」けど、恋していいんだ、とか。僕自身はそういうプラスの意味にとらえていて。そうやって書かれていないタイトルのウラを感じてもらうと、また面白いのかなっていう気がします。

――ちょっと話がさかのぼるんですけど、原作の単行本が出たときにPVが作られてたじゃないですか。つまり宏嵩とはもう3年の付き合いになるわけですけど、当時彼にどんな印象を持ってましたか。

伊東:最初は、今との比較にはなるんですけど、より怖い顔が多かった気がしますね。単純にガタイがいいし、目つきの悪さが印象的だった気がします。でも今の宏嵩は、原作の1巻の頃に比べると優しいし、たれ目が強調された感じがありますよね。あと、これは個人的に感じてることなんですけど、PVを最初に作った頃からふじた先生とはお話ししたりしていたこともあって、だんだん宏嵩が僕に寄ってきているイメージがあります。特に最近は、任せてくださっている部分は多いかもしれないです。PVを録っているうちに、新しい一面が見えていくとともに「わかる、宏嵩わかるー」という部分も増えてきました。それは単純に、僕が宏嵩のことを考える時間が増えたからかもしれないですね。

――同じキャラクターをアニメ化されるまで3年間演じ続けるって、わりと珍しいですよね。

伊東:そうですね。これだけ長く、深く、同じキャラクターのことを考える機会はなかなかないので、役者としてもありがたいですよね。もう単純な仕事ではなくなってきているというか。僕の声優歴は6年くらいで、そのうちの半分くらいを一緒に過ごさせてもらっているので、ライフワークというか、大きな部分を占めているキャラクターではあると思います。ある意味、宏嵩ってそんなに芝居をしてはいけないというか、もちろん僕的にはしているつもりではあるんですけれども、「お芝居をしてないと思うくらい自然だね」って思ってもらえたら嬉しいですね。それくらい、自然にやれているということなので。

――撮影のときに、ミュージカルが好きだって言ってたじゃないですか。ミュージカルって、全身を使った表現だし、ひと目で芝居だとわかる必要がありますよね。宏嵩とはアプローチが逆というか。

伊東:そうですね、逆ですね。

――大きな芝居をやってみたいと思う一方で、宏嵩としてはミニマムなものを出していく必要がある。しかも普通にしゃべるだけではなくて、感情がフラットに見える中でちょっとした機微を表現していかなければいけない。宏嵩は、とても繊細なコントロールが必要な役でもあって。

伊東:そこは、すごく考えます。宏嵩は細かい作業が多いので、他のお仕事をやるときに、違う目線で見ることができるようになった感じはします。大きな芝居をやるときにこそ、小さくやってた芝居が役に立つ、というか。「こういうことか」って気づくことは多いですね。そういう意味でも、宏嵩のお芝居は難しいものであると同時に、自分の中で大きなものになっている気がします。やっぱり、どちらかというと声を張ることが多い世界なので、今の段階で宏嵩のようなキャラクターができることのありがたさを、噛みしめながらやってます。

――試行錯誤やトライを重ねていく中で、「宏嵩ってこういうヤツなんだな」って伊東さんの中で固まったのは、たとえばどんなシーンですか?

伊東:アニメだと、4話で樺倉太郎と小柳花子にちょっといざこざがあって、仲直りするシーンがあるんですけど、成海がそれを見に行こうとするんですよ。でも宏嵩は、そこでちゃんと止めてあげるんです。そこはふたりの問題だからっていう。その一連のシーンが、僕はけっこう好きですね。その手前のシーンでも、空気がやわらかくなるセリフを挟んでくるんですよ。たとえば、まわりがちょっと張り詰めた空気になってたとしたら、あえてそれを緩ませるというか、彼なりにおちゃらけたことを言ってみたり。でも「ここは邪魔しないほうがいいな」っていうときには、介入しない立ち位置をとることもできる。「宏嵩っていいヤツなんだな」って思ったのは、そういうシーンだったりしますね。

(成海役の)伊達さんに対しては、いつも心の中でハリセンを持ってます(笑)

――『ヲタ恋』は、原作はもちろん、映像化するとなると掛け合い命なところがあるのかな、と。スピート感やテンポ感がものすごく大事になってくると思うんですけど、共演者の皆さんとはどういう感じでコミュニケーションしてるんですか。

伊東:4人の関係性というか、バランスが本当に好きです。普段のアフレコでのやり取りは、すごくフランクにやらせてもらってます。その中で、役割としては自分が真ん中にいなければいけないな、と思っていて、座長じゃないですけど――主人公は成海なんですけど、空気をある程度作る役割は僕にあると思うので、そこは考えながらやってます。そう、杉田(智和)さんが「伊東くんのカバーは僕がやるから、あとは任せた」みたいなことを言ってくださったことがあって。

――カッコいいですねえ。

伊東:カッコいいでしょう! やっぱり、ふとしたときに助けてくれるのは杉田さんだったり、先導して場の空気を引っ張ってくれるのは沢城(みゆき)さんです。ある意味、ピシッとさせてくれるというか。沢城さんもすごく優しい方なので、僕らのことを思って、言いにくいことだとしても言ってくれたりします。刺激を受けるところは無限にありますね。アニメが好きな方からすれば、杉田さんと沢城さんを知らない人はいないと思いますし、その背中はめちゃくちゃデカいですね。

――成海役の伊達朱里紗さんとのコンビネーションも、かなり重要ですよね。

伊東:伊達さんに対しては、いつも心の中でハリセンを持ってます(笑)。僕のパーソナルとして、ツッコミに回れるのは稀有なことなので、面白いですね。「俺たち、なんでこれで会話が成立しているんだろう」っていう(笑)。普段の僕は、属性的には天然ボケなので、ボケとボケなはずなんですけど、ラジオとかも始まって、ふたりで話す機会も多い中で、「ほんとに息ぴったりだよね」って言ってもらえることがあって。そう聞こえるのがなかなか面白いというか、発見だったりしますね。

――本人は噛み合ってる自覚がない、と(笑)。

伊東:僕的には、ついていくのに必死だったりすることがあります(笑)。心の中のハリセンを、何度も振り上げてはおろし、振り上げては、おろし(笑)。でも、成海と宏嵩もそういう感じなのかなって思ったりしますね。ボケとツッコミがはっきり分かれているふたりではないので。

――成海って、初速が速い人ですよね。「走るよ」って言ったら、1秒後には10m先に行っちゃってる、みたいな感じがある。で、それをフォローしてあげるのも宏嵩の役割というか。

伊東:そうですね。成海のそういうところが、ある意味うらやましいと宏嵩は思いつつ、ブレーキをかけてあげたり。単純に、伊達さんがアクセルで僕はブレーキ、みたいな立ち位置だと思ってますし、そこでバランスが取れていればいいなって思います。宏嵩って、会話のテンポを出すのが難しくて、特に序盤はまわりの空気に乗ってしゃべることができないんですよ。「こいつ一体何考えてるんだろう」って思われるのが正解になってくるので、そこは難しかったですね。役者としての僕は会話のキャッチボールをしていきたいんですけど、それを封じられた状態、というか。感情表現プラス、どういうテンポでしゃべったらいいのか、すごく考えましたね。なので、ところどころで1話に立ち返ってもらうと、宏嵩がしゃべるテンポが変わってることに気づいていただけるかもしれないです。

――宏嵩という役への向き合い方も含めて、今回のアニメは伊東さんにとって大きなきっかけになる作品になると思うんですけど、声優・伊東健人にとって、『ヲタ恋』はどんな存在なんでしょうか。

伊東:僕にとって、今のところは……なんて言ったらいいかな。近所の公園、ですかね。いや、ちょっと変なこと言いましたね(笑)。こう、家と仕事場の中間点にあるけど、そこでいろんなことを改めて考えさせてくれたり、ちょっと足を伸ばせばそこにあるというか、気が休まる場所だったりします。もちろん、仕事をする上での緊張感は持ちつつ、ちょっとした休憩ポイントであり、自分を考える場所でもあるというか。自分の中で、中継点みたいな存在になってると思います。

――では、『ヲタ恋』のアフレコをラストまでやり遂げて、放送を最後まで観終えたときに、伊東さんの中にはどんなものが残ってると思いますか。

伊東:役者の僕自身としては、あまり先のことは考えていなくて、自然に残ってくるものだろうとは思ってるんです。でも糧になるものは当然あります。現時点でも考え方が変わってる部分はたくさんあって。たとえば会話の受け取り方が、変わったような気がしますね。声優って、自分のセリフの前の人のセリフがすごく大事なんです。たとえば成海が何か質問を投げかけてきたら、当然その質問に返すけれども、会話ってそれよりも前に始まってるんですよね。さらに言うと、台本に書かれる前の時点から、会話は始まってることは多い。そこを考える機会が、すごく増えたなって思います。宏嵩は、モノローグとして表れてない部分でも頭の中で考えていることがたくさんあるキャラクターだと思うので、彼をやらせてもらったことで、他の作品に臨むときにも、意識することが多くなりました。

取材・文=清水大輔  写真=竹花聖美
ヘアメイク=久保純子(addmix B.G)