声優デビュー10周年。感謝を抱え、さらなる進化を誓う3rdシングル――沼倉愛美インタビュー

エンタメ

2018/6/6

 6月6日にリリースされる、沼倉愛美3枚目のシングル『彩-color-』(読み:カラー)の表題曲は、とても感動的な1曲だ。「泣かせる要素が詰まっている」という意味ではない。ひとりの表現者が、支えてくれる人に抱いた気持ちを素直にアウトプットし、さらに進化していくことを自身に誓った曲だから、である。2016年8月に自身名義の音楽活動をスタートした沼倉愛美は、声優としてのキャリアも今年で10周年を迎える。少しずつ自分ができることを増やし、着実に歩みを進めてきた彼女は今、表現者として充実のときを迎えている。演技者として経験を積み重ねてきた自信と、昨年夏の1stライブツアーをはじめ、音楽活動の中で感じてきた感謝の想い。それらが反映された手応え十分の3rdシングルと「今の自分」について、話を聞いた。

「わたしはたくさんの人に愛してもらって、たくさんの人を愛してここにいる」

――3rdシングルの『彩-color-』を聴かせてもらいました。まずは沼倉さん自身、どんなシングルになったと感じているか、教えてもらえますか。

沼倉:1枚としての完成度やクオリティは、去年のライブまでをひと回りとして1年間やってきて、ちょっとだけインプットの時間をいただいてからの3枚目ということで、その時間をきちんと積み重ねて作ることができたかな、と自分では感じてます。変化というか、力みや余計な気負いが少し取れたようにも思いますし。あとは、ちょっと女っぽい1枚になったかな、と自分では感じていて。全体的に、3曲とも柔らかさが入った曲になっているので。そういう部分で、これまでとは違う沼倉っていう人間を見せられる1枚になったかな、と思います。今までは、わりとリード曲がガツガツしている曲で、どちらかというと固いというか、男勝りな感じを前面に押し出している楽曲が多かったし、(1stアルバム収録の)“My LIVE”も攻撃的だったりしたので、それを考えると、女性としての自分みたいなものが少し入ってきた1枚になったと思います。

――なるほど、面白いですね。音楽に取り組む自分自身が、少し変わってきていることを実感する部分もあったりするんでしょうか。

沼倉:そうですね。自分の中では、いい意味で背負わない感じになっている、というか。任せるところは任せたり、甘えられるんだったら甘えちゃおう、みたいなメリハリが、なんとなく自分の中のやり方として成立してきたのかなっていうところはあります。

――表題曲の“彩-color-”は、TVアニメ『かくりよの宿飯』エンディングテーマということで、何話か観させてもらったんですけど、ものすごく優しい作品ですよね。

沼倉:そうですね、もうとにかく優しくて。なんて言うんでしょう、かくりよという不思議な世界、現実とはまた違う世界に足を踏み入れた主人公がいろんな人と出会って、関係性を築いていく作品で。ファンタジーなんですけれども、その中で成り立っていく関係性や、主人公が歩んでいく道というのは、自分たちが生きてる世界にもありふれているシチュエーションだと思っていて。生きていけばたくさんの人と出会うし、ぶつかったりもするけど、それでわかりあっていく。そういうシーンが描かれていて、共感できるところも多かったので、その部分を軸にして歌詞を書けるかなって思いました。人と関わることで自分の居場所ができていく、人と関わることで自分が自立していく、みたいな。自立って、ひとりで立つって書くけど、それは誰かがいないとできないことじゃないですか。そういうことへの感謝を去年すごく感じたので、そのあたりを交えて自分の気持ちとしても歌詞を書けると思ったので、まずはそこをテーマにしていきましたね。

――“彩-color-”を最初に聴いたときの印象を一言で言うと、「歌詞がめちゃくちゃいいな」ということだったんですよ。特に、曲の中で何度か同じ言葉が出てくる、サビの一節ですね。《誰かのために生きること》というフレーズが、特に印象的でした。その他にも、《出会えたの まぶしい未来と》《出会えたの いとしい世界と》《私に居場所をくれた糸/出会えたの やさしい時間と》っていう素敵な言葉が並んでいて。この歌詞はどうやって出てきたんだろうって、ぜひ聞いてみたかったんですよ。

沼倉:それはとても嬉しいです。《誰かのために生きること》という歌詞だけは、どうしても入れたくて。でもハマるところがなかなか見つからなくて、サビに入れたのは実は苦肉の策だったんですけど(笑)。

――(笑)ということは、歌詞に取り組もうとしたときに、この言葉が最初にあった?

沼倉:ありました。基本的にわたし、箇条書きでいろんなワードを書き出して、その中でハマる場所を探していって、ひとつ「ここだけは変えないぞ」っていうところが見つかると、まわりが固まっていくんですよ。いろいろ考えながら進めていって、「《誰かのために生きること》がハマらないな、どうしても入れたいんだけど、どうしよう?」って思っていて。この曲は、サビがけっこう悩ましかったんですけど、最後にハマって、そこにハマったから2番の《居場所をくれた糸》っていう歌詞もハマっていって。なので、そこの部分に注目してもらえるのは、すごく嬉しいことです。

――あえてシンプルに聞くと、なぜ「この言葉だけは入れたい」と思ったんでしょうか。もちろん、『かくりよの宿飯』から受け取ったものは当然あるだろうと思うんですけど、同時に、それだけではないんだろうな、という想像もしてまして。

沼倉:以前、ライブBlu-rayの頃に話してたんですけど、自分のために頑張ることって、すごく難しくて。ライブのときも、自分をサポートしてくれるバンドメンバーやスタッフさんの存在を感じることで、「この人たちが頑張ってくれてることを無駄にしたくない」という気持ちで乗り切れた部分は、すごく大きかったんですね。そういう気持ちって、詩的に言うとどうなるんだろう、みたいなところから出てきた歌詞なのかなって思います。とらえようによってはすごく傲慢というか、ちょっと押しつけがましく聞こえたりもする言葉だと思うんですよ。でも、表面的にとらわれることを怖がるのではなくて、わたしの中にまわりの人への感謝があって、自然とこの言葉が生まれてきたので。わたしの言葉として一番生きてるワードだと思ったんですよね。だから、《誰かのために生きること》を入れることで、わたしの歌詞になった、というか。作品につく歌だし、作品を表現した歌詞でもあるんですけど、自分の思いも投入できた歌詞にできたなって思います。『かくりよの宿飯』という作品があって、この“彩-color-”のデモがあがってきたから書けた歌詞ではあるので、作品に引っ張ってもらって生まれた歌詞ですね。

――なるほど。さっき挙げさせてもらった部分の歌詞、たとえば《誰かのために生きること》《私に居場所をくれた糸》っていうフレーズは、表現者としての沼倉愛美という人の現在地、そのものなんじゃないかって解釈をしたんです。まず、声優としてずっと頑張ってきた時間があって、頑張ってきたと自分でも自信を持って言える、だから今があるんだっていう考え方を前に話してくれたと思うんだけど、音楽活動においても今までの歩みが力になって、居場所を作ることができてるじゃないですか。だから、すごく実感がこもって聞こえる言葉だなって思うんですよね。

沼倉:そこは、本当にそうですね。ほんとは、2番の歌詞は糸、じゃなくて人、だったんですけど、「この部分は人でもいいけど、わたしはたくさんの人に愛してもらって、たくさんの人を愛してここにいるから、人じゃなくていいか」と思って、縁っていう意味を込めて糸にしたんですよ。変えてみて、すごくよかったと思います。

――その「糸」もそうだし、歌詞の中にいろいろ惹かれる言葉があるなって感じます。フックがあるっていうとシンプルになっちゃうけど、「おっ!」って思うポイントがいくつもある曲なんですよ。

沼倉:そうですね、すごくバランスがいいというか。今までの自分の曲にあった勢いや疾走感は保ちつつ、これまでのダークな世界観のある曲とは少し印象が違って、明るさと柔らかさと、ちょっと艶っぽい感じもあって、『かくりよの宿飯』の和風テイストも入っていて。だから、わりと全方位を押さえて作られてる曲だな、と思います。だからこそ、カップリングの2曲は「ちょっと遊んでみよう」と思って作らせてもらったんですけど、バランスはすごくいいと思います。

――自ら言ってくれたのであえて言うと、おいしい曲だしおいしいシングルだな、と(笑)。

沼倉:あはは! そうなんです。

自分で言うのもなんだけど、脂が乗ってます(笑)

――音楽活動について沼倉さんと初めて話したのは“Climber’s High!”の頃で、表現は難しいんだけど、決して前向きなことばかりを言う人ではない印象があって。でも今、この“彩-color-”を聴くと、全然違う人物像が浮かび上がってくる感じがあるんですけど(笑)。

沼倉:(笑)あの頃はね、だいぶ負けてたので。自分のキャパシティを超えたものを求められている感じがしていて、そこにたどり着ける自分もなかなか想像できなかったですね。自分の中でハードルを下げようと頑張ってた、みたいな。まあ、それは今でもありますよ。やっぱり、仕事をしていると、それまでとまったく違うものを求められたりするし、できるかどうかはやってみないとわからないこともあるし。「うわ~、試されてる」って思うことは未だにいっぱいあるし、そういう仕事の前はネガティブなことばっかり言ってます。「あ~あ」って(笑)。でも本来、わたしはそういう人なんだと思います。“My LIVE”の歌詞みたいに、後ろを見ながら歩くタイプだし、一番いいことと一番悪いことを考えて生きてるんですよ。学者さんか哲学者さんが言ってたらしいんですけど、人間が考える最高と最悪って、実際には起こらないんですって。最高が起こらないのはまあ置いておくとして、最悪を想定することで「ここまで悪いことはきっと起こらない」っていうポジティブさで生きる、みたいな(笑)。

――(笑)。

沼倉:自分をさらけ出す気恥ずかしさだったり、それをしんどいと思うことって、きっとこの先もあると思うんですけど、そこをちょっと冗談めかして言ったり、「まあまあ、そこはね」ってちょっと濁してもいいんだって思えるようになったというか。それは音楽活動だけじゃなくて、声優の仕事の中でも、ある意味ちょっとくらい逃げたって人生構わないんだな、みんなそうなのかもなって思ったら、ちょっと力が抜けて、気恥ずかしさとか、さらけ出すしんどさも少し減った気がします。そうなることで、もう一歩、素直に自分の言葉を発することができるようになったと思っていて。それはもちろん、音楽活動を経験したからでもあるし、歳を重ねることで大人になった部分も感じたりしていますね。

――つい最近、30歳になったんですよね。

沼倉:そうです、30代になって。わたし、早く30歳になりたかったんですよ。だから、「やっとなれたな」って思っていて。楽しく過ごしていきたいな、と思うし、20代後半に感じていた中途半端な感覚は少しなくなった気もするし、だからちょっと思い切りがよくなった部分もあるかもしれないです。

――3rdシングルはとても内容が充実したシングルになっているし、音楽活動に向かうモードもどんどんいい方向に向かっている感じがしますよね。実際、今後の活動の中でも指針になりそうなシングル、という感じもするんですけども。

沼倉:どうなんでしょう、でも「こういう見せ方もある」っていう方向性は見つけられた1枚だと思うので、ここからまた広がっていければいいな、と思います。やっぱり、進化していかなければやっていく意味がないので、今回のシングルの出来栄えにはすごく満足しているんですけど、次はこれを踏まえて、さらに上をいくものを作っていかないと、とは思ってます。

――現時点で、それだけ自身が満足感を得られるシングルを完成させた自分を、どんな言葉で説明できますか? 過去に答えてくれた言葉の中では、1stアルバムの『My LIVE』について話したときの「悪くない」が印象に残ってますけど(笑)。

沼倉:あはは。でもいつまでも「悪くない」はカッコ悪いですよね。えー? でも難しいですね。今の自分は……なんだろう。まあ、悪くないは悪くないですし、嫌いでもないですし。調子いいなあ、とは思いますけど(笑)。

――(笑)またしても、いいフレーズ出ましたね。調子いい。

沼倉:そうですね、自分で言うのもなんだけど、脂が乗ってます(笑)。

――ははは。

沼倉:1年半前、“Climber’s High!”の頃にはなかった感覚とか表現が、自分の中に生まれていることはすごく感じてるので。きちんと成長を感じられるのはいいことですよね。それは、時間をかけて育ててくれた人がいるからなので、ちゃんと感謝を伝えていかないとって思います。声優としてデビュー10周年だし、そういう意味でも恩返しができたら、と思ってます。自分に何ができるかはまだ探してるんですけど、いろんな節目の年なので、ちょっとずつ成長していく、進化していく自分を見てもらって、表現をしていくことも感謝を伝えるひとつの方法だと思いますし、それをやっていきたい気持ちはすごく強いです。一言にまとまってなくて申し訳ないんですけど。

――いや、とてもいいと思いますよ。「脂が乗ってる」という言葉も含めて(笑)。

沼倉:めっちゃ調子乗ってるみたいじゃないですか?(笑)。もっと素敵な言葉ないかなあ。そもそも、「調子がいいって何?」っていう話ですよね(笑)。

前回のインタビューはこちら

取材・文=清水大輔