難解な微生物学を「役に立つ」ようにデザインしたい。『発酵文化人類学』小倉ヒラクインタビュー
公開日:2018/7/9

微生物から見た社会のカタチ』
小倉ヒラク
装丁:宇田川裕喜(BAUM)、
國影志穂(BAUM)、吉本 淳(BAUM)
装画:國影志穂(BAUM)
編集:橋本安奈
木楽舎1600円(税別)
この本は売り方が変わっていて、最初は取次を介さず「注文してくれたお店には何冊でも配本する」という形をとりました。本屋さんに、面白がりながら売ってほしいと思って。本の業界って作る人も売る人もどこか疲弊しているから、せっかく本を出すなら関わる人が元気になるようにしたかったんです。そうしたら、50~60ほどのお店から平均30~40冊の注文が集まり、予約注文も1000冊近くにのぼり、嬉しいことに発売と同時に重版が決まりました。
予約注文はHPで募ったのですが、そのとき読者さんがたくさんコメントくださったんです。執筆しながらずっとそれを読んでいて、「〈自分が書きたいこと・望んでいること〉と〈皆が知りたいこと・社会が望んでいること〉が重なる部分こそが、ニッチなものがオーバーグラウンド化する瞬間なんだ」と気づいて、それをやろうと決めて仕上げていきました。
そもそもの発端は子ども向けのワークショップなのですが、発酵や微生物の世界って原理がすごく難しいので、そのまま話すと確実に子どもたちは寝る(笑)。で、この世界の面白さを誰にでも問答無用に伝えるにはどうしたらいいかをずっと考えていった結果、今の僕のスタイルになりました。アカデミズム的な常識からは色々かけはなれたやり方ではあるのですが……発酵の話は僕たちの暮らしに深く関わる重要なことなのに、普通の人が学ぶには現状ハードルが高すぎる。ここにブリッジをかけるのも大事な仕事ではないかな、と。
僕は「役に立つこと」をすごく大事に思ってるんです。そもそも微生物学も文化人類学も、切実な必要性のうえに確立されたもの。一般の人には難解だと思われている微生物学を役に立たせるには、編集的・デザイン的な視点が絶対に必要。僕はそこを目指していきたいです。
|| お話を訊いた人 ||
小倉ヒラクさん
1983年東京都生まれ。発酵デザイナー。全国の醸造家たちと商品開発を手掛ける一方で、絵本やアニメの制作、ワークショップなどを精力的に展開。『てまえみそのうた』は大ヒットを記録。7月より東京都美術館で開催される「BENTO おべんとう展」にも参加する。
取材・文/田中 裕 写真/首藤幹夫
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