(注意)映画『カメラを止めるな!』を観た感染者限定。 上田慎一郎監督&市橋浩治プロデューサー 13000文字越え!インタビュー

エンタメ

更新日:2018/8/8

<ネタバレ注意!>

 こんにちは。いつもは雑誌『レタスクラブ』の編集長をやっている松田紀子と申します。今回は媒体を越境し、この「ダ・ヴィンチニュース」で記事を書かせていただきます。

 先日、話題の映画『カメラを止めるな!』を観たんですが、あんまりにも笑えて泣けて、最後は「スタッフの仲間に入りたい!」と思いつめるほどまでになりまして、夜中の3時に突然ガバと起きてFB上で猛烈プッシュをしたり、ツイッターで「カメ止め!」のことばっかり調べたり、昼間思い出しては笑ったり泣いたりと、とにかく感情大忙しな衝撃体験をしてしまいまして。

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 周りの友人知人、編集メンバーにも、「とにかく観に行って!」と薦めまくっているうちに、同じような熱にうなされたファン(「感染者」と呼ばれています)の口コミ効果でどんどん拡大し、8月3日(金)から順次全国100館以上の劇場での感染拡大上映が決定しました。始まりは、たった2つの劇場(K’Sシネマ新宿、池袋シネマロサ)だったのに(感涙)!

 で、「こんな面白い映画を撮った監督(上田慎一郎氏)&プロデューサー(市橋浩治氏)に会わずにはいられない!」と、灼熱の中汗だくで、製作会社のENBUゼミナールに向かいましたよ。でも私がお二人に伺いたいことって、「すでに映画を観た人しかわからない細部」だったりするんですよ。ここが、この映画を語る上で難しいところでして。

 というのも、未見の人たちを邪魔しないよう、極力ネタバレをしないよう、細心の注意を払ってこの映画をお薦めするのがマナーなのですが、その結果、すでに感染したひとたちが知りたいあれこれを読める場が極端に少なくなっている気がしたのです。でも、観てしまった以上、あれもこれも知りたいし聞きたい!

 と、いうことで、この記事におきましては上田監督&市橋プロデューサーと相談して、「もうすでに映画を観ている感染者向け」に書かせていただくことになりました。

 前置きが大変長くなりましたが、この記事は、まずは『カメラを止めるな!』を観ていただき、その後に御覧くださいね。割とネタと絡んだ裏話になります。どうかどうか、ご注意ください。そしてもうすでに感染されている方、さあ、上田監督の世界観をご一緒しましょう!ポンっ!

カメラを向けるとゾンビポーズをとってくださる上田監督

●まず、反響に関してあれこれ聞いてみました。

――『カメラを止めるな!』は自主制作映画発として、想像を上回るヒットを更新しています。監督は、どのあたりから「これはイケる」という手応え、確信を感じられたのでしょうか?

上田監督:作品としての手応えは、2017年10月の試写会が最初です。この試写会は関係者ばかりなので、通常はあまり盛り上がることはないんです。でもこの作品は笑いが巻き起こり、最後には拍手もあった。で、試写が終わった後、4次会まで合計12時間の打ち上げが続いたんです。この湧き方は、今までの作品よりも一つ上のものができた! と思いました。

 その後、シネマプロジェクトとしてのイベント上映が始まり、6日中5日が満員だった。最後のほうは開場と同時にソールドアウトが続き、これはもしかして本当に面白いんじゃないか? という確信がもてました。

市橋プロデューサー:インディーズ映画は、そのジャンルが好きなひとが観に来るもの。今回も2000人は動員できそうだとは思っていましたが、その先の5000人とか1万人は越えられるかわからなかったんです。一般の人まで届かないとそこまでは動員できない。当初は監督もキャストもチラシを配って告知にあけくれていました。そのうち、水道橋博士が見てくださったりして…。イタリアで賞をとった後(ウディネ・ファーイースト映画祭2018 シルバーマルベリー観客賞2位)、5月の試写会は満席になりまして。また普通、インディーズ映画は新聞には取り上げられないんですが、この作品は全国紙でいくつも紹介された。それを見たときに、もしかして本当にこれはイケるのでは?と。

上田監督:インディーズでは異例の盛り上がりの中で一般公開に突入しました。お客さんの盛り上がりや拍手、上映後の感想がTwitterにどんどんあげられていく様子をみて、僕もキャストも作品の力をようやく確信しました。でも、作品として面白い、ということと、大ヒットするということは、また別に考えていたので…。正直ここまでヒットしてくれるとは想像できませんでしたね。

(結果、取材日の2018年7月25日まで、新宿K’s cinemaでは33日間連続満員御礼記録を樹立。※最終7/27まで35日間、77回連続満員御礼です。8/1時点で6万3千人を動員している。そして上映館は113館に拡大)

上田監督:そうそう、もう一つ、これはいけるんちゃう? と思ったのは、Twitter上に、「女子高生がトイレの中で『カメ止め!』の話をしていた。」とか「うどんを食べにいったら隣の男性が、連れの女性にめっちゃ『カメ止め!』を勧めていた」とか、「『カメ止め!』Tシャツ着て歩いていたら、通りすがりのひとに「その映画面白かったですか?」と聞かれた」とか、そういうつぶやきが上がってくるようになって。メディア以外の街中で、『カメ止め!』の話が展開していると知ったときに、「これはヤバい、本当にイケる」と思いました。

――先に観た人たちが、ネタバレは一切せずに、だけど絶対面白いから見てね、と勧めてくれるから、内容が気になってつい見たくなります。そして一度見ると、細部を確かめたくなって二度、三度と観てしまいます。

上田監督:よく、インタビュアーの方に「2回目以降も見たくなる仕掛けを作るとは、さすがですね、よく考えてますね」と言われるんですが、実は全く考えてなかったんですよ。

――ええっ? 考えてなかった?? それ、天才じゃないですか?

上田監督:2回行かせようとか、そうしたほうが興行上有利だとかについては、全く考えてなかったです(笑)

●企画の出発点について

――監督は、そもそもゾンビ映画を作ろうと思ったのか、こういう構造の映画(1回終わってまた始まる)を作ろうと思ったのでしょうか?

上田監督:後者です。1回終わってまた始まる構成のものを撮りたかった。5年前に見たPEACEという劇団(2014年解散)の舞台「GHOST IN THE BOX !」という作品の構造が、最初の1時間がB級サスペンスで、また幕が開いて舞台裏が始まるというものでした。 劇中劇と舞台裏の話。非常に面白かったので、これを映画化しようという話に一度なりまして、試行錯誤していたのですが諸事情で頓挫していたんです。

 そんな中、2016年の暮れに、企画コンペに何か出さないか? と言われ、当時のこの企画を引っ張り出して、基本的な構造以外の中身をみんな変えて新しい企画として書き直しました。ですが、結局その企画コンペは落ちて、その後、ENBUゼミナールのシネマプロジェクト参加のオファーが市橋Pから来ました。

市橋プロデューサー:過去の作品を観て、力のある監督だと思っていたのでオファーしました。シネマプロジェクトは、2人の監督が、オーディションで選ばれた役者24人を12人ずつ選んで、それぞれのワークショップを通じて映画製作する、というものです。

上田監督:24人中の12人を決めるときも、まだどの企画をやるかは考えてなかった。まずはその12人に会って、性格をみてみないとなんとも言えない。ワークショップを何度かやって、このメンバーなら、『カメラを止めるな!』が撮れるかもしれない、と思い撮ることを決めました。

●キャストはみんな「不器用な人」であることが基準だった

――この作品は、役者とキャストが一体化していて、身近にいそうな親近感で溢れています。どういったお考えで、この配役になったんでしょうか?

上田監督:まだ『カメ止め!』を撮ろうと決意する前から、「不器用なひとが一つの困難を乗り越えていく物語を描こう」と思っていました。ですから、選んだ12人の役者はみんな、そもそも不器用な人たちです(笑)。

 器用な人が不器用な人を演じたら、それはその「嘘くささ」がわかってしまう。不器用な人たちが実際の映画づくりに挑みながら、物語上でも困難を乗り越える姿を演じるので、この作品は物語でありながら、半分ドキュメンタリーな作品になっています。ライブ感、というか、虚実いりまじったものを作りたかった。

――そういうリアル感が、キャストの皆さんを素に戻し、「にじみ出てくる」演技になってファンを魅了したのでしょうねえ…(しみじみ)。キャスティングの決め手になった出来事はありますか?

上田監督:シネマプロジェクトの中で、12人のメンバーを2班に分けて、スタッフ側として映画を撮影してもらう、というワークショップをやったんです。その中で真魚(監督の娘 日暮真央)は助監督なのに、監督の濱津さん(監督 日暮隆之)より前に出て、カメラを見ている(笑)。濱津さんは良い方なんで、何も言わずにじっと後ろにいる。その姿をしゅはまさん(監督の妻 日暮晴美)が見かねて、真魚をたしなめたりする。そんな役者たちの「素の姿」を僕はじっと観察していました。

――それ、日暮家そのものの姿ですもんね(笑)

●撮影現場はひたすら「がんばる」!?

――37分ワンカットのゾンビ映画部分、撮影は大変だったと思いますが、実際の現場はどのような状況だったんでしょうか?

上田監督:最初の37分ワンカットは、劇中の役者が事故って現場に来られなかったり、クレーンが倒れてしまったり、思いもよらないトラブルがあれこれ起きて、日暮監督が撮りあげた作品です。実は「何もトラブルがなく、理想的に事が運んだ場合」のシナリオも最初に書いていました。でも実際は、そうはうまくいかない。また、リアルに37分ワンカットを撮っている僕たちにも、トラブルが起きている(カメラに血のりが付くなど)ので、「完成形のシナリオ」からは構造的にもう1回変わっている。劇中の日暮監督が置かれている状況は、まさしく自分が現場で置かれている状況でした。

 37分ワンカットという作品を、あんまり経験のない若手のキャストとスタッフで撮るのって、ただでさえ大変な状況です。低予算なので撮影日も限られている。どんなに懸命にやっても、撮影するうちにほつれやほころびが出てくる。なので、事前に、「これは予期せぬトラブルがおきるな」、ということをある程度計算して、全力でトライして、なんとか完成品として手が届くかな、という部分を見越した上で、撮影に挑みました。

――上田監督側とキャスト側の一心不乱さがないまぜになって、あのリアル感が生まれてるんですね。

上田監督:役者たちも、「映画のキャスト」として演じているのか、「個人」として参加しているのか、だんだんわからなくなる(笑)。

――シナリオは、リハや現場の状況でどんどん手直ししていったんですか? アドリブも効いているのかなと思って観ていましたが。

上田監督:いえ、そこまでアドリブが多いわけではないです。入念にリハをしていたので、リハと並行して、役者やスタッフとコミュニケーションをとりながら、撮影に入るまでに脚本を完成していった感じですね。リハ中に実際の撮影カメラマンがコケたんですが、それを本編の舞台裏撮影でも採用しました。カメラ助手の松浦早希役がコケています。

――何度観ても、よくあのワンカットに実際のスタッフが写り込まないもんだなと感心してしまいますが…

上田監督:まあそこは、映り込まないよう念入りな段取りを行いつつ、ひたすら「がんばる!」ということで乗り切りました。舞台裏の撮影の方は実際のスタッフが写り込んでいる場合もありますよ。クレーンを持っている人や、撮影機材を運んでいる人は本当のスタッフです。でもまあ、みんな同じTシャツを着ているから、紛れてわからないですよね(笑)。

――上田監督の無謀とも言える作品作りの姿勢に対して、プロデューサーの市橋さんはどのような考えで見守っていたのでしょうか?

市橋プロデューサー:基本、信じておまかせしていました。僕が一つだけ注文つけたのは、スプレーを使った火炎放射器をやりたい、と言った監督に、それは危ないから止めとこうか、事故になったら困るし、と言ったくらいかな。

――火炎放射器シーン、確かに危ないだろうけど、観たかったです。メイク役の晴美がぶっ放す設定だったのでしょうか(笑)

●上田監督作品の一体感は、どこからくるの?

――映画内のスタッフ・キャストの頑張りと、実際のスタッフ・キャストの頑張りがイコールに感じられたのも、観る人が強く共感する理由の一つだったと思います。現場での一体感を出すための具体的な方法がなにかあったのでしょうか?

上田監督:う~ん、僕はあんまりわからないですねえ。意識してないから。外から見ていた市橋さんのほうがわかるのでは?

市橋プロデューサー:12人の役者全員にそれぞれの見せ場をつくるのは実は難しいんですが、この作品は全員に見せ場があるので、役者もやる気になるんですよ。その段階ですでに一体感がありましたね。

上田監督:これは自分で言うのもはばかられるんですが、僕はわりとマメなほう。役者ひとりひとりに対して、結構気にかけます。誰だって、雑に扱われていると思うと心が砕けるものだと思うから。役者があまり納得してないときは、大体表情でわかるんですね。それに気がついたら、すぐそのわだかまりを聞いて、解消するようにはするかなあ…。じゃないと前に進んで行けないですよね。

 また、この作品に限らず、みんなで何かを一緒に作っている一体感というのはいつもありますね。

●学生時代の作品の作り方をそのまんま踏襲した「カメ止め!」

上田監督:僕は高校生の時に、文化祭で映画を毎年撮っていたんです。クラスのやつらでキャスティングを決めるから、もう事前に性格はわかってる。誰がどの役がいいか、迷わないわけです。で、役に対して当て書きをして、全員にそれぞれ見せ場作って…という流れで撮っていたんですが、そのスタイルを踏襲したのが今回の作品です。

――監督の原点である学生時代の手法を再現したら、観客がこんなにまで感動した、というわけですね!…いい話だ~。

上田監督:いえいえ、そんな大げさな。僕は中学生の頃から自主映画を撮っていたんです。上映する予定はないんですが、でも、映画が好きだし楽しいから撮ることになんの理由もいらなかった。それが、大人になるにつれて、どうしても結果を目指してしまうようになる。偉い人に褒められないといけない、とか、映画賞に入選しないと、とか、明るいエンタメより高尚な社会派を撮ったほうが評価は高いんじゃないか?とか。そういった背伸び、右往左往をしていたところが正直ありました。でも、今回のこの『カメラを止めるな!』に関しては、なんの目的ももたず、ただ映画づくりを楽しもう、自分の好きなことをただつめこうもうという気持ちで作りました。気持ちは中学生時代に戻しつつ、技術、演出はそれまでの経験で磨き上げられたものがありますから、なんとか撮れたんじゃないかと。

――監督のきらきらした作品作りへの情熱がシンプルな形で集結されたんですね!この作品は、観終わった後、共感と親近感が爆発して、知らない間に全力で応援している自分がいるんです…。そういった現象が起きることは、上田監督のなかで狙いがあったんでしょうか?

上田監督:それ、よく聞かれるんですよ。上田さん、さすが観客に対してサービス精神満点で、よく考えてますね、って。でも、観客のことはなにも考えてなかったんです。

――なんにも。それって天才ですよね?(二度目)

上田監督:いえ、もちろん、自分の面白いと思うことをひたすら追求すれば、観客も喜んでくれるとは思っていました。伏線は何個張ればいいか、とか、どこまで説明すれば観客に伝わるか、は常に考えていたから、そういう意味では観客のことを考えてるのかな…?

市橋プロデューサー:考えてないようで、いつもすごく考えてるよね。

上田監督:もともと自分の資質として、エンタメをつくりたい! ということは身に染み付いているから、観客を喜ばせることは考えていたけど、「楽しませるツボをわかってますよね!」といわれると、やや疑問なんですよ。よく、映画づくりの中では観客が求めていることをマーケティングして、「観客はこれを求めているから、こうしよう」という流れがあるんですが、これって観客のことを考えているようで、実は自分たちの儲けを考えているんじゃないか? と感じる時がある。観客が今これを求めている、と決めつけることは危険だな、と。それより、今、自分が最高だと思うものを信じてやるしかない。その側面からすると、観客のことを考えている、と言えますかね。

●ピンチを楽しめ!かき混ぜてくれる存在は、大事!

――…自分が信じるものをやる、という姿勢を貫くのは、並大抵なことではないですよね…。監督は、自信をなくしたり、凹んだときにはどうされているんですか?

上田監督:う~ん、凹んだことはあまりないですね(笑)。僕、20代前半はホームレス、借金まみれだったんです。友人もみんないなくなっちゃうような。ホームレスまでやっていれば、ある程度のことがおこっても動じないと言いますか…。それより下がなかなかない(笑)。最悪、そこまでいったとしても、またやり直せばいいと思えば、なんでもできます。まあ、楽観主義ですね。それも、現場の一体感に関係していると思います。

 例えば、現場で、あと2時間しかなくて雨降ってきて、やばい! 撮りきれない! ってときがあるじゃないですか。そうなると逆にナチュラルハイになって、めっちゃテンション上がる。「OK、大丈夫、あと2時間ね、上等や!」と思ってやっていれば、現場もみんなついてきてくれるんです。不思議と。

――よくわかります。そういうときこそピンチを楽しむ、という姿勢が大事ですよね。

上田監督:そういう意味では、高圧的だったりネガティブな人は、まずスタッフィングしませんね。ピンチのときに急にネガティブな発言をしだすと、現場が盛り下がってしまいますから。

――上田監督が、撮影現場で他に「絶対譲れなかった部分」があるとしたら、どういったことでしょうか?

上田監督:それ、はじめて聞かれましたねえ。パッとは出ないなあ…。この映画は自由に撮らせていただきましたが、別の作品で撮ったときに、出資者の方に無茶苦茶なリクエストをもらうことがあるんですよね。でも僕は、無茶を言われても、拒むタイプの監督ではないかなあ。というのも、自分の譲れない部分だけでやると、逆に限界があるんですよね。それより、ときにはそういう無茶で、自分をかき混ぜてくれるほうが映画って面白くなってくれるときがあるんです。なので、無茶もある程度受け入れてやってみる。

 また、今回の映画を撮るために行ったクラウドファンディングの募集メッセージでも書いたことですが、映画って、先にテーマやメッセージを決めろ、とよく映画の学校や本などで言われているんですが、そのテーマやメッセージを伝えるために映画が利用されている事が多い。僕は、そうではなくて、まず面白さがど真ん中にある映画をつくりたい。日本映画は「泣き」が多いけど、湿っぽくはしたくなかった。ひたすら愉快で痛快なエンタメを撮ろうと思っていました。そこは譲らなかったところですかね…。

 そうそう、湿っぽくしたくなかったんですが、この映画を見て泣いた、って人が続出しているのが意外で驚きなんですよ。

――監督は、観客を泣かせるつもりはなかったんですよね?(念押し)

上田監督:正直あんまりなかったです。

――私もまさか泣くとは。自分でも何で泣いているかわからないのに、涙腺が崩壊してしまうんです。

上田監督:みなさん、「謎の涙」と言われていますね。

――おそらく、現場で七転八倒している姿を目の当たりにして、自分の仕事や人生と重なってきてしまうんです。画面には写ってないとこで頑張っている人々の姿を想像すると、もう涙が止まらない。爆笑しながら号泣する、という新しい体験でした。ものづくりを経験されている人の絶賛が多いのは、そういうことかな、と。

上田監督:最初は映像関係者以外にこの話が伝わるのか?という懸念はあったんです。でも、そういうお仕事じゃなくても、日暮監督が上からの命令を「わっかりました」と、飲み込んでいる姿に社会人の方は共感するし、誰だって学生時代、文化祭でひとつのものづくりをした経験もあるし、それを思い出させる。そういう意味では、観る人を選ばない、普遍的な話になったのかな、と思います。

●描かれていない「お茶の間」

――後半の30分は私もキャストと一緒になって、廃墟を駆け回っているようでした。観客席も映画の中に取り込んで、スタッフの一員として共有体験している感覚になりますが、これも監督の狙いではない?(もう慣れた)

上田監督:いえ、これは考えていました(笑)。また、舞台裏と、その生放送を観ているテレビ局側の視点は描いていますが、実際にゾンビチャンネルのワンカット作品を観ているお茶の間の視聴者を描いていません。普通だったらそこを描いて、「視聴者も満足した」みたいな表現がベターだし、最初はお茶の間視点も脚本に入っていました。だけど、結局、ああ、これは観客自体がお茶の間の視聴者だと気がついて、視聴者視点は外しました。

 最初の37分ワンカットゾンビ作品ですが、日本人観客の8割位は「なんだ、この映画、微妙だな?」「口コミすごかったけど騙されたかな?」と思いながら観ているんです。で、1割の人はワンカット作品に関してもまあまあの評価をしている。で、残り1割の人たちは本気で「このワンカットのゾンビ作品、最高じゃん!」と喜んでくれている。そう考えると、8割の人には評価されなかったかもしれないけど、1割の人には最高だと言ってもらえる程度の作品を、アイツラ(日暮監督たち)は頑張って撮ったんだ、と言えます。死に物ぐるいでやって、1割の人は最高だと思ってくれた。「1割の人たちのために、俺達は諦めきれない」、という日暮監督達の姿が描けた。それは絶妙な塩梅だったと思います。

――(聞きながら涙目)確かに…そうですね。他にもこの作品は、最初に感じた違和感が実は全部伏線で、それがもれなく拾われることが、とてつもないカタルシスでした。

上田監督:伏線と回収がうまいですね、と言っていただくことが多いですが、伏線を回収するのは難しくない。まず回収を決めてから、伏線を考えますから。難しいのは、伏線を張った痕跡を消すことですかね。

――と、いいますと?

上田監督:例えば物語の進行上、ここで誰かにお腹を壊してほしい、と考えたとき、お腹を壊すにはどうしたらいいのか?を考えればいい。でも、例えば水にこだわる姿を、腰痛カメラマンにやらせると、観客はなんとなくこれは伏線かな?と気がついてしまいます。めんどうくさいキャラ設定の山越(胃腸虚弱俳優)に水へのこだわりを言及させれば、伏線がうまくキャラクターに溶け込んで、キャラ描写になり、痕跡を消せます。物語がキャラクターを動かすのではなく、キャラクターが物語を動かしていくほうがいいんです。

――伏線の回収をもう一度チェックしたくて、みなさん2回は観に行きますよね。

上田監督:それ、劇場に足を運ぶことを「テイク」って言うんです(笑)。すごい人はもう20テイクしてる。こうなると、もうスタッフ側の立場になって、周りの観客の反応を見に行ってくれている(笑)。

 この作品は、ネタバレはNGだけど、リピートしたくなる、という矛盾した構造。それが叶っているのは「予期せぬトラブルを描いているライブ感」と、「劇場が笑いに包まれ、他の観客と一体になる体験」のおかげなのかなと。アトラクション的な喜びをみんな求めてくれている。

市橋プロデューサー:最初に小さい劇場で上映したのも結果的によかったですね。満員のお客さんと一体感を感じ、アトラクションを共有する、という劇場体験がよかった。そのまんまの構造で、シネコンの大きな劇場に、まだ劇場数も少なかったので満員のまま移行していけたのはよかったですね。観たいけど、満員で観られない!という飢餓感をあおってから上映を拡大したのは、みなさんに「狙いましたね」と言われましたけど、全くそんなこと計算していません。上映館を拡大するのは本当に大変なことなんですよ。

――飢餓感で言えば、Tシャツの飢餓感すごいですよね。私もずっと探していますが、手に入りませんもん。ファン心理としては、素晴らしい作品に出会ったとき、何かしら「課金したい」と思うものなんです。そういう意味では課金できる場がもっとほしいのですが、Tシャツやパンフ、ポスター以外にグッズもないですよね。

上田監督:ああ、それ言われたことあります。映画代の1800円は安すぎるから、パンフやポスター買って応援するって。パンフの購入率も4割で、これは驚異的だと言われています。普通2割くらい。

市橋プロデューサー:Tシャツは製造中なのですが、工場が小さくてなかなか納品が追いつかない。冗談抜きでユニクロやってくれないですかねえ?

●感染者が拡大していくのはどうしてか?

上田監督:これ、逆に聞きたかったのですが、なぜ、観た人は別の人に勧めたいと思ってくれるんですか?

――自分と作品が一体化してしまうんです。仕事の現場でなんとか工夫しながら、もがいているのは自分もいっしょ。その中でいいものを作ろうと、日暮監督たちが必死に奮闘する姿が刺さってしまって。作中のキャストの様子が、自分の物語にいつのまにか変わっていく。この作品は「共感」も「愛着」もあるんですが、それを飛び越えて「衝撃」になってしまって、この衝撃をみんなと共有したい。だからみんなに強烈なオーガニックリーチをしてしまいます。

上田監督:僕の意図を超えた感想をもらう事が多いんです。この作品は、「ひとつの夢破れた男がもう一度復活するという、後半もゾンビ映画だ。」と言っている人もいる。また、エンドロールまでカウントすると、2回死んで3回復活する構造なので、構造自体がゾンビ映画だ!という映画評もありました。そういう感想をいただくと、ほうほう、そういう見方は意図してなかったな、と思うんですが、これ、意図しなかったからよかったんだろうなって。意識してそういうふうに作っちゃうと、「ドヤ感」がすごい作品になっちゃったと思う。

●最初、キャストのアカウントは死んでいた。

――この作品は、キャストの方々によるSNSによる発信も盛んですよね。でも先日の舞台挨拶で監督は「キャストはみんなTwitterアカウントを持ってなかった」とおっしゃってました。映画宣伝のために各自開設されたんですよね。

上田監督:僕は割と以前から、SNSは使って告知していましたね。どうやったら伝わるのか?ということを感覚的に捉えていて、一つの文章でも磨きをかけたいと思っているんです。

 キャストは最初、アカウントを持っている人自体が少なかった。持っていても、死んでいる人が多かったんです。この映画をきっかけに、役者として自分を発信していくということも含めて、みんなが成長してくれていっていると思います。

――もう今は、キャストの方全員、アカウントもってらっしゃるんですか?

市橋プロデューサー:スキンヘッドの山﨑くん(胃腸虚弱俳優)だけは持ってません。Twitterのアカウントは持たず、LINEグループにも彼だけ入っていない。まあ、あの役そのものですね(笑)

●上田監督おすすめの鑑賞法とは?

――複数回観る人のために、監督オススメの楽しみ方、見どころを教えてください。

上田監督:まあ最初は、普通に楽しんでいただくとして。パンフレットは買っていただくけど、読まない。で、2テイクめは、前半のジャンルがホラーからコメディに変わるので、映画そのものの見方が変わり、違う視点で楽しめるかな、と。細かい伏線を張っているので、ここで気づく仕掛けもあります。2テイクめ終わったところでパンフを読むと、本当のトラブルがどれだったかよく分かり、ニヤニヤできます。3テイクめは、パンフを読んで舞台裏の舞台裏も込みで観れるのでまた違った味わいの感動があるかなと。で、4テイクめ以降はもう、気持ちはスタッフ入りして、他の観客の方々の反応含め、楽しんでほしいです。

――このヒットで、大手制作会社から、キャストをメジャーに入れ替えて撮りたい、というオファーがきそうな気がします。それに関して、どうお考えですか?(ドキドキドキ)

上田監督:僕の考えでは、日本のメジャーなキャストで撮ってもいいことはないと思う。低予算で無名の俳優たちだからこそ成功している映画かな、と。みんな知らないキャストだからこそ誰がどうなるかという展開も読めないし。知らない人が演じることで、逆に身近に感じられることも大事なポイントですしね。まあ、ここまで本作がヒットしてくれたら、出演者をメジャーにして撮り直すメリットもなくなっているのではと思います。…海外とかでリメイクされるっていうのはあり得るのかな。

 あと、スピンオフを作ってほしいという要望はありました。各キャストに、オファーがくるまでを描くのは面白いかも。

――それ観たいです(絶叫)!その後のキャストを描くのはありですか? 続編はいかがですか?(興奮)

上田監督:それは内緒です…。

――そうですか…。では監督の次回作を教えてください。みなさんものすごく期待されています。

上田監督ええ~、まだそこはあんまり考えないでほしいな~(笑)。現在、走らせている企画もあるので、ぜひお待ちください、としか…。でも、コメディでのエンタテインメントを作っていきたいという思いは変わりません。今までは「ものづくりに携わるひと」の話が中心でしたけど、自分をかき混ぜてくれるものをぶつけたらどうなるだろう?という思いもある。そういう意味では原作ものもないわけではないかなと思っています。

●ガタガタでもいい。カメラを回せ!

――首を長くしてお待ちしています! また、映画製作者を志す若者たちへひとことお願いできませんか?

上田監督:若者から最近よく相談を受けるんですが、映画を作りたいけど何からすればいいのかわからない。と聞く子が多い。機材は何を使ってる?編集のマシンは何を?絵コンテを書くべき? とか、とにかく細かいことを聞いてきます。でも、答えは、「まずは撮れ」。トライアンドエラーを重ねて、撮るという感覚を知ることが大事。一発目から成功しようと思わないでいい。とりあえずガタガタでもいいから、カメラを回せ、まずは飛び込めや!と。20代だったら失敗を集めるくらいの気持ちでいったほうが30代で返ってくるものが多いと思う。失敗してもネタだと思えば、全く辛くない。そこは『燃えよドラゴン』のブルース・リーのセリフ「考えるな 感じろ」です。

 あとはインプットでしょうか。塩田明彦監督が書かれた『映画術 その演出はなぜ心をつかむのか』の中で、「作り手は無意識を強化するべきだ」というような言葉があったんです。大量のインプット(映画、本、人との出会い)をして、無意識を強化すれば、『カメ止め!』のセリフでもあるけど「自分で出すんじゃなくて勝手に出てくる」ようになる。浴びるようにインプットすれば作りたい気持ちが溢れ出てくる。僕は思春期のころ、学校出席日数ギリで、ずっと家でゲームしたり映画観たりしていたんですよ。その膨大なインプットが「無意識の強化」になっていたんじゃないかと、今振り返るとそう思います。

――ありがとうございます。最後に監督の好きなゾンビ映画とゾンビじゃない映画を教えてください。

上田監督:ゾンビ映画はやはり『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』ですね。『カメ止め!』の作品ロゴもオマージュです。この作品は強度がすごく高い。ソンビじゃない作品は、好きなのがありすぎて…う~~ん、1本に絞るのはキツイですね。でも強いてあげるなら『マグノリア』かなあ…。僕のオールタイム・ベスト10はこれです。写真に撮りますか?

興奮。監督のオールタイムベスト
監督の次点作品。これも興奮

――おお~、『パルプフィクション』!『ゴッドファーザー』!『12人の怒れる男』! 次点では『バック・トゥ・ザ・フューチャー』も!

上田監督:『カメ止め!』のラスト、ゾンビの首が滑って落ちて、間に合うかどうか?という緊迫のシーンは、BTTFのラスト、時計台前で「コンセントがつながるかどうか?」というシーンをイメージしながら書きました(笑)。

――お忙しい中こんなにお時間頂戴して、本当にありがとうございました!!!

…ということで、ネタバレもありつつのインタビュー、いかがでしたでしょうか? 勢い余って1万3000文字越えてしまいました。この原稿を書いている間にもどんどん、上映館は広がり、テレビで紹介され、感染者は増える一方。私もテイクを重ねながら、感染者増殖に尽力したいと思います。では、長文・乱文、失礼いたしました! ポンっ!

最後に監督とゾンビポースをご一緒させていただきました。よく見たらスカートのベルトが解けている…でもそんなの気が付かないほどインタビューに熱中していました(笑)

上田慎一郎 監督・脚本・編集
1984年生まれ、滋賀県出身。中学生の頃から自主映画を制作し、高校卒業後も独学で映画を学ぶ。2010年、映画製作団体PANPOKOPINAを結成。長編映画『お米とおっぱい。』(2011)、短編映画『恋する小説家』(2011)、『ハートにコブラツイスト』(2013)、『彼女の告白ランキング』『Last Wedding Dress』(ともに2014)、『テイク8』(2015)、『ナポリタン』(2016)と、これまでに8本の映画を監督。国内外の映画祭で20のグランプリを含む46冠を獲得した。2015年、オムニバス映画『4/猫―ねこぶんのよん-』の1編『猫まんま』で商業デビューを果たす。妻であるふくだみゆき監督作『こんぷれっくす×コンプレックス』(2015)、『耳かきランデブー』(2017)などではプロデューサーを務めた。「100年後に観てもおもしろい映画」をスローガンに娯楽性の高いエンターテイメント作品を作り続けている。本作が劇場用長編デビュー作となる。

市橋浩治 プロデューサー
1964年生まれ、福井県出身。リクルートでの広告営業を経て、2002年よりENBUゼミナールの運営に関わる。2009年にENBUゼミナールのための会社を自ら設立し代表に。
制作会社として参加したndjc2009『アンダーウエア・アフェア』(岨手由貴子監督)が初プロデュース作。2011年よりシネマプロジェクトを立ち上げ、『あの女はやめとけ』『オチキ』『サッドティー』『うるう年の女』『なけもしないくせに』『退屈な日々にさようならを』などを話題作をプロデュースする一方、若手監督や俳優を発掘。2018年シネマプロジェクト第8弾として、柴田啓佑監督と二ノ宮隆太郎監督を迎えた。