悩みはマジックと同じ“思い込み”が原因! 誰にも言えない悩みを自分ひとりで解決する方法

暮らし

2018/9/14

 慶應義塾大学医学部卒の医師であり、プロのマジシャンとしても活動する志村祥瑚さん。朝の情報番組『スッキリ』で紹介されるなど注目を集めている彼が、アメリカの医療の現場で実際に使われている治療法・ACT(アクト)の考え方をもとに、『悩みにふりまわされてしんどいあなたへ 幸せになるためのいちばんやさしいメンタルトレーニング』(志村祥瑚、石井遼介/セブン&アイ出版)をまとめた。(志村祥瑚公式サイト:https://shogoshimura.com/

 悩みを抱えている人が、自分の力で自分を救うための考え方やエクササイズをわかりやすく解説した本書。「僕にも、悩みに振りまわされてしんどい時期があったんです」と語る志村さんに、お話をうかがった。

■これまでの経験から見出した、「すべては思い込み次第」という発想

──志村さんは、どのようにしてACTという治療法と出会ったのでしょうか。

志村祥瑚さん(以下、志村): 僕は、小さいころからマジックをやっていたんです。父がマジックをやっていて、僕に見せてくれたのがきっかけで。ちょうど「ハリー・ポッター」シリーズが流行っていた時期だったこともあり、「僕も魔法が使えるんだ!」と練習をはじめたのですが、もちろん、本当にハリー・ポッターみたいな力が使えるようになるはずもなく……(笑)。マジックには、必ずタネが必要です。マジシャンの後ろから見ると、しかけが丸わかりになっている。それなのに、マジシャンの正面で見ている人たちは、あたかも不思議なことが起こっているように思い込むんです。どうしてそんなことが起こるんだろうと、マジックのとりこになってしまいました。

──幼いころから、人の心の在りように興味を持たれていたんですね。

志村: そうですね。物事って、どちらの面を見ているかでまるで見え方が違ってしまうということに、おもしろさを感じていました。自分に見えているものがすべてじゃないと、理解したつもりでいたんです。

 ところが、実家がクリニックを営んでいた影響で医学部に進むと、葛藤が生じました。僕はマジシャンになりたいのに、両親は医者になってほしいと期待している。自分自身も、いい成績を収めて、いい大学に行って、医者になることこそがいい人生なのだと思っていました。やりたいことと、自分の今いる環境が違っている──悩みますよね。自分はどうしてこんなに悩んでいるんだろう、こうなったことには原因があるはずだと考えるうちに、自分の人生にはレールが敷かれているという発想も、思い込みにすぎないと気がついたんです。

──マジックと同じですね!

志村: そうなんですよ。僕のなりたかったマジシャンは、人の思い込みをコントロールするプロです。今後医師として思い込みをうまく扱うことができれば、マジックでお客さんを楽しませるように、人をいい方向に導くことができるかもしれない。そう気づいたとたん、嘘みたいに勉強が楽しくなりました。この「自分の人生に意味が通った」という気がしたのも、けっきょくは自分の思い込みです。どんなふうに思い込むか次第なんですね。

 医学部で学ぶあいだには、そういった思い込みが原因で病気になってしまった人にも多く出会いました。病気になるところまではいかなくても、悩んでいる人は大勢います。たとえば、誰も自分のことを必要としていないんじゃないかと落ち込んだり、怠けているあの人が評価されて、どうして私が認められないのと考えたり。マジックと同じですよね、一度思い込むと、そう見えてしまうんです。人はどうしてそんなふうに思い込むのか、どうしたらその思い込みを解くことができるのかということに興味を持って、医学の中でも思い込みを扱う分野、精神医学の研究をするようになりました。

■エクササイズは、ひとりでできるカウンセリング

──この本には、自分で悩みを解決できるようになるためのエクササイズが紹介されています。志村さんも、このエクササイズを使って悩みを解決することはあるのですか。

志村: よくありますね。悩みを解決するうえで一番大切なのは、気づくことなんです。たとえば、こうしてインタビューをしているうちにも、まばたきをする感覚とか、足が床に接している感覚、肌に服が触れている感覚……本当はいろいろな感覚があるはずなんですが、人間って、自分が考えていることのほうに注意を向けてしまうので、発生しているはずの感覚を無視しちゃうんですよね。

 同じように、仕事をしたり、飲み会に参加したりしているときも、この仕事をやらなきゃ、楽しまなきゃといった思い込みで、自分の感覚や感情を消してしまっていることがあるんですよ。自分の本当の気持ちに気がついていなければ、マジックと同じように、思い込んだとおりに騙されて、仕事はやらなきゃいけないもの、飲み会は楽しまなきゃいけないものになってしまう。

 僕も悩まない人間ではないし、誰でも悩むことはあります。この本は、ドリル形式のエクササイズをメインに構成されていますが、悩んだときは、このエクササイズをやってみてください。自分で書き込んでいくと、なにに悩んでいるのかすらもわからないという状態から、抱えている悩みが整理され、言語化されて、「これに悩んでたんだ」という気づきを得ることができます。

──私もやってみたのですが、実際に書き込んでいくだけで、こんなに効果があるなんてと驚きました。

志村: 読むだけでなく、ぜひ手を動かしてみていただきたいですね。頭の中でやってみて終わりだと、どうしても効果が薄くなってしまうので。けっこう分量がありますが、1時間くらい、がっつりカフェにでもこもってもらって(笑)。

 エクササイズは、ACTの手順に従って、カウンセラーがいなくてもわかりやすく進められるように作られたものです。カウンセリングを、すべて自分ひとりでできるようにしたということですね。悩みの原体験となっているシーンを、自分の視点、相手の視点、そのシーンを映画にしようとしている映画監督の視点から見てみようといった、自分を客観的に見られるようになるためのトレーニングが自然にできるようになっています。

──悩んでいることって、人には言いにくいですよね。それを、ひとりで本と向かい合っているうちに解決できるところが素晴らしいなと思いました。

志村: まさに、そこがポイントなんです。恋人とケンカをしてもカウンセリングに行くような欧米と違って、日本や韓国などのアジア圏には、悩むことは恥ずかしいことだという文化があるんですよね。誰かに相談したいけれど、恥ずかしいから相談できない。恥ずかしいことはイヤだから、相談しない──そうなると、イヤなことにぶつかったとき、ツラい現実を受け止めることから逃げてしまい、問題がいつまでたっても解消されない“ゆううつループ”に入ってしまうんです。日本人に向けた本だからこそ、悩みを抱えている人が、自分ひとりで悩みを解決できるという形に意義があるのではないかなと思います。

■悩みは自分で解決できる。人生は、自分の力で変えられる!

──本書で紹介されている以外にも、イヤなこととつきあうための、すぐにできて簡単なエクササイズはありますか?

志村: 思考の擬人化はどうでしょう? たとえば、職場で舌打ちしたいような気分になったら、「イライラ君が出てきたな」と自分の感情に名前をつけて擬人化します。LINEのメッセージが既読無視されていて不安になったら、「寂しがり屋ちゃんがいるな」といった具合ですね。そうすると、自分の感情から距離を取ることができ、擬人化を続けるうちに、自分の感情にはパターンがあることに気づきます。なにに悩んでいるのかわからなくてツラい、工夫の余地がないという最初の状態から、自分の中に「イライラ君」という感情があることに気づき、「どんなときにイライラ君が出てくるんだろう」と客観的に考えられるようになります。そうすると、イライラ君が出てくる状況を避けるなど、自分なりの対策が打てるようにもなるんです。

 生涯で、6人に1人はうつになると言われている時代。思い込みを解くことができれば、もっと自分のやりたいように生きられるようになり、メンタルの疾患も減ると思います。気づきがあれば、選ぶことができる、変えることができる。人生は、自分の力で、どんどんよくしていくことができるんです。

取材・文=三田ゆき 撮影=内海裕之