心のコップからあふれた“好き”という気持ち──『やがて君になる』仲谷鳰インタビュー

アニメ・マンガ

2018/10/19

『やがて君になる』AT-X、TOKYO MXほかにて放送中 (C)2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会

 小糸侑と七海燈子、二人の女子高生の心の機微を、その危うく揺れる関係性を丁寧に描いた百合マンガ『やがて君になる』。最新刊6巻が読者に波紋を広げるなか、10月5日からはTVアニメもスタートし、さらなる注目を集めている。原作者の仲谷鳰さんが語るマンガとアニメそれぞれの制作秘話とは? 気になる今後の見どころとは? なお、コミックス6巻のネタバレも含まれるのでご注意を!

人間は変われる。でもそうすぐには変われない

──あらためて『やがて君になる』(以下『やが君』)が誕生した経緯についてお聞かせください。

仲谷鳰さん(以下、仲谷):私はもともと同人誌でマンガを描いていたのですが、その頃から女の子同士の関係性を描くことが多かったんです。自分では百合をそこまで意識していたわけではありませんでしたが、周囲は「百合マンガ」だと言われることが多くて。そこで、一度「どこからどう見ても百合」というマンガをオリジナルで描いてみようと思いました。ちょうどその時、『電撃大王』の現担当から「百合マンガを連載しないか」と誘っていただいたので、企画を詰めていきました。

──『やが君』と言えば、“好き”という感情がわからない侑と他人の“好き”を受け容れられない燈子の関係性が大きな魅力です。この一風変わった関係性は、どのようにして生まれたのでしょう。

仲谷:私は、スタートとゴールがはっきりしている話を描きたいほうなんです。解決すべき問題があり、二人がそれを乗り越えて成長していく話を描きたい。そのためにも、ストーリー全体を貫く問題、課題を設定しなければと思っていました。とはいえ、百合マンガだからといって女の子同士であることを障壁にはしたくなかったんです。今の現実がどうであれ、そもそも女の子同士の恋愛が困難であってほしくはないので、二人の物語の中心をそこに置きたくなかった。なので、個人に帰属する問題としてあの二人の設定が生まれました。

──仲谷さんにとって、侑と燈子はどのような存在ですか?

仲谷:はじめに燈子が誕生し、そのパートナーとして侑が生まれました。私は面倒くさい女の子が好きなんです。自分には手に負えないけれどもかわいいという女の子を描きたくて、燈子をヒロインにしました。侑は、私には手に負えない子を助けてくれるヒーロー的なイメージです。とはいえ、誕生したキャラクターはひとりの人間だと思うので、あくまでも「最初はそうだった」という話ですが。

──そんな二人が、問題解決というゴールに向かって進んでいくわけですね。繊細な感情を描きつつも、お話をうかがっていると理詰めでストーリーを考えているように思います。

仲谷:そうですね。ですが、ストーリーに沿ってキャラクターに動いてもらうようにしつつも、「このセリフは言わせられないな」「まだここまでの行動には出られないな」ということもあるんです。私が物語としてやりたいことと、キャラクターが今の時点でやりそうなことのバランスを考えながら描いています。レールを敷きつつも、時には迂回しながら「ここに行ってもらうにはどうすればいいか」と理詰めで考えている……という感じでしょうか。

──5巻からは生徒会劇が始まり、侑と燈子の心にも変化が生じますよね。ここまで積み重ねたものを感じます。

仲谷:生徒会劇は、大きな中間目標だったので「やっとここまで来てくれたか」という思いです。燈子にこう変化してほしいと思っても、「まだ行けないな」「まだだな」という感じだったので。少しずつ積み重ねてきて、ようやく「ここまで来たら行けるだろう」というところまで来ました。この物語を通じて、「人間は変われる」ということを描きたいのですが、「人間そんなにすぐには変われないよね」という気持ちもあって。急に変えてしまうと作品全体に対する信頼も失われてしまうので、バランスを考えながら描いていました。だからこそ「やっと来た」という気持ちが大きかったですね。

──燈子の気持ちを宿らせて描いているのでしょうか。

仲谷:燈子の思考を追うのは、私にも難しいんです。感情的に動く人間ですが、頑固なところがありますから。「宿らせる」というよりは、「こういう時燈子だったらどう考えるだろう」と探り探り描いていきました。

──燈子だけでなく、侑の心も変わっていきます。彼女の変化についてはいかがでしょう。

仲谷:5巻ラストの屋上での侑のセリフは、「やっと言わせることができた」という感じでした。2巻にも似たようなシーンがありますが、あの時に比べると侑も変化しています。2巻では「そのままの先輩――飾らない本当の自分でいい」と言いますが、燈子に拒否されますよね。一方、5巻で説得する時には、「お姉さんみたいになりたいと思うならそれでもいい。そのままの先輩でもいい。全部含めて先輩だ」という言い方をしています。個人的な意見ですが、「本当の自分」という考え方が私はあまり好きではありません。理想に近づこうと頑張っていることまで、否定したくないんです。だからこそ、姉になろうとする燈子も本来の燈子もどちらも肯定するセリフを侑が言えるようになったことに対し、「やっとたどりつけた」という達成感がありました。

──そして迎える6巻では、終盤に衝撃の展開が待っています。

仲谷:34話は気合を込めました。みなさんが待っていたところであり、恐れていたところでもあると思います。侑が「好きです」と告白する時に顔を覆うのですが、そこに反応があったのはうれしかったですね。

──どういう意図があったのでしょう。

仲谷:「ここで終わりではない」という感じを出したかったので。顔を見て、目を合わせて「好きです」と言ってしまうと、言うべきことを出し切った感じになります。まだ出し切れていない、通じ切れていないという雰囲気を出すために、顔を覆うことにしました。

──これまで侑は、燈子に「好き」と言われても余裕の表情で受け流していましたよね。顔を覆うことで、彼女のこぼれる感情を表現しているようにも見えます。

仲谷:「押さえなきゃいけない」とわかっているのに、こぼれてしまったんですね。これまでも、表に出さないだけで侑は思いをずっと溜めていました。中学時代の友人から「侑は器が大きい」と言われますが、その器にずっと「好き」という気持ちを溜めていたんです。でも、さすがにもうキャパシティが限界でこぼれてしまった……というイメージ。それもあって、コミックス6巻のおまけカットにも、水があふれてこぼれているコップを描きました。そういう細かいところも含めて読者の方々が読みとってくださるので、こちらも「ちゃんと細かいところまで描こう」という気持ちになります。本当にありがたいです。

──今後の展開について、お答えいただける範囲で聞かせていただけますか?

仲谷:7巻では、修学旅行が始まります。ということは、あの人が動くかも……? 私も侑と燈子に幸せになってほしいと思いながら描いているので、今はつらいところかもしれませんがついてきていただけたらうれしいです。

──全体としては、どれぐらいのところまで来ているのでしょう。

仲谷:8割ぐらいでしょうか。決めていたゴールに向けて、必要なことを必要なだけ描いているつもりです。いよいよ最終章に入るぐらいの気持ちなので、ぜひ見守ってほしいです。

原作者の意図がここまで反映されたアニメは珍しいと思う

──続いて、放送中のアニメについてもお話をうかがいます。仲谷さんは脚本会議やアフレコなどにも参加されているそうですが、アニメの制作にはどこまで関わっているのでしょうか。

仲谷:脚本会議はすべて出席し、アフレコも今のところすべて顔を出しています。キャラクターデザインも監修していますし、絵コンテに対しても「このシーンでは、このキャラはこういう気持ちなので、こういう表情でお願いします」と細かいところまで口を挟ませていただいています。美術設定や小物の設定まですべて確認し、「ここまで口を出していいのかな」と思いつつチェックしています。

──がっつり関わっているんですね。

仲谷:ありがたい限りです。例えば生徒会劇のシーンでは、改変前の劇の脚本もすべて私が書き下ろしました。ほかにも、7年前の生徒会劇の冒頭部分、LINEのやりとりなど細かい文章まで自分で作らせてもらっています。

──だからこそ、原作そのままの世界が表現されているんですね。

仲谷:他の現場を知っているわけではないのですが、ここまで原作者の意図が反映されたアニメは珍しいのではないかと思います。「このシーンはこういう意図で描いてます」「このキャラはこういう気持ちです」と事細かにお伝えしているので、原作とアニメで解釈違いはないはずです。アニメスタッフの方にも、作品を大事にしていただいています。

──加藤誠監督とはどんなお話を?

仲谷:こちらから何かお願いするまでもなく、原作を大切にしてくださっているんです。「こういうの好きやろ」と過剰にサービスを入れるのではなく、きちんとこの作品でやるべきことをストイックにやろうと言ってくださり、「おまかせできる!」と思いました。シリーズ構成・脚本の花田十輝さんも、原作を丁寧に拾ってくださるんです。番外編やカバー下の4コマまで入れてくださるので驚きました。もともと私は花田さんのファンでしたし、安心してお任せできました。原作が完結していないため終わらせ方が難しく、オリジナル展開のなるのかなと思いましたが、それでは原作ファンは納得しないだろうと言ってくださり、原作どおりになりました。その上で、アニメとして新しい要素を入れることもできています。

──仲谷さんの意図を反映しつつも、アニメになって「ここはこうなるのか」と驚いたシーンもあるのではないかと思います。

仲谷:細かいやりとりですが、1話で侑と燈子が出会い「生徒会室はこっちだよ」と案内するシーンがあるんです。燈子が生徒会室のほうを「ん」と指さし、侑が「!」とリアクションする。マンガではセリフにできないようなやりとりですが、声と動きがつくことでかわいいシーンになりました。ほかにも、動きがついたことで生き生きするアニメならではのシーンがたくさんあります。自分のマンガだと「ここはこうできた」と改善したいところに気が行ってしまいますが、他の方に原画を描いていただいて、声もあてていただいて……となると素直に「めっちゃかわいい」と思いながら観られるので楽しいです(笑)。

──侑役の高田憂希さん、燈子役の寿美菜子さんをはじめ、声優さんの演技についてはいかがでしょう。

仲谷:どのキャラクターも「ああ、この子だ」と思うようなぴったりの声でした。アフレコでも解釈が違うところは直してもらっているのですが、「思っていたのと違うけれどこっちのほうがいい」ということもたくさんあって。「この子、そういう一面もあったんだ」という発見も多く、私自身も楽しんでいます。侑役の高田さんが「これまで演じてきた役は自分とは違う人間として役を作っていた。でも侑は、自分をナチュラルに出した役。今までにない冒険だ」と言ってくださったのも、すごくうれしかったです。初めてのことをやってくださったのが『やが君』であり、侑だったというのがとても光栄ですね。

──現在3話まで放送されましたが、声がついたことにより特に印象が変わったシーンは?

仲谷:いろいろありますよね……。生徒会選挙の演説は、文字で長いセリフを話すのと声で演じるので全く印象が変わりました。燈子が初めて弱さを見せるシーンも、声がつくことによって普段のかっこいい燈子とのギャップがさらに引き立つなと思いました。

──4話以降の見どころについてお聞かせください。

仲谷:3話までで、侑と燈子の関係性がいったん確立されます。侑が燈子のことを特別に思わないからこそ、燈子は侑のことが好きなんだということがはっきりして。侑としても、誰のことも特別に思えないという自分を燈子に受け容れてもらい、お互いにWin-Winの関係です。でも、果たしてこの関係がそのまま続いていくのかというあたりに注目していただきたいです。3話のラストに不穏なモノローグもあるので、今のままの二人でいられるのかそうでないのかハラハラしながら見守っていただければ。それはそれとして、百合的においしいシーンもたくさん控えています。キャストのみなさんが、おいしいセリフを本当にいい感じに言ってくださるんですよ(笑)。私自身もめちゃめちゃ楽しんでいるので、一緒に楽しんでください。

取材・文=野本由起

TVアニメ『やがて君になる』公式サイト http://yagakimi.com/