秋山「僕はとにかく博を苦しめたくて…」どんどん難易度があがる無茶ぶり絵本! ロバート単独インタビュー

エンタメ

2018/11/9

『むちゃぶりかみしばい』と題された表紙は、一見、単なる子ども向けの絵本に見える。しかし、一度ページをめくれば、「これは一体なんなんだ」と違和感に襲われるに違いない。

 まず、作品タイトルが奇想天外なものばかりなのだ。最初の「少年と魔法のサスペンダー」はまだわかるが、続く「シャリーと無意味な飛行場」や「バラディアナ将軍のホントに謙虚なGO!サイン」「バード兄弟となめにくいハッカキャンディー」はもうふざけているとしか思えない。ストーリーも、タイトル通り、とにかくめちゃくちゃだ。おまけに、絵も、お世辞にもうまいとは言えない……というよりかなり下手だ。インクが滲んで人の肌色に黒インクが混じってしまっていたりする。

 これは、はたして子どもだけなのか? というか、誰を対象にした絵本なのだ?

 そんな疑問を抱くのは当然である。そもそもこの絵本は、作家が望んで描いたものでも、誰かに向けて描いたものでもないのだ。

 作家は、芸人トリオ・ロバートの山本博。彼はこの3年間、秋山からの無茶振りに応え続けた結果、このような絵本を出すことになったという。その奇妙な経緯について、ロバートの3人にお話を伺った。

■画力のない博が、想定外のものを作ってくるから面白くて

――ちょっと初めて見るタイプの絵本で戸惑っています。そもそもここに収録されている物語って、ロバートさんがやっているライブで見せていたものなんですよね?

山本 そうそう、そうなんですよ。「ロバート企画」っていうライブで、公演の1週間前に秋山からお題をもらって、僕が紙芝居を描いてくるという企画があって。

秋山 「ロバート企画」は、完全に僕の発散の場なんですよ。ふたりには何も相談せず、僕がやりたいことをその場でやってお客さんの反応を見る。とにかく僕が面白いと思ったことをまずはやってみる場所。そこで歌も作ったし、体モノマネもできたし……そこであるとき、「博に変なお題を言って紙芝居を作ってきてもらったら面白いんじゃないか?」って思いついて。絵心のない博にやらせるっていう。

山本 今まで一度もちゃんと絵なんて描いたことなくて。だから最初に言われたときは本当に嫌でしたよ。人ってどうやって描くんだろう? っていうレベルからのスタート。

――その最初の作品が…

秋山 この絵本にも収録されている「少年と魔法のサスペンダー」ですね。これが思いのほか手応えがあって。お客さんも喜んでくれたし、僕も想定外のものが出てきて面白かったんですよ。博の絵が下手なのがまたいいんですよね。肩に力が入ってない感じがして、見ていて疲れない。そしたら自分で「毎回5枚で描く」っていう縛りを作ってきて。

――自分で縛るってすごいですね。

山本 いやもう、それ以上の枚数だと、間に合わないんですよ。1週間前にお題もらって、ストーリー考えて、絵を描いて、ってなると5枚が限界。だからといって3枚とか4枚だと、もらったお題のキーワードを処理するために考えた物語がおさまらない。

――確かにタイトルの情報量が多いので、少ない枚数でおさめるのは逆に難しそうですね。それにしても、タイトルのワードセンスがまた絶妙というか……

秋山 そう、まずはそこを褒め称えてほしいんですよ! このワードを探すの、けっこうセンスがいるんで。「バラディアナ将軍のホントに謙虚なGO!サイン」とか、めちゃくちゃよくないですか? 「バラディアナ」っていう言葉の並び自体が、検索しても出てこないから。パンプキン将軍とかだったらまだ想像つきやすいけど。で、それを博にフったら全部形にしてきてくれる……こんな面白い遊びはないです。

山本 俺は毎回、お前の遊びのせいで頭抱えてるんだけどね。

■お題を催促するときは必ず気を使ってしまう

秋山 そうそう、面白いのが、博が自分からお題を欲しがるとき……

山本 いや、欲しがってはねえよ!

秋山 たとえば、このLINE、超面白くないですか。「そろそろ紙芝居のお題を、時間のあるときに送ってもらえれば」。……あっはっはっは。

――めちゃくちゃ気を使っている。

山本 そりゃ使うでしょ。秋山は他の仕事も色々とやっているわけで、もしかしたらネタを書いている最中かもしれないし。

秋山 そのあとに「『四頭の鹿と蝶になった専属カバン持ち』で。」って送ったら「了解。」っていう。ふふふ。

――はたから見たら意味がわかりませんね。

秋山 これも面白い! 「タイトルをそろそろ欲しいな…時間あるときで」

山本 笑うなよ! こっちは真面目なんだから!

――毎回ひとこと気遣いを入れるんですね。

秋山 これもいいなあ。一回仕事で会って、言うの忘れて帰っちゃった夜。「ごめん聞き忘れたんだけど、タイトルって送ってもらえる?」

――謙虚ですね。

山本 いやもう、僕はね一分一秒でも惜しいんですよ。秋山のお題を待ってる間、なんもできないんだから。だから、どうせやるなら早くいただけませんか、っていう。

秋山 あ、そんなに焦ってたの?

山本 そうだよ。1週間前には欲しいんだけど、秋山は忙しいから3日分くらい余裕もって10日前くらいに一回連絡を入れるようにしてる。

秋山 それは知らなかったな。

――でも、3年もやってたらさすがに慣れてくる部分もあるんじゃないですか。

山本 いや、それがね。

秋山 慣れないんだよね。3年間ずっと同じ感じだもんね。

山本 というより、最初の「少年と魔法のサスペンダー」とか、今考えたら超簡単なお題だったんですよ。それが回を重ねるごとにどんどん難易度が上がっていく。

秋山 どんな難しいお題を出しても山本がクリアしちゃうから。

――秋山さんが対抗意識を燃やしてしまったわけですね。

秋山 頭を抱えさせたいんですよ。

山本 いやもう抱えてるよ。抱えた結果これなんだよ。

秋山 一番最近のやつなんだっけ?

山本 「かっぱ巻き弁護士スナオと不思議な泡のトランシーバー」。

■個人でえほん大賞に応募したら3ヶ月後に出版社から電話がきて

――秋山さんの無茶振りに応え続けた3年間があって、そこから絵本にしたいと思ったのはどういう経緯だったんですか。

山本 3年間で21作品溜まったんですよ。愛着も湧くから、捨てられない。部屋にどんどん溜まっていく。しかもライブでは基本的に東京と京都の公演で1回ずつ読んだら終わり。せっかくだからどうにか活かしたいなと思って色々と探していたら、文芸社さんがやっていた「えほん大賞」というのを見つけて。

馬場 この画力で賞に応募しようと思うのがすごいよね。

山本 せっかくだから毎年1作品ずつ送ろうって決めたんですよ。そしたら、最初に送った日の3ヶ月後に突然出版社から電話がかかってきて、「送っていただいた絵本なんですが、絵もストーリーもタイトルも、ちょっとありえないんですよ」と。

――ちなみに、どの作品を送ったんですか。

山本 ああ、シャリーです。

秋山 いや、「シャリーです」じゃねえよ。普通の人はわかんねえから。「シャリーと無意味な飛行場」って言え。

馬場 それもわけわかんないんだけどね。

山本 「なぜこんな作品を作られたのか、一度お話を伺いたいです」と言われて、出版社に行ったんです。そしたらそこで「え、芸人の山本さんですか」って。

――言ってなかったんですね。

山本 そう、そのまま山本博とだけ書いて、自分の住所から送っていたので。吉本で芸人をしているとかは書いてなくて。

馬場 まあ言ったところで、ね。

秋山 「え、吉本の山本さんですか!?」とはならないよね。

山本 うるせえな。そこで作品のできた経緯を話したり、実際に編集者の人がライブに足を運んでくれて面白がってくれたりしたおかげで、こうやって絵本という形にこぎつけることができた、という。

――他の応募者とはまるで毛色が違ったことが逆に良かった、ということですかね。

山本 そうでしょうね、口では言ってなかったですけど、あまりの下手さに「なんだこれ!?」って引っかかったんだと思います。だって他の人はみんなプロ一歩手前のような人たちで、画力もあるし、親子の愛や友情など子ども向けたテーマを描いている。その中に僕のこの作品があったら、嫌でも目をひきますよね……。

■人にノルマとして課されているからこそできる物語

馬場 タイトルがもうおかしいもんね。飛行場に無意味とかない。意味があるから飛行場なわけで。

秋山 まず俺に「苦しめよう」っていう思いがあるからね。「無意味ってなんだよ!」って言われたい。

山本 そのタイトルのせいで、だいたい愛情を注がないといけない主要キャラも名前が決まっちゃってる。お題もらった時点で「シャリーが出てくるんだ」って。シャリーが何者かだけは決められるから、色々考えた結果「カーズ」をイメージして飛行機にしてみたんです(笑)。

秋山 これ見て。顔の位置とか、やばいもんね。画力ないやつの描き方だもんね。

馬場 エンジンの位置もおかしいし。

山本 色の使い分けも大変なんですよ。僕ぜんぶマジックで描いてて、色を混ぜて作ったりしないから、使い分けないといけない。この海も青で塗ったらとんでもなく真っ暗になるから水色使いたいけど、もうシャリーで使ってるし……って。

秋山 いやそこは新しい色を買えよ、もう。

山本 仕方ない、じゃあ波だけ描け、って。

秋山 あ、波なのこれ。

馬場 空じゃないんだ。

秋山 カモメじゃないの?

山本 波だよ、波! 伝わんないな。これは陸。

馬場 ああ、頭の上で思い浮かべている様子じゃなくて?

山本 違う、陸!

馬場 なるほどね。

山本 まだ伝わってなかったの?

秋山 博の絵のヤバさでいうと、「背景を描かない」っていうのもあって。ただただ、真っ白。これ見てください。

馬場 これ、普通に檻から抜け出せますからね。あと、棒に鍵つけてるのも意味わからないし。

――確かに画力は追いついていない部分も多いですが、物語はけっこうしっかりキーワードを回収しながら成立させていて、すごいなと思います。秋山さんからお題をもらってから、どうやって考えているんですか。

山本 まずキーワードを全部分解して、それをどう組み込んで消化するか、を考えます。あとは、基本的にハッピーエンドになるようにはしていて、このキーワードを全て通ってハッピーにクリアできる物語を何パターンも作るんです。その中で一番よかったやつを選んで、絵に描き始める。

――何パターンもお話を考えているんですね。

秋山 だから、こっちも全く想像のつかない角度から来るから面白いんですよね。このタイトルなら、だいたいこう来そうだな、みたいなことって想定するじゃないですか。山本はその想定とはまるで違うところから物語を作り出す。で、そこにさらに組み合わせとして遠いワードをひとつ乗せると、より予想外の発想をしてくる。特に僕が好きだったのは「イカダに乗った書道家ロンと裏切りの和風レバニラ炒め」。今回の本には収録されていないんですけど。

山本 それ、めちゃくちゃ難しかった。まず、「イカダに乗った書道家」がわけわからない。それでも考えますよね。イカダに乗ってると、バランスを取るのが難しいから字が書きづらい。でも、そういう大変な環境の中で書いたからこそ、後々それが味になって評価されるのかな、みたいなストーリーは思い浮かぶ。でも、そこに「裏切りの和風レバニラ炒め」が乗ってくる。これひとつで物語ができそうなタイトルを2つくっつけてくるんですよ。

秋山 博がどんどんクリアしちゃうから、とにかく苦しめたくて。

馬場 レバニラ炒めって、そもそも中華だしね。

山本 そう。「裏切りのレバニラ炒め」じゃなくて「裏切りの和風レバニラ炒め」だから、またこの「和風」を処理しないといけない。なんで和風なのか、ってところを処理しないといけない。

――お話を伺っていると、物語を描くというより、タイトルのキーワードを処理する課題みたいな印象ですね。

秋山 ただ、人から無理やりやらされたからこそ生まれた物語ではあるからね。

山本 まあ自分で物語を考えてこのタイトルに行き着くことはないだろうね。

――無理やりやらされた結果、斬新なアイデアとして出版社に評価された、というのは面白いですね。

馬場 しかも山本はただ処理するだけじゃなくて、ちゃんと物語の盛り上がりも考えてくるからね。

山本 そう、ただ通過して終わるわけにはいかない。一応、起承転結も考えて。

――一見おふざけのようですが、その裏には真面目な山本さんの努力が隠れているんですね。作品をえほん大賞に応募したり、自分から秋山さんにお題を欲しがるようになったり、ちょっと山本さんの中でも紙芝居を作ることに喜びを覚えているのでは…?

山本 それは全くないし、そもそも欲しがってないんですよ!

秋山 そっか、早くタイトル欲しいんだっけ? じゃあ、そうだなあ、マルティアード……うん、いいね……。

山本 ……。

秋山 「マルティアード姉妹と9つのハヤシライス」にしようかな。

山本 初の姉妹もの……ていうか、ハヤシライスの数、多いな……!

――では初の姉妹ものということで。

秋山 うん、マルティアード姉妹と9つのハヤシライス……と……。

山本 これ以上増やさないでいいよ!

馬場 もうワンパターン欲しいよね。

秋山 よし、じゃあ「マルティアード姉妹と9つのハヤシライスと丘の上のペンキ塗り」で。

山本 ……了解。

 とにかく「博を困らせたい」秋山さんと、細かいところに容赦ないツッコミを入れる馬場さん。そして、そんな2人のイジりを律儀に毎回全力で返す山本さん。少年たちが悪ふざけをするような雰囲気の中で作り上げられた物語は、どれもなぜか平和で優しい話ばかりだ。本の中には、3人のやりとりも多く含まれていて、いろいろな意味で子どもも大人も楽しめる絵本に仕上がっている。

取材・文=園田菜々 撮影=内海裕之