『UC』と『NT』。感情を激しく揺さぶるガンダムの音楽は、どう生まれたか――澤野弘之インタビュー(『UC』編)

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更新日:2018/12/6

『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』 (C)創通・サンライズ

『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』は、何度観直しても本当に面白い作品だ。「『UC』とは何であるのか」という命題については、ぜひ特集内の福井晴敏インタビューをご覧いただきたいのだが、『UC』の物語に繰り返し感情が揺さぶられてしまう背景には、澤野弘之の音楽がもたらす力も強く作用している。2005年に劇伴作家としての活動を開始して、さまざまな映像作品に携わってきた澤野にとって、『UC』は音楽家として飛躍する大きなきっかけであり、その後彼が生み出していく豊かな音楽の礎にもなっている。『機動戦士ガンダムNT』で再び音楽制作に取り組んだ澤野は、何を思い作品に向き合ったのか。インタビュー前編では、『UC』との出会い、そして作曲家・澤野弘之が『UC』から受け取ったものについて、話を聞かせてもらった。

“RE:I AM”は初めての主題歌だったので、全エネルギーを注いだ

──『機動戦士ガンダムNT(ナラティブ)』の劇伴および主題歌を担当してほしい、とオファーを受けたとき、どんなことを感じましたか。

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澤野:『機動戦士ガンダムUC』が2010年に始まって、09年くらいから音楽は作り始めていたので、5年ほど付き合っていたわけですけど、終わるときは冗談半分で「やっと終わったよ」とか言ってたものの、やっぱり終わっちゃったら「寂しいなあ」と思ってるところがあって。なので、『NT』で『UC』の続きというか、関係がある作品でまた音楽を作れることは、素直に嬉しかったですね。主題歌をやれるというのも、やっぱり僕にとっては『UC』でAimerさんと曲を作ったりしたことが、自分のボーカルプロジェクトにつながっているところがあるので、恩があるし、[nZk]で主題歌を作れたのはありがたかったです。

──過去に何度かお話聞かせてもらった上での印象なんですが、澤野さんって、一度ご一緒した監督さんや作品からオファーが来ると、「え、僕でいいんですか?」って思う方じゃないですか。『UC』と『NT』に関してはどうなんしょう。

澤野:『UC』と『NT』は、小形さん(小形尚弘。サンライズプロデューサー)とはずっとやってきたところがあったので。でもそうですね、「必ず自分に来るだろう」なんていう気持ちはないんですよ。ただ『UC』は、なんだかんだうっすら関わってる状況だったので、追加みたいな感じで言われた気がしていて(笑)。

──(笑)澤野さんは以前、ご自身のターニングポイントのひとつとして『UC』を挙げていたことがあって。端的に、作曲家・劇伴作家の澤野弘之にとって、『UC』はどういう存在ですか?

澤野:僕自身、アマチュア時代に「いつかこういう作品の音楽を担当したいな」って考えている中に、漠然とガンダムはありました。ガンダムって、シリーズが変わるごとに作曲家も替わることは知ってたので、「いつか自分も担当できたらいいな」という思いはあって。で、携わって以降は、いろんな機会を与えていただいた作品だと思っていますね。[nZk]のプロジェクトにつながったこともそうだし、オーケストラのライブをやるのも『ガンダムUC』が初めてだったり、ほんとにいろんな意味でチャレンジさせてもらって。今でも、ターニングポイントになったとすごく思います。今のようアニメ作品でいろんなオファーをいただけるようになったのは、やっぱり『UC』がきっかけだったと思うんですよ。『進撃の巨人』の荒木哲郎監督も、『UC』を観て音楽に興味を持ったとおっしゃってくださって。自分にとっては、2010年以降の自分の音楽人生に影響を与えてくれた作品だな、と思っています。

──そもそも『UC』の音楽を澤野さんがやることになった経緯とは?

澤野:『UC』の古橋一浩監督と小形プロデューサーが音楽をどうするかの話をしていたときに、古橋さんがよく一緒にやっていた作曲家の方がいて、その方にしようかと思ったんだけど、他のガンダム作品の音楽を担当してたらしいんですね。なので「違う作家にしよう」という中で資料を集められていた中に僕の資料もあって、監督に興味を持っていただいて。ガンダムというとオーケストラのイメージがありますけど、「この人、オーケストラの曲書けるの?」となったときに、『機神大戦ギガンティック・フォーミュラ』っていうロボットアニメがあったんですけど、僕が作家活動の初期の頃にフルオーケストラで曲を書いてたんですね。その作品を監督に聴かせたら、「面白そうじゃないか」ってなって、オファーが来たみたいです。『ギガンティック・フォーミュラ』をやっているときは、ロボットアニメということもあって、「これがのちのちガンダムにつながるかも」とか思ったりしてたんですけど(笑)。

──うっすら野心は持っていたんですか(笑)。

澤野:はい、ありましたね(笑)。劇伴の仕事をやり始めて2年後くらい、26、7歳の頃に作っていたと思うんですけど。

──ということは、何か人脈があって選ばれたというよりは、純粋に音楽が評価されて、『UC』にフィットするんじゃないか、ということで声がかかったわけですね。

澤野:監督にとってはそうだと思います。小形さんは、『医龍-Team Medical Dragon-』とか、ドラマ音楽のほうで興味を持っていてくれたみたいですけど。

──面識はなかった。

澤野:なかったですね。「あの人どんな人なんですか?」ってなんとなく関係者に確認してたみたいです(笑)。「ヤバいヤツじゃないよね?」みたいな(笑)。

──(笑)『UC』ではサウンドトラックの中にボーカル曲をフィーチャーした曲があって、そのことは澤野さんが作るサントラのある種の原型というか、その方向性をいろんな場面でトライしていくさきがけになったのかな、と思っていて。『UC』の劇中に、ボーカル曲がマッチすると思った理由って何ですか?

澤野:小形さんが『医龍』のサントラを聴いてくれていて、その中に“Aesthetic”というボーカルをフィーチャーした曲があったんですよ。それがけっこう劇中で使われて、『医龍』を観ていた方には多少反響があったらしくて。それを小形さんも知っていたので、「この人、劇中で歌の曲も作るよな」みたいな認識があって。小形さん側から「歌の曲があっても面白いかもしれないですね」って言われたので、「トライしていいんだ」と思って劇中歌の“EGO”っていう曲を作りました。

──ちなみに、『NT』の音楽を制作するにあたって、『UC』の音楽を聴き直す、反芻することもあったんじゃないかと思うんですけど、振り返ってみてご自身が『UC』につけた音楽についてどう思いましたか。

澤野:『UC』の後期にも思っていたことで、ちょっとマニアックな話になっちゃうんですけども、オーケストラの編成を年々変えていたんですよ。オーケストラには、弦楽器があって、木管楽器があって、金管楽器があるっていう、一番オーソドックスな編成があるんですけども、『UC』も最初はその編成で作っていて。そこで自分なりに納得いくものが作れたあとに、「ほんとはもっと追求したい音があるな、それはこの編成じゃないんだろうな」って考えたときに、編成が変化していって。ガンダムに限らず、今ではいろんな作品でやるときに、自分の中でオケの編成はある程度決まっているものがあるので、オーケストレーションという部分において、曲を聴くと「すごく変化してきたな」とは思いますね。

──それは、澤野さん自身が作りたい音楽を追求するのと同時に、『UC』という作品によりフィットする音楽を作る、という視点もあったんでしょうか。

澤野:いや、たぶん自分の作りたいものが強かっただけかもしれないです(笑)。「自分の作りたいサウンドはこっちだ」みたいなところがあって。もちろん『UC』に合わせた音楽は作るんですけども――自分の作りたいサウンドで、『UC』の音楽に寄っていこうとするっていう感じですかね。

──先ほど、ボーカル曲の話でも話題に出てましたけど、『UC』にはAimerさんがボーカルを担当した主題歌がありましたね。“RE:I AM”と“StarRingChild”。これはほんとに、アニメ音楽史に残る名曲だなあ、常々思っているんですけども。

澤野:(笑)ほんとですか? ありがとうございます、そんなに言っていただけるとは。

──その後もAimerさんとの共同作業でいろんな曲が生まれていったわけですけど、その礎みたいな部分もあるのかな、と。“RE:I AM”と“StarRingChild”の2曲は、澤野さんにとってはどんな存在ですか。

澤野:それまでは劇伴の中の劇中歌、サントラの一種として歌ものを作ってたところはあったんですけども、やっぱりいつかは自分がアーティストに歌を提供することにもつながってほしいな、と思っていた中で、『UC』で小形さんから「澤野さん、主題歌もお願いしたいです」と提案してもらって、自分がやりたかったことにつながったんですね。なので、その2曲はすごく思い入れが強かったですし、この2曲によって「澤野はこういう曲を書くんだ」と人に認識してもらえるかもしれない、興味を持ってもらえるかもしれない、と思っていたので、気合いを入れて作りました。特に“RE:I AM”は初めての主題歌だったので、全エネルギーを注いだ、というか。「これで他の歌の仕事も来たらいいな」じゃないですけれども(笑)。

──(笑)。

澤野:『UC』はシリーズを通して主題歌が変わっていったので、正直な気持ちを言っちゃえば、「今まで出た中で一番いいって言われるような曲にしたい」という気持ちはありましたよね。なので、かなり気合いを入れて作って、Aimerさんの歌声のおかげもあって、自分でも納得いくものが作れたな、と思ったんですけども。僕自身は“StarRingChild”も同じぐらい好きなんですけども、話が来たときには“RE:I AM”にめっちゃくちゃ力入れた後で、ちょっと拍子抜けしたというか(笑)。でも結果的に、どちらも納得いくものが作れたので、その2曲をやらせてもらえたのは、経験としてもすごくありがたかったです。Aimerさんと2回続けて一緒にできたことも、自分的にも大きかったですし。Aimerさんは、今はさらに大活躍してるんですけど――。

──それ、ほんとに毎回言ってますよね(笑)。

澤野:ははは! 大活躍されていますけども、当時はAimerさんもこれから! っていうタイミングではあったので、いろいろ協力していただいて。それこそ“StarRingChild”の流れで、『UC』の企画で『UnChild』っていうアルバムを作ったときは、全曲通して彼女に歌ってもらえる機会をいただけたので、そういう面でも、あの時期に作っていた歌は思い入れが深いです。

──具体的には、澤野さんの中ではどういうところがよかったと感じてますか。

澤野:最近の[nZk]やサントラのボーカル曲もそうなんですけども、やはり自分は洋楽の影響が強い曲を作っているところがあって。同時に、J-POPも聴いて育ってきた自分もいるので、“RE:I AM”と“StarRingChild”に関しては、メロディが重要だったり、なんだかんだ日本人って歌詞を気にしたりするところがあって――僕自身は、歌詞を書くときに「絶対にこの意味わかってください」って思ったりはしないんですけど、“RE:I AM”と“StarRingChild”は聴いた瞬間にある程度物語が膨らんだり、意味合いが伝わるようなものになればいいな、という部分は考えました。その部分も自分の中で出しつつ、当時ニッケルバックとかのバラードが好きで影響受けてたので、そういうものをうまく入れられたのかなあ、とは思っています。『UC』がだんだんクライマックスに近づいてきて、そのテンション感と楽曲のテンションが一致したというか、いい具合にハマったところもあるかもしれないです。

 ただ“RE:I AM”に関して言うと、メロディのベーシックな部分は、『UC』のepisode1のときに作ってあったんですよ。なぜかというと、僕に主題歌を書かせるという提案は、episode1の頃からしていただいてたので。最終的には、やっぱりスタートはコンペ形式にしたいということになって、そこに出す楽曲として、“RE:I AM”を作ってた、というところもあったんです。

──へえ~。

澤野:そこで万が一“RE:I AM”が使われちゃったら、また伝わり方も変わったかもしれないですね。だから結果的にいいタイミングで、episode6やepisode7で自分が主題歌をやれたのは大きかったです。未だに僕自身も“RE:I AM”はすごく好きだし、でも個人的に“StarRingChild”をよく聴いちゃいますね。Aimerさんは、本人に直接聞いたわけじゃないですけども、“RE:I AM”で初めて力強いアプローチの曲をやったので思い入れ深い、とおっしゃってくれることがあったりするみたいで。正直、“StarRingChild”を作っているときは、“RE:I AM”パート2、くらいの気分でいましたから(笑)。「タイトルどうしますか?」って言われたとき、「ぶっちゃけ“RE:I AM2”でもいいんですけどね」とか言ってたくらいで(笑)。「それはやめてもらえますか」って言われたので「わかりました、考えます」みたいな。

──ははは。それだけ“RE:I AM”に力を注いだ、と。

澤野:そうですね。やっぱり、思い入れは深いです。

『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』 (C)創通・サンライズ

菅野さんには敵わなくても、観た人が「『ターンエー』と同じくらいカッコいいよ」って言ってくれるような作品にしたかった

──作品のいちファンとしての意見ですけど、『UC』の音楽ってパーフェクトだと思うんです。

澤野:(笑)ほんとですか?

──澤野さんの音楽なしには『ガンダムUC』は成立しない、とさえ思ってます。

澤野:いやいやいや(笑)。もちろん、そう思っていただけたら嬉しいですけどね。僕自身も、力を入れて取り組んではいたので。

──いわゆる劇伴、BGMとはどうあるべきかを考えると、作品のイメージを音楽がコントロールしすぎててはいけない場合があるじゃないですか。「後ろでただ鳴っていればいい」という場合もあると思うんですけど、『UC』の音楽は間違いなくそうではない。すごく主張はしている、だけど作品の中に同居している。溶け込むというよりは、しっかりとそこにある。我々作品を観る立場からすると、『UC』という作品を思い浮かべるときに、澤野さんの音楽は必ずセットになっているわけです。作った澤野さんとしても、非常に手応えを感じていらっしゃるはずだと思うんですけども。

澤野:そうですね。『UC』は、それこそサントラの1枚目を作った時点で、自分の中でも手応えを感じましたね。ガンダムシリーズって、いろんな劇伴作家の方が担当していますけど。菅野よう子さんが『∀ガンダム』をやってたじゃないですか。ガンダムシリーズのサントラを全部聴いてたわけではないけど、菅野さんの曲が好きで『∀』のサントラを持ってたんですよ。「すごいサントラだな」と思っていて。だから自分の中で、『∀』はすごい作品だと思っているんですけど、自分が『UC』を担当するからには、菅野さんには敵わなくても、観た人が「『∀』と同じくらいカッコいいよ、音楽の影響があるよ」って言ってくれるような作品にしたいな、という思いはありましたね。だから、今そう感じてくれる人が少しでもいたら嬉しいな、と思ってはいますけども。

──それは当然いるでしょう。

澤野:そうですかね(笑)。

──ある意味、澤野さんの音楽は『UC』に溶け込もうとしてないと思うんですよ。それこそ、野心めいたものを感じるし、今まさに言語化してもらうと、「やっぱりそういうことなんだなあ」と思いますね。「この作品で何かをやってやろう」という感じが伝わってくる音楽だな、と改めて感じたというか。

澤野:そうですね。でも、それはありました。それまではドラマの仕事が多くて、基本的には楽曲の制作期間やオファーのタイミングもギリギリだったりするところはあったんですけど、『UC』はわりと早い時点でお話をいただけて。当時、「『UC』だけのために3ヵ月間、きちっと時間を取りたいです」みたいなことを言いましたし、そういう音楽の作り方をしたのは『ガンダムUC』が初めてだったので。それくらい、自分の中で「この作品で何かしら残したい」と思っていたところはありましたね。

澤野弘之インタビュー(『NT』編)は12月7日配信予定です

取材・文=清水大輔