意識的に「攻めた」最新シングルと、ベストアルバム以降に見えた景色を語る――LiSAインタビュー(後編)

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更新日:2020/10/13

 LiSAの14枚目のシングル『赤い罠(who loves it?) / ADAMAS』(12月12日リリース)は、本人も明言しているように、意識的に「攻めモード」で作られた1枚である。“ADAMAS”について語ったインタビュー前編に続き、後編ではまず“赤い罠(who loves it?)”にフォーカスする。「女の情念」を思わせるこの曲から浮かび上がってくるのは、「自意識の解放」だ。最初のミニアルバム『Letters to U』でデビューした2011年からずっと、LiSAの「女らしさ」は特定の楽曲におけるペルソナのひとつだったように思う。しかし“赤い罠(who loves it?)”で、LiSAは自身が考える「女らしさ」を意識的に音楽に落とし込み、シンガーとして鍛え上げてきたスキルも伴って、強烈な引力を持つ1曲を生み出してみせた。表現者としての幅を自らの意志で拡張していくLiSAの姿は、とても痛快である。

 そして後編のもうひとつのテーマは、2018年における自身の名義以外での幅広い活動について。カバーやトリビュートに加え、現在大ヒットを記録している映画『機動戦士ガンダムNT(ナラティブ)』では、澤野弘之による主題歌“narrative”を担当。すべての音楽に対して全力で、真摯に向き合い、次々に誰もが認める成果を手に入れてきた、充実の2018年を総括する。

女だと見られないほうが得だと思ってた。だけど今は、大人になって女を楽しめてる

――最新シングルの両A面曲の“赤い罠(who loves it?)”は、“ADAMAS”と同じくハードな曲なんだけど、わりと対照的な印象があって。なんというか、「こんなに生々しい曲、今まであっただろうか」って思って。

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LiSA:しかも、それをシングルでやるっていう(笑)。

――(笑)最初に聴いたとき、「これ、ライブ音源?」って一瞬思ったくらいで。同時に、これが今やりたいことなんだなってすごく伝わってきたというか。

LiSA:はい。まず楽曲的には、先輩(田淵智也/UNISON SQUARE GARDEN)が「この楽曲を、やれるもんならやってみろ」って世の中に言いたかったらしくて(笑)。“ADAMAS”も“赤い罠(who loves it?)”も、わたしの中では精神的にすごくパンクなんですけど、歌詞に書いてる感情は、どうしても強さと弱さっていう言い方になっちゃうけど、どちらも真剣だからこそ、意志が強いからこそのリスクと強さがあると思います。

――“赤い罠(who loves it?)”は、2017年以降に意識してるひとつの方向性、女性らしさが表出してる曲だなあ、と思ったんですよ。ベストアルバムのインタビューで“DOCTOR”の話をしたときに、「それもひとつの強み」という話があって、それを自覚的に活かせたのが“赤い罠(who loves it?)”なのかな、と。

LiSA:そうですね。女性であることが、今は楽しいです。女性にしかできないことがあるし、女性だからこそ好きになるものや魅力的に感じるものがすごくいいなあって思うし、大人になってそれを認められるようになってきた感じがします。今だったら、それをわたしがやってもいいのかなって思いました(笑)。“ADAMAS”も、自分の中では主人公が女だったけど、戦う女性と女の部分、という感じです。

――さっき話した“DOCTOR”のくだりで、「長年見てきてエロさを感じたことはほぼ一度もない」といささか失礼なことを申し上げましたが(笑)、“赤い罠(who loves it?)”のMVはちょっとエロさを感じました。

LiSA:イエ~イ(笑)。MV、めっちゃカッコよくないですか?

――超カッコいい。実際、スキル的な部分でも「この歌をこんなに歌いこなせる人って他にいなくない?」って思うし、そこに女性的な表現に自覚的であることもプラスされている。その両方が揃って、この曲になっている、というか。気持ちもスキルも、この曲にちゃんとついていけるLiSAになった、みたいな。

LiSA:はい、そうですね。今まではけっこう、自分が女性を意識してきてなかったから――自分が女だってことを認めてなかったから(笑)。だから「なんちゃって、でやってる感」があって。

――「エロを作ろうとしてる感じ」はあったでしょうね。

LiSA:そうです。でも、それが自分の武器だって気づいちゃった。それは、年齢を重ねてやっと気づけたことですね。ずっと、「パックリ開いた服とか着るのはちょっとイヤ」みたいな感じだったから(笑)、ダボダボした男の子みたいな恰好をしてることがわたしの中の絶対条件でした。女を出さない、女だと見られないほうが得だと思ってたから。だけど今は、大人になって女を楽しめてるし、それがリアルだと思われてもいいって思ってるというか。

――もともとは、歌の中のキャラクターと自分自身が乖離してないといけなかった。

LiSA:うんうん。そうですね。

――だけどもう、同一化してもいいんだよ、と。

LiSA:そう思いました。“罪人”を書いたときにそう思ったんですよ。「リアルを歌える、歌ってもいいんだ」って思ったというか。女性であること、弱い自分であることがバレるのもイヤだったし、それを武器にするのもイヤだったから、「なんちゃって」でしかできなかったんですよね。自分の中にキャラクターを立てることでしかできなかったけど、リアルを出していってもいいんだ、と思いました。

――“ADAMAS”と“赤い罠(who loves it?)”はジャンヌ・ダルク的なビジュアルが浮かんできたり、女の情念が飛んできたりするけど、LiSA作詞・作曲の“スパイシー・ワールド”にはほっとする安心感があって(笑)。

LiSA:(笑)。

――《いつもギリギリ たまに頑張れない私でいい》っていう歌詞が印象的でした。それこそ「頑張れない私」を見せずに走ってきたわけで、頑張って乗り越えてくる姿を見せ続けてきたのがLiSAというアーティスト像なので、今だったらこの言葉を自分から出せるんだなあって思うと、感慨深いというか。

LiSA:強がりだったので(笑)。今は、いろいろやってもいいなあって思ってます。自分が今までのLiSAに思い描いていた像だけじゃなくて、もっと他に音楽を楽しむ方法がいっぱいあるなあって思います。

みんなが楽しんでくれるLiSAを作るために、わたしは今できる精一杯をやる

――年末なので、2018年の総括と、今年関わった楽曲についての話も聞いていきたいと思います。まず今年のLiSA的トピックスといえば、なんといってもベストアルバムを出して、そのベストがウィークリー1位と2位を獲ったことかな、と。自分の音楽を受け取ってくれる人が少なからずいることは実感としてあったと思うけど、「こんなにいてくれたの?」っていう驚きはあったんじゃないですか。

LiSA:そうですね。これは“ADAMAS”の発売のときに感じたことと似ていて、「あっ、こんなに仲間がいたんだ」みたいな感じ(笑)。一個一個を大事に作ってきてよかったな、自分は間違ってなかったんだなって思えたし、自分が信じてやってきたことを確信できました。“Believe in myself”という曲や、作った頃の自分自身に感謝したし、それをやらせてくれたまわりの人たちにも、すごく感謝しました。

――そして、その翌月の3度目の武道館。ベストアルバムの話で印象的だったのは、「“Believe in ourselves”を作る前までは、LiSAはここで終わってもいいと思ってた」という言葉だったんだけど、武道館のライブは「これ以上のものって見られるんだろうか」って思ってしまうくらい、すごいライブでした。むしろ、「これ以上の風景ってどんな感じ? 想像できない」っていう感じもあって。ステージの上では、どういう感じ方をしてたんでしょうね。

LiSA:わたしにとっても、ゴールには見えました。だけど、その先が見たくなりました。ライブが始まって、ひとつひとつ曲が進んでいくのがほんとに楽しくて。“Believe in ourselves”を歌いながら、360度にいてくれる仲間を見たときに、「わたしが目指してた光って、ここだったんだ」って思いました。「この人たちが照らしてる光の中に来るために、わたしは歌ってきたんだなあ」って。どちらかというと、自分と一緒に過ごす時間でみんなが幸せだったらいいな、と思っていて――「ずっと一緒にここにいてほしい、ずっとみんなと一緒に遊んでたい」って思ってたけど、“Believe in ourselves”が終わって、360度のみんなが一緒に楽しんでくれている姿を見て、この人たちに楽しんでもらいたいのはもちろん――これが“ADAMAS”につながるんですけど、みんなが楽しいことを見つけたり、それぞれがいっぱい幸せになればいいって思ったんです。そのためにはできることはまだいっぱいあるし、そのために一緒に作らなきゃいけない空間があるなって思いました。

――実際、“ADAMAS”を聴いた今となってはホッとしてるというか。武道館を観たときに、あまりに完璧だから「これで終わってもいいだろ」ってちょっと思っちゃったので(笑)。

LiSA:わたしも思ってました(笑)。

――だけど、今は覚悟を新たにして、また次の何かを見せてくれようとしている。もっとすごいものを見せてくれそうな期待がありますね。

LiSA:はい。期待しかしないでねっ(笑)。

――(笑)2018年はLiSA名義のリリース以外でも歌のお仕事が活発で、『美少女戦士セーラームーン』と椎名林檎さんのトリビュートへの参加がありましたね。特に『セーラームーン』の“ムーンライト伝説”は、世代的にも子どもの頃に観てたんじゃないかと――。

LiSA:超世代ですね。

――しかも、最も象徴的な楽曲じゃないですか。『セーラームーン』に関わることは、どういう経験だったんでしょう。

LiSA:『セーラームーン』は、わたしたちの世代がたぶん一番夢見てたヒロインで、誰もがセーラームーンになりたいと思ってたと思います。だけどわたしは、セーラームーンのうさぎちゃんが嫌いでした。いつも泣いてるし、支えられてばかりで、まわりの戦士たちの子のほうが強いんですよ。だけどうさぎちゃんは弱虫で、肝心なときにダメで、わたしみたいなの(笑)。子どもの頃は「なんでうさぎちゃんが主人公なの」って思ってたんです。

――子どもの頃の自分とは違うから嫌いだった、ということではなく?

LiSA:どっちかというと、わたしもそういう子だったからイヤだったんだと思います。だけど、そんなに素直じゃなかった。お姉ちゃんだから、ほんとはワガママだし、言いたいこともあるけど、いっぱい我慢してしっかりしなきゃ、みたいな感じでした。小さい頃にセーラームーンごっこをすると、「うさぎちゃんは絶対イヤ」って言ってましたね(笑)。子どもの頃は、弱いものがすごく嫌いでした。だから無敵のヒーローに憧れてたし、弱い自分を受け入れられなかったけど、今はすごくその気持ちがわかるというか、それもすごく魅力的だなって思えるようになりました。

――子どもの頃から好きじゃなかった自分の弱い一面を受け止められたのは、“ムーンライト伝説”に参加したこともきっかけのひとつだったのかもしれないですね。

LiSA:そうですね。特にアジアツアーでずっと歌ってたんですけど、アニメソングを歌っているLiSAとして海外に出ていったときに、リアルな自分にとって一番印象に残っているアニメソングを、今のLiSAが歌えることにはすごく意味があるし、なんの後ろめたさもなく堂々と歌わせてもらえたので、すごくありがたいことだなあ、と思います。

――椎名林檎さんのトリビュートについてはどうでしょう。

LiSA:やっぱり、自分が憧れた人として今までお名前を出してきてはいないけど、もちろんすごく影響を受けていて。その椎名さんが、まずわたしのことを知ってくれてたんだって思って。アニメの歌を歌っていて、海外での活動もすごく多いから、「LiSAさんには“NIPPON”っていう曲を」って言っていただきました。それが、すごく嬉しかったというか。

――他者の曲を歌うことで改めて気づいた、自分の強みって何ですか。

LiSA:正直、カバーをしてもオリジナルには敵わないって思います。だけど、それを自分が歌わせてもらえるってなったときに――自分がコンプレックスに思っている部分でもあるし、今となっては武器になってる部分でもあるけど、やっぱり声が高音楽器タイプだから(笑)。壮大な重たい合奏曲は弾けないけど、そういう楽器なりに楽曲の楽しさは作れると思って歌わせてもらってますし、できるだけ聴く人の思い出になるように――それはやっぱりアニメと関わってきて、いろんな作品に寄り添ってきた経験がすごく活かされてるなあ、と思っていて。楽曲をどう調理するのがいいのか、すごく愛情を持ってできたかな、って思います。

――そして『機動戦士ガンダムNT(ナラティブ)』の主題歌、“narrative”。ずっとアニソンのフィールドで活躍してきたけど、ガンダムの曲を歌うことはひとつのステータス、シンボルだと思うんですよ。

LiSA:わたしの中では、みんなに「好き」って言えるほどガンダムのことは知らなくて――感覚的には、『Fate』に関わる感覚と似てます。だけどガンダムって、ほんとに大人から子どもまでみんなが知っていて、ずっと続いている作品の象徴で、すごく大切に思ったり、ガンダムに夢見た人がいっぱいいるので、そういう作品に関わらせてもらえるのは幸せなことだし、これもやっぱりLiSA歴史の中ですごく大事な楽曲になったな、と思います。

 わたし、ガンダムは『F91』しか観たことがないんです。だけどそれを観たときに、自分の夢を持った人がいたり、根底には戦争がありつつ、生きてる人たちのリアルな感情や背景が描かれていて、そこがみんなが共感する一番のポイントなんだろうな、と思いました。それが綺麗事に描かれてない感じが、ガンダムなんだろうな、と思います。で、これは完全に澤野さん(澤野弘之。『機動戦士ガンダムNT』の音楽と“narrative”の作詞・作曲を担当)からの受け売りになっちゃうけど、切なくて悲しいお話の中で、「それでも自分が大事にしていることをやり続けるしかない」っていう歌詞を持った曲になっているので、それならわたしが歌えるんじゃないかなって思いました。

――澤野さんとガンダムと言えば、Aimerさんが歌った“RE:I AM”“StarRingChild”というものすごい名曲があるんですけど、Aimerさん自身は当時、思い通りに歌えなくて悔しかった、という話をしていたことがあって。だけど、あの2曲がAimerさんのシンガーとしてのフィールドを広げていくことになったと思うんですけど、澤野さんの曲がそうやって成長を促すものだとすると、“narrative”にもそういうきっかけがあったんでしょうか。

LiSA:わたしが初めて澤野さんの曲を聴いたのは“StarRingChild”なんですけど、AimerちゃんをAimerちゃんにしたのは澤野さんだなあ、とわたしは思っていて。Aimerちゃんの声で歌ってほしい言葉や歌が、ほんとにそのまま入っている歌で。わたしが本当に好きなもの、本当にやりたかったことってそれで、だけどわたしの歌はそういう楽器じゃないから叶わないしできない、と思ってたから、Aimerちゃんみたいな人が歌ったほうが絶対にいいと思うタイプの曲だったんです。だけど、“narrative”の歌詞をいただいた頃にわたしは“ADAMAS”を書いてたんですけど、感覚的に一緒なところがあって。自分の中で貫いていく固い意志、もがいてたとしても希望を信じて歩いていく“narrative”の感じは、“ADAMAS”と同じ主人公のような感覚がありました。だから、自分の中にはないものとして歌うのではなく、自分の歌として歌えるな、と思いました。

――今年は、いろんな縁のある1年だったと思うんですけども、同時に、どんどんアップデートされているとはいえ、人間には限界もあるじゃないですか。今まではその限界を突破してきた結果、もはやLiSAの前に先駆者がいないところまで来ている。つまりLiSAを追いかける人はたくさんいるかもしれないけど、LiSAが追いかける人はいないわけで。その状況を踏まえて、今後目指していく場所とは何であるのか、ということを聞きたいです。

LiSA:いろんな曲を歌いながら、生い立ちも含めて自分のことを認めて理解してきて、今の自分にできる最大限を考えていく、それが今できることなのかなって思っていて。もちろん、未来には不安もいっぱいあるんですけど、ひとつひとつを精一杯やっていったら、気づいたらすごい場所にいるんじゃないかなあって思います。だから今は、自分ができることを精一杯、誠実にやっていくことを続けていきたいです。みんなに力を借りながら、一緒にいろんなところに行けたらいいなあって思います。

 これも昨日思ったことなんですけど、わたしは音楽がすごく好きだから、前は「お客さんがいなくなったらやらない、歌わない」って言ってたと思うんです。歌は好きだけど、自分が楽しい曲を歌いたいだけだったらカラオケでいい。だけどわたしが音楽を好きなのは、やっぱり音楽を通していろんな人が元気になったり、楽しんだり、そこから頑張れたりするからで、わたしはみんなが楽しんでる姿が好きなんだなって思いました。だからみんなが楽しんでくれるLiSAを作るために、わたしは今できる精一杯をやることしかできないけど、それもやっぱり支えてくれるたくさんの人たちがいるからなので、みんながいなかったらわたしの音楽はできないんだなって思います。

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取材・文=清水大輔  撮影=藤原江理奈
スタイリング=久芳俊夫 ヘアメイク=田端千夏