苦労知らずでおめでたい?当事者の酒井順子さんがひもとく! バブル世代は駄目な世代!?

新刊著者インタビュー

2019/1/5

 ワンレン、ボディコン、ミラーボール。西麻布でイタ飯に舌鼓を打ち、朝までディスコで踊り明かす─。空前の好景気に沸く1980年代後半、若者たちは浮かれムードのまま世に放たれた。その後、膨らみきった泡がはじけて景気が低迷しても、強烈な光の残像は今も網膜に焼き付いている。そんなバブル世代の生態を、当事者である酒井順子さんが丸裸にしてみせた。タイトルはズバリ、『駄目な世代』。

著者 酒井順子さん

酒井順子
さかい・じゅんこ●1966年、東京都生まれ。高校在学中より雑誌にコラムを連載。大学卒業後、広告会社勤務を経て、執筆業に専念。『負け犬の遠吠え』で第4回婦人公論文芸賞、第20回講談社エッセイ賞をダブル受賞。『下に見る人』『子の無い人生』『男尊女子』など著書多数。

 

「かねてより、自分たちの世代は“駄目”なんじゃないかと思っていました。例えばプロスポーツ界を見渡しても、同年代のスターは三浦カズぐらい。大人になったら実業の世界で活躍する人が出てくるのではないかと期待していましたが一向にその気配はありません。そうこうしているうちにIT化が進み、若い人たちが活躍する社会になっていって。気づけば50代、とっくに社会の中枢を担っていなければならないのに『あれ、結局駄目なままなんじゃ……?』と気づいてしまったんです。いつか成長するのではないかと思っていたのに、その“いつか”がなかなか来ない。それでも年だけは取り続け、大人の演技をしているような感覚に。夏目漱石は49歳で亡くなっていますが、今の私たちより確実にちゃんとしていたはずです(笑)。私たちの世代はなぜこうなってしまったんだろうと考えるようになりました」

 見上げれば、戦後のベビーブームに生まれたパワフルな団塊世代。その下には、従来の枠にはまらない新人類が続く。酒井さんたちバブル世代はすぐ上の“先輩”である新人類にあこがれ続け、そのまま“永遠の後輩”ポジションに収まってしまった。とはいえ、「このままではいけない!」と奮起する気概もないという。

「バブル景気のお陰でラクに就職し、苦労を知らないまま過ごしてしまったので『これじゃいけない』と思うことを忘れてしまったのかもしれません。特に私は出生率が大幅に下がった丙午生まれなので、競争が少なくてさらにラクをした分、ますますのんびりしています。バブルが弾けたあとの氷河期世代の人々は、就職に苦労したため、その後も頑張って自分で道を見つけ、会社に入ってからも独立・起業する動きが目立ちますよね。でも私たちの世代は、『このままじゃダメなの?』と会社に残り続ける人が多いんです。バブルが弾けたこともわかっていますし、ほかの世代から『これだからバブル世代は……』と言われることも多いのですが、我々の世代は基本的におめでたい(笑)。『これだけラクしてきたんだから、苦言ぐらい引き受けなきゃ』という気持ちもあります。そこで自虐を込めて、私たち世代について書いてみました」

 作中では、「昭和の最下級生」「『若さは、売れる』と気づいた最初の世代」「晩婚化・少子化を推し進めた世代」「オタク第一世代」など、さまざまな切り口でバブル世代を分析していく。中でも、バブル以降の世代にとっては「消費の牽引役」というイメージが強いのではないだろうか。

「『消費しろ、しろ』と言われ続けてここまで来ました。東日本大震災が起きた時も、同世代の友人は『私が被災地で少々ガレキを片付けても役に立たない。だから私はお金を使って経済を回す』と言って高級レストランに行きまくっていました。私たちが景気を回そうという姿勢は、確かにあるかもしれませんね。それに、やっぱり『欲しい』という気持ちは我慢できないので、その言い訳として内需拡大なんて言ってるところもあります。今の学生を見ていると、まっとうですよね。私たちのように、学生のうちから車を買ったり海外旅行やスキーに出かけたりするのは、やはり無理があります。これがずっと続いたらつらいだろうなと思っていましたから」

 一方、酒井さん自身がバブル世代の顕著な傾向として挙げたのは、「とんねるずが好き」という気質。

「彼らは秋元康さんに見出され、1980年代に『オールナイトフジ』や『夕やけニャンニャン』で人気を得ました。私たちにとっては、青春時代に現れた“面白くて恰好いいお兄さん”。視聴者は、とんねるずの疑似後輩でした。関西の漫才師とはまた違う雰囲気だったので、特に関東圏の若者は鮮烈な印象を受けたのかもしれません」

 とんねるずは、今まさに滅びようとしている体育会文化の担い手でもある。バブル世代は、先輩からの“かわいがり”を喜んで受け入れる傾向があると酒井さんは話す。

「部活でしごかれても、そのことをあとになって誇らしげに語ったり、理不尽な暴力に耐えたことがアイデンティティになっていたりします。我々は後輩に『タックルしろ』とは言いませんが、上から言われたらやるタイプ。仕事に関しても、同じ傾向が見られます。当時は好景気でしたし、男女雇用機会均等法が施行された時期でもあったので『バリバリ働こう』という空気があり、みんなそろって社畜でした。でも、そういった“かわいがり”やブラック企業体質が今、叩かれています。ずっとNOと言えず、根性を出すことにうっとりしていたことは、恥ずかしくも楽しい思い出。でもやっとひとつの時代が終わるのかなという気がします」

バブル期の無責任な軽さをみなさんにお届けしたい

 バブル世代をバッサバッサと斬りつつ、本書では60年代以降の社会の変遷をたどることもできる。学生運動が盛んな「政治の季節」だった60年代、ウーマンリブの波が押し寄せる70年代。その後80年代にかけて、時代は急速に軽くなる。田中康夫は『なんとなく、クリスタル』で“気分”で行動を決める若者たちの生態を描き、糸井重里は「おいしい生活。」をはじめとする雰囲気重視の広告で世間を浮わつかせていく。この時代に青春を過ごした酒井さんは、こうした空気の変化を肌感覚ごと伝えてくれる。

「恥ずかしながら、私たちはあの時代の軽さが大好きなんです。いつの時代にも今で言うパリピみたいな人たちはいますが、あの頃は世の中全体が浮かれていましたから。あの無責任な軽さ、楽しさをお届けしたいという気持ちがありますし、書くことによって私自身ももう一度反芻したいという思いもありました(笑)」

 戦後、日本はどん底から復活し、高度経済成長を遂げる。教育水準も上がり、人々の暮らしは急激に豊かになる。その頂点がバブルだった。

「私たちの世代まで、大人は子どもよりも貧しい時代を生きてきました。『若い頃はこんな苦労をした』と語るのが大人というイメージ。でも、今の若者は親世代よりも豊かに暮らせるとは限りません。きっと『昔の人ってラクだったんだな』『チャラチャラしてたんだな』と思うでしょう。やっぱりバブル崩壊は、時代を大きく変えたと思います。もしこれから日本が斜陽に向かっていくとしたら、ここがターニングポイントだったと言えるでしょうね」

 世代間対立を煽り、分断を深める世代論が多い中、本書はあくまでも平和的。「駄目ですみません」と道化に徹しつつ、あらゆる世代を受け入れる大らかさにあふれている。

「ほかの世代からは迷惑がられているかもしれませんが、我々は平和な生き物なんです。争いを好まないので、バカにされてもみんなと仲良く……という姿勢。パンダのようにみんなに好かれて経済効果を生むわけではありませんが、このままカピバラのように穏やかに生きていきたいですね(笑)。それに、ほかの世代の方々も『駄目な世代』と聞けば『もしや我々の世代では?』と思い当たるところはあるでしょう。私たちほどではないにせよ、どの世代にも駄目なところはあるのかもしれません」

取材・文=野本由起 写真=小嶋淑子 取材協力=まぼねん