充実の全14曲、その背景とは――早見沙織『JUNCTION』全曲インタビュー(前編)

エンタメ

2018/12/29

 早見沙織の2ndアルバム『JUNCTION』は、何度聴いても発見があって、心を動かされる名盤である。この1枚に収められた曲がどのように作られていったのか、制作の過程をより深く知りたい、そして知っていただきたいと思い、アルバムの全体像を語ったアルバム全体像を語ったインタビューに続いて、各楽曲の詳細について話を聞かせてもらった。「全曲解説編」の前半は、M-1“Let me hear”から、折り返しのM-7“interlude: forgiveness”まで。12月23日に行われたスペシャルライブでも一部が披露されていたが、来春のツアーで『JUNCTION』の楽曲群をどのように届けてくれるのか、今からとても楽しみだ。

(“Let me hear”は)楽しいし、祝祭感があって、ハッピーが詰まった曲

1. Let me hear 作詞・作曲・編曲:川崎里実

 70年代ロックのような質感を持つリード曲。強烈にキャッチ―なメロディと、パワフルかつ繊細なボーカル&華やかなコーラスが融け合って、中毒性の高いキラーチューンとなっている。早見本人がアルバム序盤を「クラウチングスタートのような(笑)」と形容していたが、始まった瞬間からトップスピードで走っているような、インパクト十分の1曲目だ。また、12月23日にZepp DiverCity TOKYOで行われた「スペシャルライブ」で、“Let me hear”の新たな表情が見えた。この曲の歌詞は、ある人物の「声だけでも聴きたい」という焦がれる感情を歌っているようにも読めるが、ライブで披露されるとき、ステージと客席の関係を映し出してもいる。サビのフレーズ《あぁ声が聴きたいよ/君の声が好きなのさ/もう何もいらないよ/You gonna take me higher》は、オーディエンスが声を重ねることでテンションが高まっていくステージ、ライブ空間そのものであるように思う。

早見:この曲は、初めて聴いたときに、自分が聴いてきたものの中でも馴染みがあったし、「歌っていて楽しい気持ちになるだろうなあ」という予感があった曲で。本当にカッコいいから、まず1曲目かな、みたいなイメージは浮かんでました。「ライブを見据えた曲も欲しい」ということを言っていて、川崎さんにお願いして書いていただいた曲です。楽しいし、祝祭感があって、ハッピーが詰まった曲です。

 余談だが、“Let me hear”が名曲すぎて、筆者は出張で仙台に行った際に約90分リピートで聴き続けたことがある。それを本人に伝えたところ、「わたし、日本からアメリカに行くときに1曲で通したことがあります(笑)」と述べていた。音楽への探求心と熱量を感じさせるエピソードである。

2. メトロナイト 作詞・作曲:早見沙織/編曲:倉内達矢

 5thシングル『新しい朝(あした)』のカップリング収録曲。この曲の発端は、「作曲中にサビの《もっと騒いで/もっと働いてよ》という一節が浮かんできた」とのこと。さらに、その原曲デモにギターメインのシティポップ的なアレンジが施されたことで、楽曲からのビジュアルイメージが広がっていき、歌詞が完成した。1stアルバム『Live Love Laugh』以前より、早見沙織の創作には「日常の断片が表現になる」ことで生まれた楽曲がいくつもあるが、その精度が飛躍的に高まっていることを端的に感じさせる佳曲。

早見:とっても反響をもらえた曲です。お気に入りにしてくださってる方がすごく多い曲なんだなって、出してみて感じましたね。原曲はピアノベースで、ちょっとノスタルジックだったんですけど、ギターベースに変わってカッコよさが増しました。倉内さんのアレンジによって、すごく華がある感じ、キラッとしたものを足していただいて。これは2曲目になるかも、と思いました。

──この曲がすごく愛されることには理由があって、ポップソングとしてシンプルに優れているんだと思います。音楽としてカッコいいな、素敵だな、とか、率直な感動を聴き手にもたらすポテンシャルを持った曲なのではないか、と。

早見:そういうことを言っていただくことで、そこからすごく学ぶことがありますね。作ってるときは、半信半疑なところもあるじゃないですか。でも、わたしはとてもカッコいいと思っていて、歌詞もハマって、独特の空気感もできた。「こういう部分が刺さることがあるのかな」って、結果から学んでいったところはあるかもしれないです。

3. 夏目と寂寥 作詞・作曲:早見沙織/編曲:倉内達矢

『JUNCTION』を何度も聴いて、ひとりの聴き手として抱いたイメージを言葉にすると、M-7“interlude: forgiveness”以前の前半が「感情」「激流」、後半は「人生」「肯定」だった。ある関係の終わりを想起させる歌詞が、はね回るピアノとリズムに乗った“夏目と寂寥”は、「感情」を象徴する1曲であるように思う。そして、続く“夢の果てまで”へとつながる1曲として、アルバムの統一感を見事に演出していると同時に、『JUNCTION』の多面性や早見のクリエイションの鋭さが垣間見える曲でもある。ちなみに、“夏目と寂寥”に決定する前の仮タイトルは“狂気の沙汰”だったそう。その背景とは……?

早見:やっぱり、歌詞が大きいですかね。でも、言葉じりを怖いと感じるというよりは、まっすぐで純粋な部分って、ある種狂気的な面を秘めている、というか。100%の純度の「楽しい」、100%の純度の「好き」、100%の純度の「キラキラ」って、それはそれで何か変なものを感じてしまうことがあるじゃないですか。そういうことを考えつつ、メロディはある種情緒が安定してない感じで、だけどポップさを残したいと思ってました。

──今まで取り組んできた創作に何かしらの枠があったとして、それを意図的に外しにいった感じもあるのかなと、この曲を聴いて想像してました。

早見:むしろ、自分の中で距離的には近めだなあ、と思っている曲で、自分が色濃く出てるかなあ、と思ってたりします。あえて外したことをやろうっていう意識はなかったですね。楽しい気持ちも込めつつ、ちょっとポップでコミカルな毒っ気も入っていて、それが楽しかったです。ただ、こういう土壌に種を蒔いてみたことはなかったな、という感じはします。

4. 夢の果てまで 作詞・作曲:竹内まりや/編曲:増田武史

 2017年11月にリリースされた、劇場版『はいからさんが通る 前編 ~紅緒、花の17歳~』の主題歌で、作詞・作曲を竹内まりやが手掛けている。結果、竹内まりやと早見沙織は『はいからさん』で二度邂逅することになるわけだが、この出会いは『JUNCTION』に大きな影響をもたらしている。“夢の果てまで”では、レコーディング時に受けたディレクションにより「どんどん曲が輝いていった」プロセスを通して、歌唱面でも発見があったようだ。また、『はいからさん』の主人公・花村紅緒が歩む人生を歌った経験も、シンガーとしての深みや広がりへとつながっているのではないだろうか。

──『はいからさんが通る』の楽曲は、主に花村紅緒の人生について歌っているわけですけど、キャラソンとは違う意味で、誰かの人生を背負って歌う経験は大きかったんじゃないですか。

早見:そうですね。ソロの活動をさせていただけばいただくほど、キャラクターソングに対する意識も、またちょっと変わってくるなあ、と思っていて。もちろん、今までもすごく大事に歌ってきたし、それは変わらずあります。ある意味、自分の曲の聴き方も変わっているし、ソロの活動では触れ合うことがない作家さんとご一緒させていただいたりすることで、ある種突拍子もない曲調だったり、王道の曲調を作る側への視点のようなものは、ここ1、2年で生まれた気がします。

(“白い部屋”“祝福”について)何も考えてなかったときのほうが、意外と奇跡が生まれる(笑)

5. 白い部屋 作詞・作曲:早見沙織/編曲:前口渉
6. 祝福 作詞・作曲:早見沙織/編曲:河田貴央

 音楽的な意味はもちろん、内容面を対比してみると非常に興味深い2曲が、“白い部屋”“祝福”だ。前述した「激流」のイメージは、特にこの2曲から感じられる。荒々しいわけではなく、静かで、だけどどこか極端な感情の流れに身を任せていると、とても心地がよい。多くのリスナーにとっても驚きを覚えた2曲ではないかと思うのだが、意外なのは2曲ともにアルバムのために新たに作ったものではなく、かなり以前から曲の原型が存在していた、ということ。早見沙織が作る楽曲は穏やかで余白を持たせた作りが多く、一方で時折はっとするような言葉を織り交ぜた楽曲がいくつも見られるが、“白い部屋”“祝福”を聴くと、我々に見えている彼女のクリエイションはまだまだほんの一部分なんだな、と思わされる。

──“白い部屋”は失う歌、喪失を描いている曲だと思いました。続く“祝福”との対比が面白くて、大げさに言ってしまうと、この2曲を聴いているうちに「人間の心の中の風景って、こんな感じなのかなあ」って思ってしまったんですよ。

早見:あっ、それは面白いですね。

──何かを失おうとしているときには意外と穏やかかもしれなくて、逆に前向きな心情のときはかき乱されるような感覚があるのかもしれない。それもまた、心の動きなのかな、と。“祝福”は、ささやく感じで始まって怒涛のように混沌が押し寄せてくる感じですけど、どちらも歌詞に退廃的な雰囲気があって。曲の中の主人公の結末だけを見るとそういう印象があるんだけど、同時に2曲とも余韻はすごく前向きなのが面白いなあ、と。最後の歌詞は、“白い部屋”が《すべてを 忘れていく》で、“祝福”が《希望だけが残る旅路》。対照的なフレーズを選んでいるのに、余韻の印象は近い、という。

早見:そこ、何も考えてなかったです(笑)。でも、そうかも。こういうこと、あるんですよ。逆に、何も考えてなかったときのほうが、意外と奇跡が生まれる、というか(笑)。

──(笑)《明日が来れば/全てが変わる》と歌っている“祝福”は、タイトルはポジティブな言葉だけどカオスな感じがあって、同時に生命力に満ちている気がします。生命力のほうが、整然としていなくてどこか歪で極端な形をしている、というのも興味深いなあ、と。

早見:今、思ったんですけど、“白い部屋”ってすごく現実的ですよね。空間音楽っぽいし。これは、レコーディングのときのノイズも活かしてるんです。ペンを譜面台に置く音や、ヘッドホンと髪の毛が擦れる音も全部活かしていて。ささやきで歌うときって、どうしてもマイクの集音の音を上げなきゃいけなくて、そうすると小さいノイズも乗ってくるんですね。それがかえって、突然どこか知らない場所にふわ~っと漂うのではなく、奇妙な生活感を生んでくれるというか。

“祝福”はちょっと危ういなあ、と思っていて。アレンジを河田さんにしていただいて、ちょっとヒリヒリする感じになっていったんですけど、歌詞はわりと前向き、むしろド前向きみたいなところがあって。そのふたつが合わさると異様な感じがするけど、ちょっと異様なところがよかったかなって思います。編曲をしていただいたことで、より歪な感じ、非現実っぽいところが出てきたと思います。

──この2曲の主人公がどこにいるのか、が気になりますね。今まで早見さんが作ってきた楽曲は日常がひとつのキーワードになっていたけど、この2曲は日常の延長線、ちょっと先を感じるというか。ある日路上を歩いていた、電車に乗っていた、そういう日常とは少し違うのかな、と。

早見:そうだと思います。ひとつの感情みたいなものがあって、言葉はある種なんでもいい――と言ったら言葉に失礼なんですけど、よく見えないけど確かにここにある感情、みたいな複雑なものを表すために、媒介として置かれた言葉、みたいなところはありますね。だから、心象っぽいのかもしれないです。道で言うと、“白い部屋”は歩みを止めているのかなって思ったりもするんですけど、ちょっとずつ思い出しては忘れていくということは、忘れること自体がある種の歩き出すことでもあったりするし、“祝福”は“祝福”ですごく進んでるけど、「この人が進む先って崖じゃないかな、大丈夫かな?」って思ったりするときもあるし。「なんとか生き延びてほしい!」みたいな、危うい感じもあるかもしれないです。

──そうすると、“白い部屋”には「前向きな停滞」みたいなイメージも湧いてきますね。

早見:そうですね。作ってるときも、この曲が向かうところは一方向ではなくて。たとえば白い部屋っていうのも、white roomではなくvacant room、空き部屋、がらんどうのイメージなんですけど、出ていっちゃったのか、自分が出ていくのか、はたまた物理的に出ていく・出ていかないではなくて意識としての何かを終わらせるのか、自分が全部忘れていっちゃうのか、とか――そういうことをない交ぜにしながら歌詞を作ってました。そこは、どちらにも解釈できたら面白いな、と思います。

──ちょっとした、言いしれぬ不安感とか底知れなさのようなものも感じますよね。それは手に触れて掴めないもので、それこそ心象なんだとすると、完全に理解できるわけではない。そういう歌詞・曲調であることで、聴く人に触れたときに曲の解釈が広がっていくという。

早見:たぶん、具体的な情景にすることもできると思うんですよ。もしかしたら、最近お別れしちゃった人が聴いたら、「同棲してた人が出ていっちゃって」みたいな気持ちにヒットするかもしれないし、大事なものが自分の手元からなくなってしまった、という気持ちにヒットするかもしれないし。

──そして“祝福”では、時折聴き手をはっとさせる言葉選びをする早見さんの歌詞の中でも、とりわけインパクトが大きな《眩い碌でなしの渦》というフレーズがありますが(笑)。

早見:(笑)これも、どちらにも解釈できたらいいな、と思っていて。《碌でなし》ってちょっと厳しいワードでもあるけど、《眩い》はキラキラしているし、自分の内にあるものを外側に見出してるのかどうかで、とらえ方も違ってくると思います。もし自分の内側にあるものだったら前向きに受け取れると思うし、外側にあるものだったら「違う見方もあるんじゃない?」みたいな感じにもとらえられると思います。

7. interlude: forgiveness 作曲:早見沙織/編曲:前口渉

「赦し」をタイトルに掲げた、幕間の1曲。アルバムの前半で聴き手が体験したアップダウンの高揚を、穏やかに、優しくリセットし、心地のよい余韻をもたらしてくれる。インタールードとして、あまりにも正しく機能した秘かな名曲であり、『JUNCTION』の1枚のアルバムとしての構成力を示している。

早見:これは、もともと14曲目(“温かな赦し”)があって、結果的に真ん中になりました。

──アルバム前半、特にM-5“白い部屋”とM-6“祝福”は激流というか、聴いていてわーっと押し流される感じがあるんですけど、ここで安らぐ感じがあるというか。

早見:いったん、鎮めてくれる曲が欲しいですよね。これがあってよかったな、と思います。この曲は前口さんにドドンとお任せした部分があったんですけど、「なんとなくこれくらいのサイズ感の曲かな」っていう共通意識がみんなの中にあって、それ以上の間奏を前口さんが作ってくださいました。

「全曲解説編」後編は12月29日(土)20:30に配信予定です

早見沙織『JUNCTION』インタビューはこちら

取材・文=清水大輔 撮影=中野敬久
スタイリング=鈴木麻由  ヘアメイク=樋笠加奈子(アッドミックス ビー・ジー)