早見沙織さんが選んだ1冊は?「描き出される今を生きることの刹那が美しく、涙がこぼれてしまった」
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年7月号からの転載になります。
毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、早見沙織さん。 (取材・文=立花もも 写真=干川 修)
最初に読んだのは学生時代。それからどれほど時を経ても、読み返すたび早見さんを号泣させるのが、江國香織の短編集『つめたいよるに』。 「刺さる物語はそのつど違います。今回、改めて素敵だなと思ったのは『夏の少し前』。女子校の中学に入学したばかりの主人公が放課後の教室でぼんやりしていると、いつのまにか未来にタイムスリップしてしまうという不思議なお話ですが、人生って本当に一瞬の積み重ねで巡っていくのだなということが感じられるんです。あんなに楽しかった学生時代も気づけば遠く、好きな人と結婚して幸せを嚙みしめていたら、今度は子どもの、そして気づけば孫の手を引いている。新鮮な表現で描き出される、今を生きることの刹那が美しく、涙がこぼれてしまったんです」 たくさん本を読むタイプではないというが、何…