自治体のお金のしくみってどうなっている?―財政課長を務めた著者に聞く「自治体のお金事情」

社会

2019/2/22

▲著者の今村寛さん

 2019年1月某日、福岡市内で開催された「フリーランス協会福岡HUB」の会合に筆者が出席した際に、10人強の場を一歩俯瞰した視線で眺め、意見や提案を要所要所で発言されている方がいた。『自治体の“台所”事情 “財政が厳しい”ってどういうこと?』(ぎょうせい)の著者・今村寛さんである。福岡市役所に勤務されつつ、フリーランスが集まる会合にも顔を出されるフットワークの軽い今村さんが、ちょうど2018年12月に書籍を出されたと知り読んでみると、「役所」「財政」というお堅いイメージとは正反対の、「これから」を模索する一冊だった。そこで、後日今村さんにお会いして、インタビューをさせていただいた。

―市役所の方は異動が多いというイメージがあるのですが、本書に書かれている事柄の「はじまり」を強いて設定するならば、財政調整課長を務めていらした時ではないかと思います。その時から、現在までの職務の変遷を簡単に教えてください。

 財政調整課時代は福岡市の予算編成を束ねるという立場でした。財政調整課長を4年。その後、経済観光文化局の創業・立地推進部長を1年。庁内の意見調整ではなく、民間の事業者さんと一緒に事業を考えるという立場になりました。2019年現在は同局の中小企業振興部という部署なので、財政課長のスタンスとは全く違います。

―本書を書かれた大きなきっかけの一つに「出前講座」があるかと思います。これから読まれる方のために、どんなことを出前されたのか教えてください。

 財政調整課長時代に大きな財源不足を抱えていました。行財政改革とか、財政健全化ということに取り組んでいる自治体は多くありますが、そのだいたいが「どれだけカットするか」ということから入ります。我々もそうでした。「この事業を見直せませんか? やめられませんか?」ということを財政課としてやっていたのですが、よくよく考えるとそれは「何かに使うため」に見直してもらっているのであって、「見直したお金はどこにいくのか」ということは我々も示していませんでした。職員に財政状況や、その中でどのような行動をとるべきかを知ってもらうために「財政出前講座」を始めたんです。

―本書には講座を始められた後の様々な気づきが書いてありますが、「いるもの探し」という言葉が、今村さんの発見を象徴していると感じました。「カットする」ということは見かたを変えれば「何が必要か」突き詰めて考えることですよね。

「この事業見直せませんか?」と尋ねると、皆「見直せない」と言うんですよ(笑)。けれども、新しいことをやるためだったら見直せるんですよね。財政健全化は目的ではなく手段であると本書に書いています。手段として見直すということは、目的が別にあって、何か新しいことをやりたいということです。そのビジョンさえ共有できれば、辛い見直しとか、その説明とか、付随する苦労は乗り越えられるんですよね。

―「スクラップ・アンド・ビルド」ではなく、「ビルド・アンド・スクラップ」というプロセスが大事で、両者は大きく異なるという本書の指摘はなるほどと唸らされました。建てながら直していくというのは難しい。だからこそ必要なんだな、と。着地点がわからない状態で、スタートを切るのには勇気が必要ですからね。

 行政の仕事って選択と説明の繰り返しなんですよ。何でもかんでもできるわけではないので、できることを選んで、これはやらないということを決めて説明していく。説明しなければいけないけど、それは人のお金です。税金を集めて、そのお金を使う権限を信託されてやっているわけです。自分のお金だったら誰にも説明しなくていいですよね。そこで必要になるのが、対話です。お互いに話を十分して、進ませていくんです。

―そのビジョン共有を、巨大な市役所という組織の当該各所や、関わる方々に対して行うというのだけでも大仕事ですよね。

 財政という、皆共通でわかってなければいけないことを自分たちが言っているのに、それが伝わらないというのが財政調整課にいた頃のジレンマでした。そこで私は課長一人だけで外に出て、皆の話を聞いてみることにしました。

 本には書いていない内容になりますが、福岡市の財政課長が区役所とか現場に出てきて、担当者たちと一緒に話をするというのはすごく財政課のハードルを下げたんですよ。従来財政課というのは、「来てもらう職場」、つまり財政課まで来てもらって話すという場だったんです。そこを私が、区役所、博物館、美術館……いろんなところに行きました。行くと「わざわざ来てくれてありがとう」となって、話が難しくてわからなくても、なんとなく「来てくれた感」で少し打ち解けることができました。区役所の保健師さんとか、港湾局の技術系職員の職場とか、消防署とか、そういったところに行って話をして「多分半分もわかってないんじゃないかな」と思った時もあるんですけど、来てくれたというだけで一体感が生まれました。「わからない点もあるけど、今村課長のいる財政課の言うことだから間違いない」と思ってもらえたというところがありました。ちょっとずるいかもしれないですけど。

―全然ずるくないと思います(笑)。むしろ正当なアプローチだと思います。本書の内容はフリーランスや「働き方」の話題と通じるものがあると思いました。本書を書いた時、行政の方ではない読者を意識していましたか?

 一応公務員向けにしたつもりですが、公務員とはいえど、結局お金の使いみちを自分の財布レベルでは知っているものの、自治体レベルでは知らない人が多いんです。なので、書中のたとえ話や表現の仕方とかは、自分の財布の管理をしている方であれば、どなたでもある程度わかってもらえるようにしています。

―フリーランスでなくても、一個人が自分の得た収入をどう支出するかというのは、本人の考えが影響します。市の予算となると個人の扱う金額とは桁が違うかとは思いますが、お金を扱う上で日頃から注意していることはありますか?

 価値観の多様性というのは常々意識してきました。私の考えが絶対に正しいわけではない、と思うようにしています。私は予算を「言い渡し」する立場ですので、そう考えておかないと「こうしとけよ!」と命令するだけの「言い渡し」になってしまうんです。

 自分が思っていることを人に押し付けても、人は動きません。予算を言い渡して、実際現場で動くのは私ではありませんよね。納得いくまで話し合って、お互いに価値観をある程度すり合わせた上で、予算を言い渡す。そうするために、「人は人、自分は自分」という前提があることは、すごく大切だと思っています。

―会社でも、フロアが違うとフロアごとに情報の温度差があるということが起きたりしますが、そこのすり合わせはやはり大切ですよね。

 福岡市役所で言いますと、事業はだいたい一般会計だけで3000あります。なので、上意下達だけでは無理なんです。価値観のすり合わせをして、全体最適と自律経営のバランスをとらないといけません。トップの言うことを皆が聞くのが全体最適なのではなく、自律している経営体が皆同じことを考えているというのが一番素晴らしい姿ですね。人体のように、脳味噌の指示をずっと待っていたら皆死んでしまうので、手や足のパーツごと、あるいは細胞単位で自律していることが必要です。それぞれはパーツでしかないのですが、全体を組み合わせた時にどう見えるかというのは、パーツだけ見ていてもわかりません。全体を示して、こういう大きな目標に沿って一個一個があるんだよと調整していく必要があります。それゆえに、皆がその大きなもの、つまりビジョンは知っていなければいけません。

―最後に、現在いらっしゃる中小企業振興部でのいろいろな取り組みの中で、特に注目されていることを教えてください。

 どこの企業も人手不足という状況をどう改善するか、いろいろと考えていますが、最近はまっているのが東京大学の近藤武夫先生が推進している「超短時間雇用」。めちゃくちゃ面白いですね。ある人の受け持っている業務を細分化し、切り分けた業務ごとにその業務に必要な能力を備えた人に割り振って、極端に言うと、15分だけ働いてもらうとか、1時間だけ働いてもらうということをやる。近藤武夫先生は障害者雇用の創出のためにそれを積極的にやられていますが、その超短時間雇用の考え方をいかに普及できるかを考えています。例えば、福岡市のシルバー人材センターなどに働きかけて、高齢者の雇用にこの考え方を応用できないかと思っています。仕事の切り分け、つまりどんな仕事を超短時間でやってもらうかを決める作業が大事なのですが、それがまだ普及してないので、その方法を考えています。

 財政に関する本という体裁を取りつつ、実際読んでみると真のテーマが「人と人はどうやってわかりあえるか」であると感じる本書。「行政のやることはいかんせんわかりにくい」というイメージをもしお持ちならば、一旦それは忘れて本書を手にとって、なかなか聞けない「中の人」の声に耳を傾けてほしい。

取材・文=神保慶政