「恥をかいても自分ルールで生きる」青木真也の覚悟

暮らし

2019/3/15

「自分らしさ」迷走時代のバイブル『ストロング本能 人生を後悔しない「自分だけのものさし」』を出版した格闘家・青木真也氏。

 その出版記念トークイベントが行われ、株式会社GOの代表で青木氏の友人としても親交の深い三浦崇宏氏、書籍のライティングを担当した竹村俊助氏の2名を交えて、青木氏の人生論に迫りました。

 本記事では、そのイベントの一部をご紹介します。

■幸せの基準は一律じゃない

青木:僕がこの本で伝えたいのは「自分のルールで生きろよ」ということ。「他人に振り回されてつらい」「自分のやりたいことが見つからない」などで、いま悩んでいる人に、自分の価値観を見つけてほしいんですよね。やっぱり、「他人のものさし」で生きてしまうことって多いじゃないですか。

三浦:ありますね。

青木:でしょ。格闘家って青木真也という個体に値段がつくものなのに、インスタライブとかで露骨に「ファイトマネーいくらですか?」って聞かれるわけ。それを聞いちゃう人は、まさに他人のものさしで生きてるなと思ってしまうんです。

三浦:なるほど。

青木:じゃあ、お前はいくらお金が欲しいの? 金持ってたら幸せになれると思ってるの?っていう話なんですよ。本にもありますけど、俺は金を持って不幸になったし、お前が必要なだけあればいいじゃんと常々思うわけです。だって、個人で仕事をやるのってめちゃめちゃ孤独じゃないですか。

三浦竹村:わかります。

青木:フリーランスもスポーツ選手も孤独で、誰にも理解されない生き物だと僕は思ってます。みんなは「ファイトマネーいくら?」なんて気安く聞いてくるけど、お金と孤独をトレードする気合いがあなたには理解できるの?って逆に聞きたいくらい。

三浦:青木さんの給料やファイトマネーがいくらだろうと、その人の人生には何も関係ないわけだもんね?

青木:そうそう。

三浦:そういう意味では、「他人のものさし」と「自分のものさし」を切り離して考えてない人たちが多すぎるよね。

竹村:たしかに。

三浦:お金持ってるとか目立ってるとか、それが本当にその人にとって良いことではないわけ。幸せになるって基準が人によってバラバラだから、誰かに与えられたものさしを求めるよりも「自分がどうしたら幸せか」を定義することが一番大事。

青木:それがまさに、「自分のものさしを持つ」ことなんですよね。

■俺も弱い。だから人生をマネジメントする

「自分ルール」を確固たる軸として持ち、精神的に強く生きてきたように見える青木真也氏。しかし三浦氏は、「青木さんの魅力は、人間的な弱さから生まれている」と言います。

青木:あと、僕がもうひとつ伝えたいのが、人間は平等じゃないってこと。要は、生まれたときに与えられてるものが人によって違うのは仕方ない。その根っこの部分を一旦認めて、そこから進んでいこうやってこと。

三浦:「不平等を観念しろ」って本にも書いてありましたね。だから、持ってるカードを嘘ついてごまかすんじゃなくて、「ジョーカーもエースも持ってないけど、でもいま手元にあるカードでどうやって戦っていくかを考えろ」ってことですよね?

青木:そうそう。全員が4番打者になれるわけではないから、自分のポジションを考えて人生をマネジメントしたほうがいいじゃんってずっと思ってるんです。

三浦:でも、誤解を恐れずに言いたいのは、青木さんも格闘家としては身体能力がずば抜けて優れているわけではないですよね。

青木:まったくその通り。運動能力自体は低いし、実際にメンタルも普通の人と同じで打たれ弱い。だからこそ、自分ができることはすべて考えるし、どうにもできない部分は割り切ってます。

 この前、久々に土日なにもすることがなかったんです。本当は朝起きて、どこか出かけようと思ったんだけど、気づいたら16時くらいになって「あぁ今日もう無理か」って……。どうにもできないなと…。

三浦:なんだそれ浪人生かよ、練習しろぉ!(笑)

会場:(笑)

青木:でも、弱い自分がいるから、そうなっちゃうよね。

三浦:だから、青木さんもここにいる普通の人たちも、きっと基本的にはメンタルは一緒なんですよね。でもその弱い気持ちがあることを正直にぶちまけ、自分のものさしと誠実に向き合いながらも、必死にリングに上がる青木真也の背中に共感しているんです。人間で35歳、なんとかやりくりしている青木真也の魅力はそこだなと思うわけ。

竹村:その「やりくり」という考え方は、僕も一番おもしろいなと思いました。

三浦:新R25でもZOZOの田端さんが、「マネジメントとは困難な状況をやりくりすることだ」とおっしゃっていたんです。そういう意味で青木さんは、年齢的な能力の衰えとか、運動選手としては少し足りない部分とか、自己顕示欲みたいな部分を上手くコントロールして、今この場にいるんですよね。

青木:ハイ。

三浦:この本のタイトルは『ストロング本能』ですけど、「本能」っていう自分の武器を、どうやって理性でうまくコントロールするかを書かれているんです。巨大な本能を、格闘技っていう生き方や、格闘技で学んだことを自分の人生に活かす術を見つけているからスゴいんですよね。

■「恥をかいた経験」が人を強くする

三浦:僕は本当に昔から青木真也の大ファンで、いまも一緒に入れて嬉しいし、彼の試合が本当に僕の勇気になっています。でも、目の前にいると「ただの心が弱いメンヘラおじさん」みたいなんですよ(笑)あっ竹村さん、この本を書いてて苦労されたこととかないですか?

竹村:苦労という文脈とはちょっと異なるのですが、日本を代表する格闘家の青木さんにメンタルの鍛え方を聞くと「メンタルなんてみんな弱いですよ」って返ってきたので、その部分は僕も勇気をもらいました。

青木:はい、メンタルが強い人なんていないですよ。

三浦:だれもが弱いメンタルを持っている。だとしても、みんな幸せになりたいし成果を出したいじゃないですか。それってどうやって向き合えばいいんですか?

青木:もう、自分が弱いことを知るしかないですよ。認めるしかないです。

三浦:認める。

青木:それで、弱いからがんばるってところにいくしかないですよ。そこで変に、「俺は強い」とか「大丈夫だ」って自分に嘘をつくと、自分が作り上げたもので自分のクビをしめちゃいますから。「楽しい」「俺は怖くない」とかって言うのもいいんですけど、マイナスなことにもちゃんと向き合ってあげたほうがいいです。

三浦:なるほどね。でも弱いとわかってても、「俺には才能がある」とか「俺はがんばるんだ」って人間だから思いたいじゃないですか。どうやったら自分の弱さを素直に認められるんですかね。

青木:いや、恥かくことですよ。それに尽きます。

三浦:僕が初めて青木さんと対談させてもらったときに、これまでの格闘人生でベストバウトは何ですか?って質問したときに、青木さんは「長島自演乙雄一郎選手にぶっ飛ばされた試合」って言ってて、僕はそのことが頭から離れなくなったんです。

青木:あれほど、ファイターとして恥ずかしい姿勢を世に見せる試合はないから。あれ以来、恥ずかしいと思ったことはないですね。恥ずかしい経験が、自信というか強さになった。

三浦:たぶんまだ自分の弱さを認められてない人がいたら、勇気を出して恥ずかしい経験をしたほうがいいのかもしれませんね。

青木:もちろん個々人で守るものもあると思います。でもそのうえで、「もう知らねえよ」ってなれたら強いですよね。やっぱり、一回死んでるやつは強い。

三浦:死んでるっていうのは、一度大恥をかいて、もしかしたら表舞台にはもう出れないんじゃないかっていう経験をしてる人のことですね。

青木:僕も三浦さんもそうだけど、恥をかいてないとダメだし、恥をかいた人は他人の痛みがわかる優しさみたいなものがあります。厳しくもなれるし、優しくもなれるんです。

三浦:恥をかくほどのデカいチャレンジって、踏み出す勇気もいるじゃないですか……。

青木:それね。すごい教科書通りに言うと「リスクを恐れず!」とか言うんですよ。でもこれは行かされないと無理だと思います。

三浦:「行かされる」というのは、バンジージャンプみたいに自分から飛び降りるんじゃなくてってこと?

青木:そんなの無理無理。みんな正論で、好きだったら行かなきゃとか、好きを仕事にとか言うけど、「いいから行け!ドーン!」くらいの勢いで強制的に押されないとバンジージャンプも無理なんです。

三浦:逆に言うと、その一押しをしてくれる人に対して、素直になれる自分がいるかどうかって大事ですよね。

青木:格闘技をするなかでもそういう人がいて、「うるせえ行け!」「ハイ!わかりました!」だったから。そこがないとダメですね。

三浦:恥をかいて、自分の弱さを認めるにも、だれかの助けがいるのかもしれないですね。

 不安や嫉妬心を刺激されやすい時代だからこそ、「ブレない自分らしさ」が求められています。書籍ではこうした精神論だけでなく、「内蔵を鍛えろ」「運動の本質は体内の水分を入れ替えること」など、超一流アスリートにしか語れないフィジカルな話題も多く出てきます。

 読むと改めて人生に勇気を与えてくれる1冊です。

文・写真=渡辺静